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第24話 俺を信じてくれた人に失礼だから。
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回復属性のレベルが3Cになった翌日、俺は一日だけ休みをもらった。やることは決まってる。もちろん、リザレクトの検証作業だ。魔法の性質上、簡単には確認しようがない。色々考えた結果、俺はワッターヒルズの外側にある河原に来ていた。
河原、川辺、河川敷、あちらの世界ではサイクリングロードがあったり、グラウンドやゴルフ場があったりと、散歩や運動をする場所というイメージが強かった。だが、こちらの世界では趣味嗜好が違うからか、遊びに来る人はあまりいないようだ。
まだ、午前八時過ぎということもあって、ここへ来るまでの町中もあまり人がいなかった。ただでさえ冬が近くて朝晩は冷え込んでくると言うのに、好き好んで水辺に来る人もいないんだろう。
俺は、雑貨屋で買ったバケツをインベントリから取り出した。水が沁みないように加工されている、風呂場を掃除するときなどに履く、長靴のようなものも取り出す。靴を履き替え、浅い川の中をじゃぶじゃぶ歩いて行く。目についた40センチほどの大きな石をひっくり返して、そこに這う小さな虫を見つける。
「おぉ、いたいた。いると思ったんだよね」
俺ワッターヒルズの傍にある河原まで、水生昆虫――川虫を捕りにきた。別にこれから釣りをしようというわけでもないんだ。川虫を使って、ある実験をするため。さすがに、他の生き物や町中で虫を探すのはちょとなと思ったから。
ミミズでもよかったんだけど、こっちにいるかわからないし。おまけにこのワッターヒルズ、畑が少ないんだ。その少ない畑を掘り起こすわけにもいかない。もちろん、花壇もね。あちらにいたときに、小さいころこうして川虫捕って、釣りの餌にしたなと思い出したというわけだった。
何匹か捕まえて、バケツの中に入れる。側面がつるつるしてるからか、上ってくることはないみたいだ。ちょっと登っては、つるりと落ちる。見てるだけで飽きないね。俺は川辺から少し離れた、日当たりの良い場所に腰掛ける。
バケツから一匹取り出して、手のひらの上に乗せて、もう片方の手で覆って逃がさないようにする。あちらにいるときは、例えばコバエなどがいたら気にせず潰していた。蚊もそうだね。鱗粉だらけの蛾や、地面を高速で這い黒光りする、3億年ほど前から存在する『あれ』は、さすがに手では潰せなかったけど。
こちらへきて色々なことがあって、あちらではゲームや物語にしかない魔法なんかも経験して、色々思うようになったんだ。けれどこの方法しか思いつかなかったから、ついこんなことを口ずさんでしまう。
「俺のためでもあるし、みんなのためでもあるんだ。『一寸の虫にも五分の魂』っていうけどさ、頼むから恨まないでくれよ?」
俺は川虫に、そう謝ったんだ。すぐに、手のひらでつくった空間をないものにする。要は、川虫を両方の手のひらで叩いたというわけ。
「うあ、やっぱり潰れちゃったか。……あ、動かなくなった」
手のひらの上で、川虫はぺたんこに潰れ、足も取れちゃって、悲惨な見た目。これだけ潰れちゃったら、針に刺して餌にもできやしない。ただ、ストレス解消にこうしてるわけじゃないんだ。ここでやることはもう決めてあるんだよ。
「えっと、『個人情報表示』。魔素量は満タン」
最初はやっぱり緊張する。息を吸って、吐いて。うん。
「よし、『リザレクト』」
馬鹿なことをしてるように思えるだろう。俺だってそう思う。けれど川虫も生き物なんだ。効くはずなんだよ。この魔法が。
「……すげ、生き返った」
さっきまで潰れて動かなくなっていた川虫が、時間を巻き戻すように膨れて元の形に戻り、細かい足なんかも元通りになって、俺の手のひらから飛び跳ねて逃げていったんだ。
「すげぇ。跳ねる跳ねる」
これが、初めて使った『リザレクト』――蘇生呪文だったんだ。
