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第21話 いやはややっぱりファンタジーだね。

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「はいはい。少々お待ちください」

 落ち着いた感じの女性、二十代後半くらいかな? うん、大人しそうな感じの美人さんだね。グレーっぽい、銀髪? 欧州ヨーロッパあたりに多そうな色味ってやつ?  ふわっとしたロングの綺麗な髪。

 あれ? 耳が、あれれ? 最初に宿を教えてくれた青年と違って、俺たちと同じ普通の耳の場所なんだけど、手のひらくらいの大さで髪の毛と同じ色のふさふさした毛が生えてるんだ。うぉおっ、今一瞬、彼女の背後から、尻尾みたいなのが左右に振れたような気がしたんだけど。もしかして、獣人さんなのか? ケモミミしっぽさんなのか?

「いらっしゃいませ。冒険者ギルド、自由貿易都市ワッターヒルズ本部へようこそ。私は、受付をさせていただいております、クメイリアーナと申します」

 自由貿易都市ワッターヒルズ? 本部? え? ここがギルドの本部なんだ?

「あの、これ、なんですが」

 俺はインベントリからギルド登録証のカードを出して、名前が女性が読みやすい向きにして渡した。

「はい、お預かりします。……ダイオラーデン支部の登録。名前は、タツマ・ソウトメさんで間違いございませんね?」
「はい。あの、ダイオラーデン支部と同じように、『秘密を守って』もらえるんでしょうか?」

 あちらの支配人リズレイリアさんから、『こう』言えばいいと。隠語のようなもので、どこへ行っても身内だと認識してもらえるって教わったんだ。

「……少々お待ちください。ただ今、総支配人に確認を取りますので」

 クメイリアーナさんは、慌てて裏手に『走って』いった。それはもう、最初のおしとやかな感じとは、似ても似つかないような。慌て具合だったね。

 30秒ほど経ったあたりかな? 彼女はすぐに戻ってきて、額に珠のような汗を滲ませながら、ひとつ深呼吸をして落ち着きを取り戻したんだ。

「ソウトメ様。これよりは当方の『総支配人』が直接、対応させていただきます。左手奥にある扉からお入りください」
「急な対応、助かります」
「いいえ、お気遣いありがとうございます」

 案内のあった左手奥に木製の扉がある。そこも押戸になっていて、軽く押しただけで開くようになっていた。中には先ほどのクメイリアーナさんが待っていてくれた。

「どうぞ、ご案内いたします」
「ありがとう」

 人がなんとかすれ違える、ギリギリの幅で伸びてる通路を通っていく。すぐに上がり階段になっていて、右回りでぐるりと回りながら上っていき二階へ到着。やや急になっていたこともあり、実際は三階だと思われる。入り口を入ったホールも、天井が高かったからね。

 クメイリアーナさんは、一番奥にある扉をノックする。するとすぐに、ドアが開いた。そこから人が出てくる。待ってましたと出迎えるかのように。両腕を広げて、俺をぎゅっと抱きしめたんだ。

「ソウトメ殿。生きておられたのですね?」
「え? と、虎?」
「おっと、失礼。つい、感極まってしまって」

 声から察するに女性なのは間違いない。それになんかいい匂いがした。でもびっくりしたよ。目の前にいたのは、短く刈り込まれたベリーショートの、耳も人とは違う形だけど、クメイリアーナよりは小さい。虎柄に見える髪の毛を持つ女性だった。半袖の服から伸びる、腕にも体毛が多く、その柄もまるで虎そのものだったんだ……。

「あ、もしかしてこのワッターヒルズが、どんな都市なのか、知らないのかな?」
「はい。ぜんぜん……」
「そこから説明――いや、とにかく安心したよ。いや、しました」
「いいですよ。普段の口調で構いませんから」
「そうか? なら助かる。なにせ君は、ギルドの大恩人だ。だから礼を欠いてはいけないと思ってしまったんだよ。普段使い慣れない言葉使いだから、少々ボロが出てしまったようだね。それより、だ。とにかく入って欲しい。クメイくん、何か飲み物を頼んでいいかな?」
「はい。今すぐに」

 俺は総支配人室へ通された。ソファに座るように促され、俺は腰を下ろす。

「さて、リズレイリアとは旧知の中でもあってだね、ときおり、『文飛鳥ふみひちょう』でやりとりをしていたんだよ」

 あとで聞くと、文飛鳥とは、あちらの世界の伝書鳩みたいなものらしいよ。

「先ほども説明したとおり、ソウトメ殿は、ギルドにとって最重要人物となっている。だが、先日、行方不明になったと聞いたんだ」
「はい。おそらくこれが原因です」

 俺は、インベントリから取り出した、あの国で俺に対して出されたと思われる手配書をみせる。

「ソウトメ殿が行方不明になった翌朝、リズレイリアの耳に入ったとあった。私も驚いた。リズレイリアは、君が亡くなった可能性も想定していた……、とにかくすぐに文を届けることにしよう。あちらで心配してる者もいると聞いているからね」
「はい、お願いします」
「明日には返事が来るはずだよ。……それにしても、ダイオラーデンで何があったんだろうな?」
「俺にもわからないんです。あの夜――」

 俺は当たり障りのない、召喚に巻き込まれたこと以外を説明する。知らない二人組に背後から斬られて、湖に落ちたところ。命からがら逃げて、気を失ったこと。命の恩人かのじょに助けられたことは伏せておき、『誰かに助けられた可能性』だけは話すことにした。

「なるほど、まだ死体が上がっていない。そう聞いていたから、湖の底に沈んだ可能性も考えていたんだ」
「そうだったんですね、ところでその」

 俺は手のひらを彼女の前に『あなたのことを』という感じに差し出す。

「あぁ、まだ名乗ってなかったね。私は、虎人族こじんぞく。いわゆる魔族だね。名前はプライヴィア・ゼダンゾーク。一応、虎人族の国で、爵位を持つ者でもあるんだ」
「爵位、魔族、虎人族、ですか?」

 情報が多すぎる。ただでさえ、プライヴィアさんは色々とインパクトが強いからさ。

「そう。この自由貿易都市ワッターヒルズは、人族ひとぞくの治める人界と魔族が治める魔界の間にある都市。国王が治めるわけではないから、国では無く『自由貿易都市』なんだね」
「知りませんでした。魔界は話しでしか聞いたことがなかったもので……」

 うん。知らない。物語でしか読んだことないから。あ、そうだ。

「すみません、ちょっと手をいいですか?」
「この毛が珍しいのかな?」

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