ぼっちで真面目なゴーゴンちゃんは加護が欲しい

はらくろ

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エピローグ ぼっちなあたしはくじけない。

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 やっとのことで、エルドへの入国審査が終わりました。
 乗り合いの馬車をみつけて、依頼のあった村へと向かいます。
 やはり、御者のおじさんも、あたしと目を合わせようとはしません。

「(もう、慣れてしまいましたが、これはこれで寂しいものですね……)」

 今日の目的地は、馬車で半日ほどいった先にある、人間さんの村。
 馬車を降りて、村長さんの家に向かい、プレートを見せて、依頼を受けた探索者であることを教えます。
 これだけで信じてくれるので、助かっています。
 でも、村長さんも、あたしの眼の色を見て、斜め下を見てしまいました。

「(仕方ないんです。慣れですよ、慣れ)」

 今回の依頼内容は、『畑を荒らす獣の駆除』でした。

「(あら? 畑って、紫葉果だったのですね)」

 来月あたりが収穫の時期だったはず。
 紫葉果は、膝くらいの高さまでしか育たない多年草です。
 皮が紫で柔らかく、果肉白くて甘酸っぱくてみずみずしい、美味しいエルドの名産品。
 そのまま食べて良し、干しても良し、お酒にも、料理のソースにも、子供のお菓子にも使われている、人気のある果実なのです。
 果実だけをつつく鳥でしたら、対策のしようはあるのでしょうけれど。
 討伐対象が、レッドファングボアですから……。

 あれって、確か草食で、根まで掘り起こしてしまうって聞いてます。
 いくら多年草でも、果実だけでなく全て食べられてしまっては、どうにもなりませんからね。
 レッドファングボアは、茶褐色の毛を持つ大きな猪で、別に身体の一部が赤いわけではありません。
 テリトリー意識が強く、肉食の獣ですら追い払うことがあり、時折、白く長い牙の部分が赤く染まっていることから、この名がついたとされます。

 それは農業に従事する方たちも例外ではなく、農作業中の人が襲われて怪我を負うという報告が近年増えているようで、討伐依頼が出るようになりました。
 普通の獣であれば、柵を作って対処すると聞いていますが、レッドファングボアの大きさが、少々困りもので、人の背よりも体高が高いのです。
 これだけの大きさの獣に、満足するまで食べられてしまっては、畑はひとたまりもありません。

 土に牙を差し込んで、器用に掘り起こしては根の部分を頬張っています。
 紫葉果の幹の高さの数倍はあるその姿、確かにこれは普通の人には怖いかもしれません。
 さて、討伐開始としましょうか。

 背負っている盾を下ろして、身体の前にかざすと、身体がすっぽりと隠れてしまいます。
 腰から鎚を抜いて、軽く盾の内側を叩きます。
 思った通り、レッドファングボアが盾に突っ込んできました。

 あたしの戦闘スタイルは ひたすら盾で受けて、隙をついて鎚で叩くだけ。
 耐えて耐えて、耐え抜いて。
 レッドファングボアが疲れて、動きが鈍くなったところを、目と目の間に一撃必殺。

「(ふぅ……。お疲れ様でした)」

 今日も無事に討伐完了。
 討伐確認の部位として、二本ある牙を根元から抜いて鞄に入れます。
 残りを持って行くには無理があるので、村長さんに買い取ってもらいました。
 肉も毛皮も、骨も捨てるところがないらしく、感謝されて送り出されました。
 それでも眼は合わせてもらえないんです。

「(わかってはいましたが。何かちょっと、悲しいわ……)」

□◆□◆

「お、お疲れ様でした」

 紹介所に戻ってきて、カウンターに討伐部位を乗せます。
 この牙も、工芸品として使えると聞いています。

「はい、確かに確認しました。プレートの提示をお願い、できますか?」
「うん。はい」

 このプレートが魔道具になっているみたいで、情報を書き込んでくれるんです。

「あの、加護……」
「は、はい。どうぞ、こちらへ」

 毎日のように顔を合わせてるこの職員さんも、眼だけは絶対に合わせてくれないんです。

 奥の間に案内されると、そこには、加護を確認できる水晶玉が設置してあります。
 これも魔道具になっていて、触れると加護の情報が投影される便利なもの。
 依頼達成のあと、無料で調べることができるのが、探索者の特典なのです。
 水晶玉が赤く光ります。

「(あ、……やっと出た)」

「おめでとうございます。新しい加護を取得されたようですね」
「(斜め上を見ながら言わないでくださいよ、もうっ)」

 でも、これを待ってたんです。
 待ちに待った、盾使いの加護。
 この加護は、対魔物戦にも、対人戦闘にも使えます。

 紹介所を出たところで、あまりにも嬉しくて、つい、試してしまいました。
 盾を地面に突き立てて、盾を持つ腕に魔力を込めて、あたしは小さな声で願いました。




『我に任せて先にけ(あたしを見てっ!)』




 衝撃波のような、音のような何かが、あたしの盾の正面から、広く扇状に広がっていきました。

 その瞬間、あたしの方を範囲入った人たちが振り向きます。
 見られてる見られてる。
 この加護は、ヘイトを稼いで、盾役に集中させるもの。




 き・も・ち・いいわぁ……。




 みんながあたしを見てくれている。
 あたしを見て、みんな、視線を外せない。
 誰もそっぽなんて、向かせないわ。

 短い間だけれど、こんなに見てもらえるなんて、生まれて初めてかもしれません。
 あたしを見た人が、声を揃えて言うんです。

『石になってしまうから、怖い』

 馬鹿言わないでください。
 あたしが両目に魔力を込めて、『石になっておしまいなさいな』と念じない限り、そんな現象は起きたりしないのです。
 鳥の魔物コカトリスや、一部の石バジリスクと一緒にしないでほしいです。

「(本当、失礼だわ)」
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