俺の魔素量は、現在1B4。蘇生呪文で減ったのは、5%に満たない。マナ・リカバーを予めかけておけば、連続して次に発動させるときには、魔素はある程度元に戻ってることになる。
これを、魔法という概念の外にあると思われる、呪いにも近い『パルス』で繰り返し自分にかけ続けていたとしたら。理論的には、『パルス』が俺に『リザレクト』かけてくれるはずだから、殺されてもすぐに蘇生できるはずだ。
今まで『パルス』を使って、『フル・リカバー』をかけ続け、無理をするために疲れを取る方法として、ついでにスキル上げも兼ねて使ってたわけ。けれどさすがに、死ぬのを試すのは躊躇う、怖い。
こうして、川虫が生き返ったのは目で確認できた。けれど人間が生き返るのは、いや、俺が生き返ったことがあるのは、MMOの中でしかないんだ。
何より心配なのは、俺が死んだ瞬間に、あの呪いのような『パルス』が解除されたりしないかどうか。今のところ、寝ても枯れても、解除はされない。魔素が枯渇したら発動しないだけ。呪いのようにありつづけるのが『パルス』というヤバい呪文なんだよ。
自分の魔法を信じられなければ、悪素毒に苦しんでいた人に対して、今まで『信じていない魔法』を使っていたことになる。それは俺を信じてくれた皆さんに対して、凄く失礼なことだ。
だからやるしかないのはわかってる。けど怖いんだよな……。死んじゃって、目の前にオレンジ色のドレスを着た女神様が現れて『あんた、バカ?』って罵られるのは、ちょっといいかもしれないけど――いや、そうじゃないって。どちらにしても、やるか。うん。やろう。
痛いのはやだな。即死できる方法――って、そんなこと考えたことないよ。いや、色々知ってるよ? そりゃさ。一般常識的には。けれど、こっちの世界とあっちの世界、違うじゃない? 高層ビルもないし、電車もバスもない。車も走ってない。テレビ、……は関係ないか。
よし、あそこにしよう。俺は、バケツに残った川虫を川に戻して、インベントリにしまう。そのまま、川の上流側に見えた、崖に上るべく歩いていった。
「――ひょぇええええっ」
足下には河原。大小様々な石だらけ。おおよそ、10メートル、いや20メートル以上はあるだろう。軽くビルの6~7階の高さはありそうだ。うん、死ねる。間違いなく、死ねるわ……。
よし、まずは準備だ。俺は『マナ・リカバー』をかけて魔素の回復を準備させる。『個人情報表示』で画面も出して、魔素の残量を確認。『ディスペル』で、今かかってる『パルス』を解除しておく。
「よし、『パルス』、……『リザレクト』」
魔素残量が減ったことで、確実に『リザレクト』俺自身にかかったことを魔素の減り具合で確認。もちろん、『マナ・リカバー』による魔素の回復も確認できてる。おおよそ10秒後、再度かかることを、その10秒後もかかり続けていることを確認した。
「……すぅ。……ふぅ」
マナが枯渇するまえに試さなければならない。けれど、緊張する。普通に考えたら、あり得ないことをやろうとしてるんだ。普通に生きてたらまず、経験できないことだから。それでも、自分の魔法を信じるしかないんだ。
俺はまるで高飛び込みをする選手のように、両腕を広げた。
「あい・きゃん・ふらいっ。 とうっ!」
飛んだ。まるで往年の変身するヒーローのように。
一瞬の浮遊感。バンジージャンプがこんな感じなんだろうね? やったことないけど。と思ってる間にそのまま落ちる。地面があっという間に近づいてくる。走馬灯、来ないじゃん? あ、地面――
「――はっ。い、生き返った?」
回りには、何も落ちてない。俺の血も流れていない。『個人情報表示』画面には、俺の生命力が九割減って、残り一割ほどになってる。魔素の量は変動がない。これって、蘇生された状態なんだ……。
おおよそ10秒ごとに魔素は減り続けてる。『パルス』は『ディスペル』しない限り、例え死んでも解除されないとかさ、まるで呪いだよほんとに。MMOの中でも何度か、ふざけて崖から飛んでこうしたことがあった。リアルにやるとやばい、急に震えが来たわ……、今更だけど。
