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第28話 急いで行かなきゃ。
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どれだけ長いかは想像できないけれど、彼女はおそらく、盗賊などの犯罪者を『暗殺』することを、生業としていたんだろうなと思う。なにせ俺を殺そうとしたとき、彼女が何をしたのかぜんぜん見えなかった。それに、俺から離れようとしたときに取った方法も、『目元をこすりつける』という簡単なものだったけれど俺じゃ考えつかないものだったから。
そんな彼女がだよ? 俺が入れ直した温かい飲み物を、警戒せずに飲むんだよ。『一応』と彼女は言うけれど、それよりはもちょっとだけ多く、信じてくれたのかもしれない。俺はそう思ったんだ。
「……あたいはな、報酬の代わりにな、ある魔道具を融通してもらうことになっていたんだ」
「魔道具?」
「タツマ、さん」
「タツマでいいよ」
「そうか。タツマ、あんた、『魔石中和法魔道具』という名を聞いたことはないか? 名前のとおり、悪素を中和する効果があるものだと聞いてる。あの国でも、もしかしたらこの都市でも使われてるかもしれない、ものすごく高価な魔道具でな――」
ロザリアさんの話では、悪素を含んだ水に沈めて中和する。その水を飲み水にするんだってさ。中和であって浄化や除染ではないから、悪素は微量に残ってしまうらしい。その悪素が体内に蓄積されるとあのようになる。なるほどね。
狩猟で捕らえた獲物や、収穫された根菜などにも悪素は含まれている。水を浸透させて、肉や根菜などに含まれている分をそのまま中和するみたいな使い方もされる。大きな国や町では、生活に必要な魔道具らしい。
正直、知らなかったよ。俺が食べてた料理も、俺が毎日入ってた宿屋の風呂の水も、おそらくそうしたものだったんだろうな。
魔道具は、金があれば簡単に買えるような代物じゃないらしい。彼女の集落には、その魔道がなくて、売ってくれる場所を探していたそうだ。ダイオラーデンは魔道具を作っている国でもあって、それで購入するには何年も待たなきゃならないと言われたそうだ。
あの依頼主は、その魔道具を『貴族という立場を利用して』優先的に入手できると説明があったらしい。もちろん報酬は金でなく、その魔道具そのものでもいいと言われたそうだ。もしかしたら、あらかじめロザリアさんが欲しがっているという情報を、手に入れていたのかもしれないな。
「あたいの集落はな、悪素が少し離れた場所にあるんだ」
「ある?」
「すまん、言い方が悪かった。『少し離れた場所まで迫ってきている』と言うべきだったな。木の根元を掘ると、そこにどろっとしたものが見えることがある。それが悪素だって教わったんだ」
「それって、どれくらい離れてるの?」
「そうだな、……歩いて一晩、というところだろうか?」
頭の中で『個人情報表示』を唱える。なんだかんだで夜通し話してたみたいで、時間は朝の八時を過ぎてた。よし、決めた。
「行こう」
「え?」
「俺、ギルドで説明して『時間』をもらってくる。すぐ戻るから待ってて、そしたらすぐに集落に行こう」
「いいのか?」
「いいよって、言ったじゃない? とにかくじっとしていられないんだ」
「……ありがとう」
「集落までここからどれくらいかかりそう?」
「そうだな。馬車でなら三日の距離、というところだろうか?」
往復六日。滞在も含めて一週間はかるくかかるか。
「んー、ロザリアさんは、馬車、運転、いや、操舵、いや、何て言うんだっけ?」
「操縦か?」
「そう言うんだ? できる?」
「あぁ、できるが」
「よかった。俺できないから助かる。頼むからさ、また消えたりしないでよ? どこにも行かないでよ? いいね?」
「当たり前じゃないか、タツマ。あんたがいたら、あの子たちが助かるかもしれないんだ……」
「ありがとう。約束だからね? じゃ、ちょっと行ってくる」
俺は屋敷にロザリアさんを残して、ギルドへ向かった。
ギルドの建物に入ると、笑顔でクメイリアーナさんが迎えてくれる。うん、ケモミミしっぽ、最高だよね。いや、今はそんな余裕はないんだ。
「総支配人さん、もう来てる?」
「はい、ついさきほど」
「よかった、詳しい話は直接言うから」
俺は受付の左にある扉から中に入る。総支配人室の扉をノック。
「プライヴィアさん」
『入ってくれ』
こうするのは俺くらいらしいんだ。許可が出たから入らせてもらう。
「どうした? 何か困りごとか?」
「どうしてそれを?」
「総支配人になって長いんだ。ある程度ならね、人の表情くらいは読めるようになるもんだよ。それでどうしたんだい?」
「数日、ん、……短くて七日、長くて十日ほど、休むことになるかと思います。それと、馬車を一台都合して欲しいです。あと、もしかしたら、集落ごとの受け入れをお願いするかもしれません」
「ゆっくりしてくるといい、とは言えないけれど、別に構わないと思うよ。受け入れに関しては、土地なんていくらでもある。外壁外して広げたらいいだけだからな」
「助かります」
「どうせ、ソウトメ殿が責任を持つんだろう?」
「そのつもり」
「それならこのワッターヒルズに拒む者はないさ。聖人様の頼みは断れないだろうからね」
「からかわないでくださいって。そんなつもりはないんですから」
「馬車はすぐに用意させる。聞いてるね? クメイくん」
「は、はいっ」
扉越しに聞こえるクメイリアーナさんの声と、走り去っていく足音。聞き耳たてていたんですね。心配させちゃったのかなぁ?
