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第34話 言いにくいことだけど。
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木の根からどろりと垂れる、目に見える悪素と直面した帰りの馬車の中、俺はロザリアさんに相談したんだ。
「あのさ。こっちで、治療を終えたら一度帰って、今後の対策を考えようかと思ってた」
「あぁ」
「けれど、そうじゃない場合も想定してた」
「あぁ」
「俺はさ、皆の身体を治せたんだろうけど、この土地は治すことができない。自分の目で見て、触ってみてよくわかったよ。悪素は、人だけじゃなく住んでいる場所も壊す」
「そうだな」
「ロザリアさんもわかってると思うけど、あの集落はもう駄目だ」
「わかってる。わかってるけど……」
「だから俺はね、休みをもらって馬車を借りるときに、冒険者ギルドの総支配人、虎人族のプライヴィアさんに相談しておいたんだ」
「何をだ?」
「『集落ごとの受け入れをお願いするかもしれない』って」
「……え?」
「もちろん、『別に構わないと思うよ』と、二つ返事で許可をもらってる」
「そ、そんなこと、許されるものなのか?」
「プライヴィアさんは言ったんだ。『どうせ、ソウトメ殿が責任を持つんだろう?』って。俺は二つ返事で『そのつもり』って答えた。悪素毒に関しては、ワッターヒルズも根本的な解決には至ってない。だから俺はあっちに戻って、まだたくさんの人を治す予定になってるからね」
「……あたいはもしや、酷いことしたの、か?」
「大丈夫。ワッターヒルズもさ、症状の酷い人から治療終えてるから。こっちは30人ほどだと聞いてた。あっちはその何倍もいる。だから時間だってまだまだかかる。それなら『少しくらい寄り道をしても大丈夫だろう?』って思ったんだ」
「うん」
「だからさ、悪いんだけどこの集落は捨てよう。なに、あれだけ大きなワッターヒルズだから、仕事だっていくらでもあるよ。そうすりゃこっちよりはちゃんと、食べていけるはずだから」
「うん、うん……」
ロザリアさんは、俺の手を握って、また涙を流してる。二頭のお馬さんたちは、行き先わかってるみたいだから、気にしないで進んでくれてるけどね。
「だからさ、ロザリアさんも、みんなも、俺と一緒にワッターヒルズに戻らないか?」
「いいのか?」
「だーかーら、『俺が責任持つ』ってことになってるんだって。だから諦めてくれる?」
「わ、わかった。あきらめて、お世話になることにしよう」
「そう言ってもらえると、助かるよ」
ややあって集落に到着。ロザリアさんは、この集落はもう駄目だということを、受け入れる都市があることを話した。族長だったロザリアさんの言葉と、悪素毒被害を治した俺を信じてくれたのか、移住することを了承してくれた。
皆さんが荷造りをしている間、俺はこの集落にある厩舎に来ていた。ここには、農耕や物資の買い付けに必要な馬が5頭ほどいるんだ。皆、やや痩せていて、力なく横たわっている。おそらくは、この馬たちも悪素毒に侵されてるはずだ。
「俺の言葉が届くかわからないけど、よく今まで耐えてくれたね」
一頭ずつ背中に触れて、『ディズ・リカバー』と『フル・リカバー』をかける。すると、彼らはきょとんとした目で俺を見るんだ。全員治療を終えると、多めにもらっていた飼い葉と水を分け与える。
「食べて飲んで、少しでも回復してくれたら助かる。これから三日は、歩いてもらうからね」
「こんなところにいたのか、……ですね」
「あ、ロザリアさん。なんだか、変な言葉使いになってない?」
「き、気にしないでくれ、……ください」
「あ、そうだ。荷馬車、あるって言ってたよね?」
「あぁ、はい」
なんだか、調子狂うな。どうしたんだろう?