これなら何があっても、勝てはしなくとも負けることはない。こうして俺は、『奥の手』を手に入れることができたんだ。
河原、川辺、河川敷、あちらの世界ではサイクリングロードがあったり、グラウンドやゴルフ場があったりと、散歩や運動をする場所というイメージが強かった。だが、こちらの世界では趣味嗜好が違うからか、遊びに来る人はあまりいないようだ。
まだ、午前八時過ぎということもあって、ここへ来るまでの町中もあまり人がいなかった。ただでさえ冬が近くて朝晩は冷え込んでくると言うのに、好き好んで水辺に来る人もいないんだろう。
俺は、雑貨屋で買ったバケツをインベントリから取り出した。水が沁みないように加工されている、風呂場を掃除するときなどに履く、長靴のようなものも取り出す。靴を履き替え、浅い川の中をじゃぶじゃぶ歩いて行く。目についた40センチほどの大きな石をひっくり返して、そこに這う小さな虫を見つける。
「おぉ、いたいた。いると思ったんだよね」
俺ワッターヒルズの傍にある河原まで、水生昆虫――川虫を捕りにきた。別にこれから釣りをしようというわけでもないんだ。川虫を使って、ある実験をするため。さすがに、他の生き物や町中で虫を探すのはちょとなと思ったから。
ミミズでもよかったんだけど、こっちにいるかわからないし。おまけにこのワッターヒルズ、畑が少ないんだ。その少ない畑を掘り起こすわけにもいかない。もちろん、花壇もね。あちらにいたときに、小さいころこうして川虫捕って、釣りの餌にしたなと思い出したというわけだった。
何匹か捕まえて、バケツの中に入れる。側面がつるつるしてるからか、上ってくることはないみたいだ。ちょっと登っては、つるりと落ちる。見てるだけで飽きないね。俺は川辺から少し離れた、日当たりの良い場所に腰掛ける。
バケツから一匹取り出して、手のひらの上に乗せて、もう片方の手で覆って逃がさないようにする。あちらにいるときは、例えばコバエなどがいたら気にせず潰していた。蚊もそうだね。鱗粉だらけの蛾や、地面を高速で這い黒光りする、3億年ほど前から存在する『あれ』は、さすがに手では潰せなかったけど。
こちらへきて色々なことがあって、あちらではゲームや物語にしかない魔法なんかも経験して、色々思うようになったんだ。けれどこの方法しか思いつかなかったから、ついこんなことを口ずさんでしまう。
「俺のためでもあるし、みんなのためでもあるんだ。『一寸の虫にも五分の魂』っていうけどさ、頼むから恨まないでくれよ?」
俺は川虫に、そう謝ったんだ。すぐに、手のひらでつくった空間をないものにする。要は、川虫を両方の手のひらで叩いたというわけ。
「うあ、やっぱり潰れちゃったか。……あ、動かなくなった」
手のひらの上で、川虫はぺたんこに潰れ、足も取れちゃって、悲惨な見た目。これだけ潰れちゃったら、針に刺して餌にもできやしない。ただ、ストレス解消にこうしてるわけじゃないんだ。ここでやることはもう決めてあるんだよ。
「えっと、『個人情報表示』。魔素量は満タン」
最初はやっぱり緊張する。息を吸って、吐いて。うん。
「よし、『リザレクト』」
馬鹿なことをしてるように思えるだろう。俺だってそう思う。けれど川虫も生き物なんだ。効くはずなんだよ。この魔法が。
「……すげ、生き返った」
さっきまで潰れて動かなくなっていた川虫が、時間を巻き戻すように膨れて元の形に戻り、細かい足なんかも元通りになって、俺の手のひらから飛び跳ねて逃げていったんだ。
「すげぇ。跳ねる跳ねる」
これが、初めて使った『リザレクト』――蘇生呪文だったんだ。
俺の魔素量は、現在1B4。蘇生呪文で減ったのは、5%に満たない。マナ・リカバーを予めかけておけば、連続して次に発動させるときには、魔素はある程度元に戻ってることになる。
