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第42話 これは見事な。

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 パンは歯触りがよく、外側はさくさく、内側はもちもち。ノールウッド集落への道中で食べたようなパンとは、比べものにならないほどに香ばしいし、歯ごたえも味も格別。やっぱり、牛がいるのかな? バターっぽい香りがする、もったりとした油が塗られてるんだよ。

 この肉も、燻製はされてないみたいだけど、適度な塩味と辛さがあって、ベーコンみたいな感じ。もちろん、脂身も旨いんだ。両面焼いてある|堅焼きの目玉焼き。確か、『ターンオーバー』や『オーバーハード』っていう焼き方だったよね。これがまた、んまいのよ。表面に塩こしょう味、黄身の味が濃厚でなんともいえないんだ。葉野菜も、煮たんじゃなく湯がいた感じ。軽く絞ってあって、塩味がついてる。歯ごたえも残ってて、おひたしにもちょっと似てる付け合わせだね。うまいわー。

「うん。すっごく美味しい。ほんとに料理上手だったんだね」
「ありがとうございます。ご理解いただいて、嬉しゅうございます」

 ロザリアさんの口角が上がってる。ほんとにそう思ってくれるんだね。あのとき、『あとで見ていろ。驚かせてやるからな?』って言ってたっけ。うん、驚いた。俺なんかが作る男の適当料理と違って、見た目も華やかさがあって、味も申し分ない。

「うん。完敗。まいりました。……あ、ロザリアさんは朝食とらないの?」
「いえ、その、味見をしているうちに、満足してしまいまして」
「料理中あるあるなんだね」
「なんともお恥ずかしい限りでございます……」

 朝食を食べ終わり、お茶を入れてもらって寛いでるとき。

「ご主人様。本日のご予定はいかがされるのです?」
「とりあえずみんなところへ行って、ギルド登録の手伝いかな? あ、ロザリアさんはどうする?」
「……あの、あたくしは、ギルドの総支配人殿にその、ですね」
「もしかして、プライヴィアさんが言ってた『漆黒のロザリア』って?」
「お察しの通りでございます。あたくしの名は、冒険者や始末人など、一部の者に知られているということです。あたくしは表に出るつもりはありません。ロザリアというのは、あたくしが幼い頃に呼ばれていた愛称のようなものです。お屋敷の外は、あたくしを『ロザリエール』とお呼びくださいまし」
「あ、うん。わかったよ」
「ありがとうございます」

 そっか。ロザリアは愛称、ということはロザリエールさんの名前は、もしかしたらこの世界では珍しくはない名前なのかもだね。俺みたいな名前とは違うんだろうな。

 暗殺者――いや、始末人か。……そのときに使ってたのも『ロザリア』だったたんだ。二つ名として、プライヴィアさんは知っていた。それくらい、裏では有名ということなんだろう。俺は知らなかったけどね。

 でもなんで愛称を、外の名前にしてたんだろう? おそらくだけど、元々は暗殺を請け負うつもりはなかったんだろうと思うんだ。

「ロザリ、エー、ルさんは」
お屋敷こちらではどのようにお呼びいただいてもかまいませんよ」
「いいや、俺も慣れなきゃ駄目でしょう? その、ロザリエールさんはさ、このあとどうするの?」
「あたくしもあの子たち、いえ、皆のところへ行くつもりです」
「そうなんだ」
「はい。ただその前にですね、あたくしが身につけているこの服は少々古いもので、きつく感じる部分もあり、動きづらいとも感じました。宿舎へ向かう途中にみかけた服飾店へ寄るつもりです」
「うん。そうするといいよ」
「ありがとうございます」
「俺は先に行ってるね」
「はい、さようでございますね。いってらっしゃいませ、ご主人様」
「うん、あっちでまた」

 俺は屋敷を出ると、一度黒森人族みんなの宿舎へ向かった。屋敷から歩いて十分ほど。途中確かに、雑貨屋や、果物を売る店、服飾店、もあるね。案外便利な場所に住んでるんだな、俺。ギルドとは逆方向だったから、気づかなかったよ。

 それだけこのワッターヒルズは広くて、多くの人が住んでるってことだ。ここに来てまだ間もないけれど、知らないお店の人にも手を振ってもらえるから。昨日のドライフルーツを売ってたお店の店主もそうだった。俺も暖かく受け入れてもらってるのがよくわかる。

「おはようございます」

 コーベックさんや、他の青年が五人くらい住居の前の道を掃除してる。道行く人に挨拶してる。とてもよい笑顔だよ。近所の人と何やら話してる。その人も笑顔だ。コミュ力、すげぇ……。

 昨日の今日で、こんなことできるんだ? 日本で営業職じゃなかった俺には、とてもじゃないけど無理かもだわ。あれだけ遠くにあって、閉鎖的な環境に見えた集落から来たのに。このワッターヒルズに馴染んでいないはずなのに。おそらく皆で話し合ったんだろう。

「おはよう」
「あ、おはようございます。お館様」

 コーベックさんはそう呼ぶわけね。たぶん他の人も同じだろうね。まだご主人様よりはいいんだけどさ。

「困ったことはない?」
「はい。ロザリエールさんから預かりました、予算で十分間に合っております」
「部屋は狭くないかな?」
「十分な広さがあって快適です。なによりあの大浴場。天井の高さと開放感、浴槽の広さ。足が伸ばせるのは、あれほど幸せだとは思いませんでした」

 そういや集落にあった湯船は五右衛門風呂みたいなヤツだったから。きっと俺と同じ感覚なんだね。そういや、同じようなことをロザリア――ロザリエールさんも言ってたっけね。

「そっか、ならよかった。そういやまだ、ギルドへ行ってないよね? 付き添いしようかと思ったんだけど」
「助かります。場所はさきほど散歩して、ご近所の方々から伺いました」
「それなら先に行ってるね」
「はい、では後ほど」

 あ、画面出しっぱなし。最近気にならなくなったな……。魔素量はもう戻ってるね。ほんの一部だけ、減ったり増えたりしてる分はきっと、『リザレクト』の消費量なんだろうな。俺、どれだけ魔素量増えたんだろう? 最近確認してなかったから――ちょっ!

 魔素量:3D3979

 ちょっとなんだよこれ? 979もあるのか。そりゃ、夜通し削られても半分以下に減らないわけだ。でもこれなら、多少無理して治療する人数増やしても、倒れたりしないんじゃね?

 『リザレクト』より上位の呪文があるかどうか、わかんないから古い文献探してもらおうかな? でも、十分のように思えるんだよ。魔素量が増えると、一度に放出できる瞬間的な魔素量も、増える。そうすると、回復効果も上がるんだよね。日々これ鍛錬。続けない選択肢は、ないね。

 起き抜けに感じたのが、二日酔いだったのか? それとも、魔素が半分に減って気持ち悪くなったのか? よくわかんないや。『デトキシ』で楽になったから、二日酔いだったことにしよう。じゃないと、人間離れしちゃってる気がして、ならないんだよ……。うん、気にしない、それが一番。

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