「小さい子含めて30人でしょう? 5台もある?」
「直せば、使えるのがあるはずだ、ですけど」
「今から直して、間に合うものなの?」
「あぁ、そういうのはあたいらは得意だ、ですから」
よくよく考えたら、気づいてもよかったはず。屋敷の建材が、どれだけ立派な加工がされていたか。集落内の道という道、その路面の転圧や、厩舎の建物に至るまで。木製とはいえ、『もとからそのように寄り添っている』かのような、接合がされてるほどにしか見えない。もしかしたら、とんでもない技術を持ってるみたいなんだ。
ロザリアさんがコーベックさんに伝えて、小一時間ほどで荷馬車の修理を終えてしまうんだよ。元々なかった幌までつけたり、あの布地を張った骨の曲げ加工。凄すぎるってば……。
「どうしても持って行きたい、大物ってあるかな?」
俺はコーベックさんに聞いてみた。
「大丈夫です」
「食べ物はさ、同じものになっちゃうけど、三日は余裕で持つから心配しないで」
「何から何まで、ありがとうございます」
「……あの」
「なんです?」
コーベックさんの隣にいたブリギッテさん。
「姫様――いえ、族長はですね」
今、姫様って言ったよね? やっぱりそう呼ばれてるんだ。小国の姫君が暗殺者とか、まるで物語な展開だよ。
「えぇ」
「小さなころから、弓、小剣などの武技を鍛錬してきました。もちろん、狩猟のためと、万が一、私たちの集落に訪れる何かから守ってくれるためですね」
「あぁ、それであれだけ」
「責任感が強くて、少々思い込みも強くて、涙もろくて」
あらあら、言われたい放題だね。思い込みが強いって、クーデレだけじゃなく、ヤンデレの素質もあるってこと? 属性盛り盛りだ。
「えぇ」
「先代様と奥方様が亡くなってから、まだ10年ほどです。そのせいもあって、『族長なんだから、外部の者に嘗められてはいけない』と、言葉遣いも男勝りなものを使うようになり、今に至っているのです。元々は、穏やかでとても優しいお姉さんだったんです」
「そうなんですね」
「私たちの親の代は皆、先代様と同じ時期に亡くなりました。ここでは姫様――族長が、一番年上なんです。だからでしょう。余計に意固地になってしまって……」
「なるほどね。これからは少なくとも、最低限、悪素毒に怯えることなく生活できると思う。状態が悪くなったら、俺が治してあげられるからね。これから行くワッターヒルズでも、悪素毒を解決されているわけじゃないけど、住む場所も提供してもらえる約束になってる。一応俺が集落全体の後見人みたいなものだから、気兼ねする必要もないよ。あ、でも、仕事はしてもらうから、そのつもりで」
「それはもちろんです」
コーベックさんが笑う。よかった、一番症状が重かった人だからさ。
「よろしくお願いしますね、族長のこと」
「あー、うん。俺が『これからすること』に、ロザリアさんは必要だから。こっちからお願いしたいところなんだよね」
少なくとも、あの手配書を作った人たちには、『お礼』をしなければならないから。
「それを聞いて、安心しました」
「とことでさ」
「なんですか?」
「ここだけの話、ロザリアさんって、料理どんな感じなの?」
「はい。私たちも姫様から教わったんです。見事な腕前ですよ」
「そ、そうなんだ、……よかった」
大店のお嬢様とか、貴族のお嬢様とか、メシマズはテンプレだから、ちょっとびくびくしてました。なんて言えないからね。
「あのさ。こっちで、治療を終えたら一度帰って、今後の対策を考えようかと思ってた」
「あぁ」
「けれど、そうじゃない場合も想定してた」
「あぁ」
「俺はさ、皆の身体を治せたんだろうけど、この土地は治すことができない。自分の目で見て、触ってみてよくわかったよ。悪素は、人だけじゃなく住んでいる場所も壊す」
「そうだな」
「ロザリアさんもわかってると思うけど、あの集落はもう駄目だ」
「わかってる。わかってるけど……」
「だから俺はね、休みをもらって馬車を借りるときに、冒険者ギルドの総支配人、虎人族のプライヴィアさんに相談しておいたんだ」
「何をだ?」
「『集落ごとの受け入れをお願いするかもしれない』って」
「……え?」
「もちろん、『別に構わないと思うよ』と、二つ返事で許可をもらってる」
「そ、そんなこと、許されるものなのか?」
「プライヴィアさんは言ったんだ。『どうせ、ソウトメ殿が責任を持つんだろう?』って。俺は二つ返事で『そのつもり』って答えた。悪素毒に関しては、ワッターヒルズも根本的な解決には至ってない。だから俺はあっちに戻って、まだたくさんの人を治す予定になってるからね」
「……あたいはもしや、酷いことしたの、か?」
「大丈夫。ワッターヒルズもさ、症状の酷い人から治療終えてるから。こっちは30人ほどだと聞いてた。あっちはその何倍もいる。だから時間だってまだまだかかる。それなら『少しくらい寄り道をしても大丈夫だろう?』って思ったんだ」
「うん」
「だからさ、悪いんだけどこの集落は捨てよう。なに、あれだけ大きなワッターヒルズだから、仕事だっていくらでもあるよ。そうすりゃこっちよりはちゃんと、食べていけるはずだから」
「うん、うん……」
ロザリアさんは、俺の手を握って、また涙を流してる。二頭のお馬さんたちは、行き先わかってるみたいだから、気にしないで進んでくれてるけどね。
「だからさ、ロザリアさんも、みんなも、俺と一緒にワッターヒルズに戻らないか?」
「いいのか?」
「だーかーら、『俺が責任持つ』ってことになってるんだって。だから諦めてくれる?」
「わ、わかった。あきらめて、お世話になることにしよう」
「そう言ってもらえると、助かるよ」
ややあって集落に到着。ロザリアさんは、この集落はもう駄目だということを、受け入れる都市があることを話した。族長だったロザリアさんの言葉と、悪素毒被害を治した俺を信じてくれたのか、移住することを了承してくれた。
皆さんが荷造りをしている間、俺はこの集落にある厩舎に来ていた。ここには、農耕や物資の買い付けに必要な馬が5頭ほどいるんだ。皆、やや痩せていて、力なく横たわっている。おそらくは、この馬たちも悪素毒に侵されてるはずだ。
「俺の言葉が届くかわからないけど、よく今まで耐えてくれたね」
一頭ずつ背中に触れて、『ディズ・リカバー』と『フル・リカバー』をかける。すると、彼らはきょとんとした目で俺を見るんだ。全員治療を終えると、多めにもらっていた飼い葉と水を分け与える。
「食べて飲んで、少しでも回復してくれたら助かる。これから三日は、歩いてもらうからね」
「こんなところにいたのか、……ですね」
「あ、ロザリアさん。なんだか、変な言葉使いになってない?」
「き、気にしないでくれ、……ください」
「あ、そうだ。荷馬車、あるって言ってたよね?」
「あぁ、はい」
なんだか、調子狂うな。どうしたんだろう?