これを、魔法という概念の外にあると思われる、呪いにも近い『パルス』で繰り返し自分にかけ続けていたとしたら。理論的には、『パルス』が俺に『リザレクト』かけてくれるはずだから、殺されてもすぐに蘇生できるはずだ。
今まで『パルス』を使って、『フル・リカバー』をかけ続け、無理をするために疲れを取る方法として、ついでにスキル上げも兼ねて使ってたわけ。けれどさすがに、死ぬのを試すのは躊躇う、怖い。
こうして、川虫が生き返ったのは目で確認できた。けれど人間が生き返るのは、いや、俺が生き返ったことがあるのは、MMOの中でしかないんだ。
何より心配なのは、俺が死んだ瞬間に、あの呪いのような『パルス』が解除されたりしないかどうか。今のところ、寝ても枯れても、解除はされない。魔素が枯渇したら発動しないだけ。呪いのようにありつづけるのが『パルス』というヤバい呪文なんだよ。
自分の魔法を信じられなければ、悪素毒に苦しんでいた人に対して、今まで『信じていない魔法』を使っていたことになる。それは俺を信じてくれた皆さんに対して、凄く失礼なことだ。
だからやるしかないのはわかってる。けど怖いんだよな……。死んじゃって、目の前にオレンジ色のドレスを着た女神様が現れて『あんた、バカ?』って罵られるのは、ちょっといいかもしれないけど――いや、そうじゃないって。どちらにしても、やるか。うん。やろう。
痛いのはやだな。即死できる方法――って、そんなこと考えたことないよ。いや、色々知ってるよ? そりゃさ。一般常識的には。けれど、こっちの世界とあっちの世界、違うじゃない? 高層ビルもないし、電車もバスもない。車も走ってない。テレビ、……は関係ないか。
よし、あそこにしよう。俺は、バケツに残った川虫を川に戻して、インベントリにしまう。そのまま、川の上流側に見えた、崖に上るべく歩いていった。
「――ひょぇええええっ」
足下には河原。大小様々な石だらけ。おおよそ、10メートル、いや20メートル以上はあるだろう。軽くビルの6~7階の高さはありそうだ。うん、死ねる。間違いなく、死ねるわ……。
よし、まずは準備だ。俺は『マナ・リカバー』をかけて魔素の回復を準備させる。『個人情報表示』で画面も出して、魔素の残量を確認。『ディスペル』で、今かかってる『パルス』を解除しておく。
「よし、『パルス』、……『リザレクト』」
魔素残量が減ったことで、確実に『リザレクト』俺自身にかかったことを魔素の減り具合で確認。もちろん、『マナ・リカバー』による魔素の回復も確認できてる。おおよそ10秒後、再度かかることを、その10秒後もかかり続けていることを確認した。
「……すぅ。……ふぅ」
マナが枯渇するまえに試さなければならない。けれど、緊張する。普通に考えたら、あり得ないことをやろうとしてるんだ。普通に生きてたらまず、経験できないことだから。それでも、自分の魔法を信じるしかないんだ。
俺はまるで高飛び込みをする選手のように、両腕を広げた。
「あい・きゃん・ふらいっ。 とうっ!」
飛んだ。まるで往年の変身するヒーローのように。
一瞬の浮遊感。バンジージャンプがこんな感じなんだろうね? やったことないけど。と思ってる間にそのまま落ちる。地面があっという間に近づいてくる。走馬灯、来ないじゃん? あ、地面――
「――はっ。い、生き返った?」
回りには、何も落ちてない。俺の血も流れていない。『個人情報表示』画面には、俺の生命力が九割減って、残り一割ほどになってる。魔素の量は変動がない。これって、蘇生された状態なんだ……。
おおよそ10秒ごとに魔素は減り続けてる。『パルス』は『ディスペル』しない限り、例え死んでも解除されないとかさ、まるで呪いだよほんとに。MMOの中でも何度か、ふざけて崖から飛んでこうしたことがあった。リアルにやるとやばい、急に震えが来たわ……、今更だけど。
これなら何があっても、勝てはしなくとも負けることはない。こうして俺は、『奥の手』を手に入れることができたんだ。
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