「あははは。気に入られてるね、どうだい? 丈夫な腰つきしてると思うんだけど」
「だから俺には、気になってる人がいるって」
「あははは。そくし――いや、考えてくれるだけでいいよ」
即死? 促進? まさか側室だったりして? まったく何考えてるんだか? でも、こんなときだから、冗談言って落ち着かせようとしてくれるのは嬉しい。
「それじゃ、いってきます」
俺は総支配人室を出る。通路を抜けてギルドの受付へ。
「ソウトメ様」
「あ、はい。だーかーら。『様』はやめてほしいって」
「お急ぎですよね?」
「はい。ごめんなさい」
「馬車は、どちらへお届けすればよろしいですか?」
「そうだね……」
「よろしければ、私が現地まで――」
「嬉しいけどそれは勘弁。あのね、これから行くところは、ここより悪素毒被害の強い場所なんだ」
「そうでしたか。申し訳ありません、つい……」
だからそんなにしょんぼりしなくてもいいですって。俺のことを気遣ってくれてるのは十分わかってるんだから。
「わかってくれたらいいんです。それなら、屋敷へお願いできますか?」
「はい。後ほど、お届けいたしますので、少々お待ちくださいね」
「ありがとう」
「いいえ。いいんです」
そんな彼女がだよ? 俺が入れ直した温かい飲み物を、警戒せずに飲むんだよ。『一応』と彼女は言うけれど、それよりはもちょっとだけ多く、信じてくれたのかもしれない。俺はそう思ったんだ。
「……あたいはな、報酬の代わりにな、ある魔道具を融通してもらうことになっていたんだ」
「魔道具?」
「タツマ、さん」
「タツマでいいよ」
「そうか。タツマ、あんた、『魔石中和法魔道具』という名を聞いたことはないか? 名前のとおり、悪素を中和する効果があるものだと聞いてる。あの国でも、もしかしたらこの都市でも使われてるかもしれない、ものすごく高価な魔道具でな――」
ロザリアさんの話では、悪素を含んだ水に沈めて中和する。その水を飲み水にするんだってさ。中和であって浄化や除染ではないから、悪素は微量に残ってしまうらしい。その悪素が体内に蓄積されるとあのようになる。なるほどね。
狩猟で捕らえた獲物や、収穫された根菜などにも悪素は含まれている。水を浸透させて、肉や根菜などに含まれている分をそのまま中和するみたいな使い方もされる。大きな国や町では、生活に必要な魔道具らしい。
正直、知らなかったよ。俺が食べてた料理も、俺が毎日入ってた宿屋の風呂の水も、おそらくそうしたものだったんだろうな。
魔道具は、金があれば簡単に買えるような代物じゃないらしい。彼女の集落には、その魔道がなくて、売ってくれる場所を探していたそうだ。ダイオラーデンは魔道具を作っている国でもあって、それで購入するには何年も待たなきゃならないと言われたそうだ。
あの依頼主は、その魔道具を『貴族という立場を利用して』優先的に入手できると説明があったらしい。もちろん報酬は金でなく、その魔道具そのものでもいいと言われたそうだ。もしかしたら、あらかじめロザリアさんが欲しがっているという情報を、手に入れていたのかもしれないな。
「あたいの集落はな、悪素が少し離れた場所にあるんだ」
「ある?」
「すまん、言い方が悪かった。『少し離れた場所まで迫ってきている』と言うべきだったな。木の根元を掘ると、そこにどろっとしたものが見えることがある。それが悪素だって教わったんだ」
「それって、どれくらい離れてるの?」
「そうだな、……歩いて一晩、というところだろうか?」
頭の中で『個人情報表示』を唱える。なんだかんだで夜通し話してたみたいで、時間は朝の八時を過ぎてた。よし、決めた。
「行こう」
「え?」
「俺、ギルドで説明して『時間』をもらってくる。すぐ戻るから待ってて、そしたらすぐに集落に行こう」