「小さい子含めて30人でしょう? 5台もある?」
「直せば、使えるのがあるはずだ、ですけど」
「今から直して、間に合うものなの?」
「あぁ、そういうのはあたいらは得意だ、ですから」
よくよく考えたら、気づいてもよかったはず。屋敷の建材が、どれだけ立派な加工がされていたか。集落内の道という道、その路面の転圧や、厩舎の建物に至るまで。木製とはいえ、『もとからそのように寄り添っている』かのような、接合がされてるほどにしか見えない。もしかしたら、とんでもない技術を持ってるみたいなんだ。
ロザリアさんがコーベックさんに伝えて、小一時間ほどで荷馬車の修理を終えてしまうんだよ。元々なかった幌までつけたり、あの布地を張った骨の曲げ加工。凄すぎるってば……。
「どうしても持って行きたい、大物ってあるかな?」
俺はコーベックさんに聞いてみた。
「大丈夫です」
「食べ物はさ、同じものになっちゃうけど、三日は余裕で持つから心配しないで」
「何から何まで、ありがとうございます」
「……あの」
「なんです?」
コーベックさんの隣にいたブリギッテさん。
「姫様――いえ、族長はですね」
今、姫様って言ったよね? やっぱりそう呼ばれてるんだ。小国の姫君が暗殺者とか、まるで物語な展開だよ。
「えぇ」
「小さなころから、弓、小剣などの武技を鍛錬してきました。もちろん、狩猟のためと、万が一、私たちの集落に訪れる何かから守ってくれるためですね」
「あぁ、それであれだけ」
「責任感が強くて、少々思い込みも強くて、涙もろくて」
あらあら、言われたい放題だね。思い込みが強いって、クーデレだけじゃなく、ヤンデレの素質もあるってこと? 属性盛り盛りだ。
「えぇ」
「先代様と奥方様が亡くなってから、まだ10年ほどです。そのせいもあって、『族長なんだから、外部の者に嘗められてはいけない』と、言葉遣いも男勝りなものを使うようになり、今に至っているのです。元々は、穏やかでとても優しいお姉さんだったんです」
「そうなんですね」
「私たちの親の代は皆、先代様と同じ時期に亡くなりました。ここでは姫様――族長が、一番年上なんです。だからでしょう。余計に意固地になってしまって……」
「なるほどね。これからは少なくとも、最低限、悪素毒に怯えることなく生活できると思う。状態が悪くなったら、俺が治してあげられるからね。これから行くワッターヒルズでも、悪素毒を解決されているわけじゃないけど、住む場所も提供してもらえる約束になってる。一応俺が集落全体の後見人みたいなものだから、気兼ねする必要もないよ。あ、でも、仕事はしてもらうから、そのつもりで」
「それはもちろんです」
コーベックさんが笑う。よかった、一番症状が重かった人だからさ。
「よろしくお願いしますね、族長のこと」
「あー、うん。俺が『これからすること』に、ロザリアさんは必要だから。こっちからお願いしたいところなんだよね」
少なくとも、あの手配書を作った人たちには、『お礼』をしなければならないから。
「それを聞いて、安心しました」
「とことでさ」
「なんですか?」
「ここだけの話、ロザリアさんって、料理どんな感じなの?」
「はい。私たちも姫様から教わったんです。見事な腕前ですよ」
「そ、そうなんだ、……よかった」
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