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第1話 リア充爆発してください。

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 午前八時八分。最寄り駅までの十五分。ウィークデイは毎日このバスに乗るんだ。

 このバス会社、俺が乗ってる路線は特に運転手のアタリハズレが激しくて、ハスレだと運転が荒いんだ。特にブレーキが酷くて、むち打ちになるんじゃないかってくらいに、容赦ようしゃなくかける。いつか事故るんじゃないかって噂が立つほど、SNSでも有名だったりするんだわ。

 俺が乗るのは始発の営業所。必ず座れるのは助かるね。少なくとも、立ってつり革捕まるよりは、マシな十五分を過ごせるってもんだ。

 乗降口から入って、後へ向かってそのまま進む。ベンチシート状になっている、最後部からひとつ手前の右側。窓際にどっこいしょと座る。

 営業所を出て、二つ目のバス停に停車。同じ時間に必ず乗ってくる三人がいる。高校生くらいの、身長の高い男の子。男の子より頭ひとつ分身長が低めな女の子が二人。顔がそっくりだから、双子なのかな?

 三人は、決まって最後部の座席に座ってる。俺側じゃなく、反対側ね。女の子のひとりは俺側に座ろうとするんだけど、男の子が左側に座るから、ちょこちょこと移動して、男の子を挟むように、三人並んであっち側に座るんだ。でも今日は右側、俺の真後ろに座ってる、珍しいなと思ったよ。

 男の子は『雑誌のモデルじゃね?』ってくらい、顔かたちが整ってる。女の子たちは文句なしに可愛らしい。多分、幼なじみなんかね? まるで、往年のラブコメ漫画か、ラノベみたいな裏山リア充さんたち。爆発しろって、出会う度に心の中で呪ってる。

 金曜日だからかな? 朝でもさすがに眠くなる。うつらうつらとしながら眠気と格闘。寝過ごしたら、乗り換え駅で降りられなくなる。最悪、走って戻る必要が出てくる。だから寝るわけにはいかないんだ。負けるな俺、明日は休みだ。

 そのときだった。とんでもない振動と、『ドシン』という何かがぶつかったような音ではっとなる。運転の荒いこの運転手だ、『ついに事故っちまったか?』と運転席を見たんだけど、目の前は真っ暗で何も見えやしない。

 同時に覚えた、気味の悪い浮遊感。気がつけば、踏ん張っていられるはずの床がないんだ。『なんじゃこりゃ?』と思ったとき、ジェットコースターや、バンジージャンプで体験できそうな落下感を感じた。

 『落ちる』って、そう思ったときにはもう落ちてた。地面に着いたとき偶然俺は、三転着地――いわゆる『スーパーヒーロー着地』をしてた。狙ったんじゃなく、そういう格好で落ちたんだ。

 右手首、右足首、腰に衝撃が走った。拳、膝、足の裏から、気持ち悪い『ぐちゃ』という感触を覚えた。足場の悪さからか、それとも踏ん張りが利かないからか、俺はそのまま後へ転がってしまった。

 身体を起こしたら、目の前には変な物体。よく見ると、半円状に切り取られていた、バスの後部座席だろうか? 俺が座っていた席は、ありゃしなかった。おまけに、さっき足下から感じた『ぐちゃ』という物体は、年配の男性の背中だった。なんていうかその、……すまんですわ。

 運転手さん含めると、だいたい十人くらいいたはずなんだけど、ここには俺と、少年と少女二人の四人だけ。足下に転がってる人は、運転手じゃない。見たことないヘンテコな服着てる。

 見た感じ一応、三人も無事みたいだけど、気絶してるみたいだ――と思ったとき、あまりの痛みに耐えられなくなって、意識が遠くなっていったのだけは覚えてるんだ……。

 ▼

「――おじさん。おじさん」

 女の子が俺を呼ぶ声? なにやらいい匂いがするな。あぁ、二人のうちどっちかの子の匂いか。裏山だぜ、リア充爆発しろって。

「起きないなぁ? もしかして、ちゅーしてほしいの? なんてねー。あははは」

 それなんてギャルゲ? そう思ったら、まぶたがぱちっと開いた。なんだこりゃ?