「いいのか?」
「いいよって、言ったじゃない? とにかくじっとしていられないんだ」
「……ありがとう」
「集落までここからどれくらいかかりそう?」
「そうだな。馬車でなら三日の距離、というところだろうか?」
往復六日。滞在も含めて一週間はかるくかかるか。
「んー、ロザリアさんは、馬車、運転、いや、操舵、いや、何て言うんだっけ?」
「操縦か?」
「そう言うんだ? できる?」
「あぁ、できるが」
「よかった。俺できないから助かる。頼むからさ、また消えたりしないでよ? どこにも行かないでよ? いいね?」
「当たり前じゃないか、タツマ。あんたがいたら、あの子たちが助かるかもしれないんだ……」
「ありがとう。約束だからね? じゃ、ちょっと行ってくる」
俺は屋敷にロザリアさんを残して、ギルドへ向かった。
ギルドの建物に入ると、笑顔でクメイリアーナさんが迎えてくれる。うん、ケモミミしっぽ、最高だよね。いや、今はそんな余裕はないんだ。
「総支配人さん、もう来てる?」
「はい、ついさきほど」
「よかった、詳しい話は直接言うから」
俺は受付の左にある扉から中に入る。総支配人室の扉をノック。
「プライヴィアさん」
『入ってくれ』
こうするのは俺くらいらしいんだ。許可が出たから入らせてもらう。
「どうした? 何か困りごとか?」
「どうしてそれを?」
「総支配人になって長いんだ。ある程度ならね、人の表情くらいは読めるようになるもんだよ。それでどうしたんだい?」
「数日、ん、……短くて七日、長くて十日ほど、休むことになるかと思います。それと、馬車を一台都合して欲しいです。あと、もしかしたら、集落ごとの受け入れをお願いするかもしれません」
「ゆっくりしてくるといい、とは言えないけれど、別に構わないと思うよ。受け入れに関しては、土地なんていくらでもある。外壁外して広げたらいいだけだからな」
「助かります」
「どうせ、ソウトメ殿が責任を持つんだろう?」
「そのつもり」
「それならこのワッターヒルズに拒む者はないさ。聖人様の頼みは断れないだろうからね」
「からかわないでくださいって。そんなつもりはないんですから」
「馬車はすぐに用意させる。聞いてるね? クメイくん」
「は、はいっ」
扉越しに聞こえるクメイリアーナさんの声と、走り去っていく足音。聞き耳たてていたんですね。心配させちゃったのかなぁ?
「あははは。気に入られてるね、どうだい? 丈夫な腰つきしてると思うんだけど」
「だから俺には、気になってる人がいるって」
「あははは。そくし――いや、考えてくれるだけでいいよ」
即死? 促進? まさか側室だったりして? まったく何考えてるんだか? でも、こんなときだから、冗談言って落ち着かせようとしてくれるのは嬉しい。
「それじゃ、いってきます」
俺は総支配人室を出る。通路を抜けてギルドの受付へ。
「ソウトメ様」
「あ、はい。だーかーら。『様』はやめてほしいって」
「お急ぎですよね?」
「はい。ごめんなさい」
「馬車は、どちらへお届けすればよろしいですか?」
「そうだね……」
「よろしければ、私が現地まで――」
「嬉しいけどそれは勘弁。あのね、これから行くところは、ここより悪素毒被害の強い場所なんだ」
「そうでしたか。申し訳ありません、つい……」
だからそんなにしょんぼりしなくてもいいですって。俺のことを気遣ってくれてるのは十分わかってるんだから。
「わかってくれたらいいんです。それなら、屋敷へお願いできますか?」
「はい。後ほど、お届けいたしますので、少々お待ちくださいね」
「ありがとう」
「いいえ。いいんです」
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