沖縄ドワーフ物語 ~ドワーフ娘が嫁に来た~

はらくろ

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第十四話 ティナのくれたこの力で。

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 ティナから聞いた話では。
 彼女は内側から放出する系の魔法が得意なんだと。
 外側に作用する系は苦手らしい。
 あのとき俺の怪我を治せたのは『治ってほしい』という強い思いが作用したという。
 普段は自分の怪我くらいしか治したことはなかった。
 ティナの俺への思いがそうさせたんだと、彼女は言っていた。
 ティナがくれたこの力。
 俺は正しいことに使おうと思ったんだ。
 父さんが『正義の味方』であろうとしたように。
 母さんが父さんを信じていたように。
 まだまだなんもできないんだけどな。

 トイレからやっと戻れた。
 ティナは相変わらず『魔法少女ラジカルくれは』を見ていた。
「お前、好きだなぁ。それ」
「うん。面白いよ。それにね、すっごく勉強になる」
「なんだそれ?」
「あのね『使い切れずに、ばら撒いちゃった魔力を、もう一度自分のところに集める』ってセリフがね。あー、そういう方法もあるんだなーって」
「……撃つなよ? 町が絶対滅びるから……」
「えーっ」
「えーっ、じゃないっ!」

 ▼

 今日はティナを築地の市場に連れてきた。
 俺はこっちにいるとき、年に一回。
 年越しをするために買いだしに来ていたっけ。
 そして必ず食べていったものがある。
 場外にある有名なもつ煮の店『きつ〇や』だ。
 ここのホルモン丼は絶品だ。
 一杯八百五十円とやや高めだが、流石は『創業七十年』
 流石に座ることはできなかったが、立ち食いもまた一興。
「武士武士。これすっごい柔らかいね」
「だろう? ここじゃなきゃ食えないんだよ。俺も年に一回くらいだったな」
「これってどこの肉なの?」
「ホルモンっていってな。内蔵なんだよ」
「うっそ。普通、捨てるんじゃないの?」
「『放るもん』って意味でな、ホルモンって名前がついたって言われてる。新鮮な内蔵はな、こんなに美味いんだ。肉食獣が獲物を襲って、内蔵だけ食べ散らかして置き去りにするなんて聞いたことないか?」
「あ、聞いたことある」
「それだけ栄養があってうまいってことだ」
「へぇ……」
「味噌みたいな調味料があって、しっかり味付けしないと美味く食えないことがあるけどな」
「武士」
「ん?」
「おかわりしていい?」
「おう。だけどもう一度並ぼうな。みんな待ってまで食べに来てるんだ」
「うんっ」
 結局俺たちは二杯ずつ食べてしまった。
 いや、美味かったなぁ……。

 腹ごしらえを終えて、市場に入ってみる。
 まぁ、一般客が見られるところなんて一部なんだけど。
 ティナにとっては新鮮だったんだろう。
「武士武士、お魚いっぱい。あちこちから匂いもするね」
「そうだろう? 一度ティナに見せてやりたかったんだ。俺が育った国、ここ日本ではな。肉より魚の方が庶民の口に入ることが多い、かな」
「へぇ……。色んな魚があるんだね」
「あぁ、それぞれ味も食べ方も違う。だけどな、肉みたいに保存ができないものもあるんだよ。干したとしても美味いものと美味くなくなるものもある。冷凍すればいいんだけど、冷凍焼けっていってな。きちんとした方法で凍らせないと悪くなっちゃうんだよ」
「んー、難しいんだね」
「だな、俺もよくわかんないわ」
 築地の市場を出て、次に向かったのは軽くランニングしながら皇居へ向かった。
 今日は、これを見越していたこともあって、ティナはタンクトップとTシャツ、それにスパッツとランニングシューズ。
 俺はいつものハーフパンツとTシャツに、ティナとお揃いのシューズ。
 皇居一周は約五キロ。
 歌舞伎座を横目に見ながら銀座を抜けて皇居へ向かった。
 俺はあることを調べるついでに、ティナをこの国の皇室が住む場所を見せておきたかったんだ。
「ティナ、苦しくないか?」
「ん? よゆーだよ」
 こういう受け答えも、俺から受け取った知識からなんだろう。
 銀座の街を抜ける。
「凄い人だね」
「そうだな。ここは東京でも物価が一番高いとこって言っても過言じゃないかもな」
「へーっ」
 ティナはあまり銀座には興味を示さないようだ。
 首都高をくぐり、有楽町を抜ける。
 日比谷豪を反時計回りに走る。
 ここまで走って来たけど、やはり息が切れるどころか疲れもしない。
 ドワーフ化したことで心肺機能も身体能力も上がったんだろうな。
「ティナ」
「ん?」
 俺は千鳥ヶ淵あたりで足を止める。
「今ぐるっと回ってきたところを含めてな、あれ見てみ?」
 俺は吹上御所あたりだろうと、その方向を差した。
「ここは皇居って言って。あの奥にな、この国の王族。皇族っていうんだが、その人たちが住む場所があるんだ」
「へぇ。この国の王様なんだね」
「あぁ。綺麗な所だろう?」
「うん。今まで人がいっぱで冷たい感じがしたけど、なんか違う感じがするね。何ていったらいいかわかんないけど」
「だな。ティナに『国の違い』を知ってほしかったんだ。だからここを見せておきたかった」
「うん。あたいの国とは違うんだね」
「そうだ。この国には一億人以上の人が住んでる。だが、王族にあたる人は数十人しかない」
「うん」
「この国を動かしてるのは、ここにいる皇族の人じゃない」
「えっ?」
「ティナの国にもいるかもしれないが、王家の血筋ではない貴族って言えばいいかな? 民間から選ばれた人が国を動かしてるんだ」
「……うん」
「その大勢の人たちだって、一枚岩じゃない。国のためにと思ってる人もいれば、権力に狂っちまうやつもいる」
 敏いティナだ。
 これは麗華の話のことを言ってるとわかってくれるだろう。
「俺に何ができるかわからない。でもな、模索してでも何かをするべきなんだろうな。どんな小さなことでもいい。俺の父さんが、父さんを信じた母さんが俺に見せたかった未来ってなんだろうなって。考えてみたくなったんだ」
「うん」
「俺は強くなる。精神的にも肉体的にも、それとティナが教えてくれた力ででもな」
 ティナは何も答えず、俺の手をぎゅっと握って返事をしてくれた。
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