「……知らない天井?」
「あ、それ。アニメや漫画によくあるやつですよね?」
「言ってみたい台詞のひとつなんだよね、……ってここどこだい?」

 どっこいしょと身体を起こすと、病院? いや、ホテルの一室みたいなところ?

「あぁ、よかった。目を覚ましたんですね。『おじさん』」

 と、イケメン(死語)な少年。

「大丈夫よきっと。『リア充爆発しろ』って、寝言聞こえたから。ね、『おじさん』」

 と、眺めのショートボブで右側に三つ編み、委員長さん的な眼鏡をかけてる少女。てかまじか? 寝言でそんなことを、……穴があったら入りたいぜ。

「『知らない天井』もなかなかグッドでしたよ。『お・じ・さん』」

 と、さっき俺を起こしてくれた、左側に三つ編みな、眼鏡かけてない少女。

 『おじさん』三連撃。この子ら、十五歳から十八歳と考えても、三十一歳の俺と比べたら、半分くらいだもんな。おじさん呼びされても、仕方ないか。

「ねぇねぇ朝也あさやくん。ここ圏外、Wifiも飛んでない」
「そうなのよ。朝ちゃん寝てるとき、麻昼まひるちゃんと部屋のなかスマホもってぐるぐるしたんだけど、駄目だったのよ」
「うんうん、ね、麻夜まやちゃん」

 少年が朝也、右な眼鏡子ちゃんが麻昼、こっちの左な眼鏡なし子ちゃんが麻夜って名前なんだね。朝、昼、夜か。幼馴染みのテンプレだな? リア充め、爆発しろ、ください。

「ねぇねぇ、お・じ・さん。名前なんていうんですか?」
「あぁ俺? 俺は――」

 俺が自己紹介しようとしたとき、部屋のドアが開いたんだ。俺が踏みつけた年配の男性みたいな服装をした、二十歳くらいの女性が入ってきた。なんだろうね、薄いベージュの色した高級ホテルのフロントさん、みたいな感じ?

「失礼いたします。お目覚めと伺いまして――え? よ、四人、で、ございますか? あれ? 『勇者様』は、三人だと伺っていたのですが……」

 ゆ、勇者様? 勇者様ってあれか? 漫画やラノベやアニメのあれ。てことはこの一連の事故みたいなのは、『勇・者・召・喚?』。

 朝也くんと、麻昼ちゃんはきょとんとしてたけど、麻夜ちゃんだけは違っていた。

「い、異世界きたっ! 勇者召喚きたーっ!」

 両手の拳を握って、真上に腕を突き出してまで、興奮してますよ。相当濃いんだろうね、この子。

 先ほどの女性が一度外へ出て、数分したら戻ってきたんだ。このときは、同じくらいの年齢な若い男性を連れていた。彼が手に持つのは、何やらタブレットを二回りも大きくしたような石版? いや樹脂板? よくわからない変なものを見せるんだ。

「この世界は、あなた方が以前、いらした世界とは違います」

 ほほぉ。俺だってさ、色々な異世界ものの漫画やラノベを読んでいるんだ。現在、俺には手首にも足首にも、もちろん首にもかせが着けられちゃいない。もちろん、三人もみたいだね。

 良い状況下の異世界転移と、悪い状況下の異世界転移。少なくとも現時点では、後者ではなさそうな雰囲気。まだまだ油断はできないけど。

「もちろん、あなた方の世界のことわりとは違うもの、魔法というものが存在します」
「いろいろきた――」

 麻夜ちゃんは、麻昼ちゃんに口を手のひらで塞がれて、『もごもご』してる。朝也くんがこっちを見て、申し訳なさそうにしているよ。三人とも良い子っぽいね。でもリア充は以下略。
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