劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ

文字の大きさ
上 下
52 / 80

第五十二話 なんとか逃げ切れた。

しおりを挟む
 夜になると野営をし、明るくなったらまた歩き始める。お茶とパンは非常食としてそれなりにストックがあるから、飢えることはない。だが、いかんせん飽きが出てきた。

 そうして歩き続けた三日目の夕方。リルメイヤーが街道の先に何かを見つける。

「アーシェリヲンさん。あれ、見えますか?」
「ん、っと。あ、町みたいですね」
「はい。お風呂にはい――いえ、なんでもないです」
「うん。僕もお風呂に入りたい。急ぎましょう」
「はい。そうしましょうか」

 二人は無理のないギリギリの速度で走り始めた。温かい風呂、温かい食事、温かいベッドが待っている。そう思うと力が湧いてくるのだろう。

 距離的にもしかしたら、あの男たちが話していたところかもしれない。だが、自分たちを知るものがいなければ、別に問題はない、アーシェリヲンはそう思った。

 町に見えたのは、そこそこ大きな国の城下町だったようだ。なぜなら、ここは入国審査があったからだ。

 長い審査待ちの並び、待ちくたびれる寸前でやっと順番が回ってきた。そのときにはもう、日が暮れていた。幸い、審査を行っている門は明かりが用意されている。その明かりが火でないことから、おそらくは『魔力えんじん』なのだろう。

「エリクアラードへようこそ。失礼ですが、身分を証明するものをお持ちでしょうか? お持ちでしたら提示していただけますか?」

 人間の青年が立ち会っていて、身分証明を求めてきた。

「リルさん、持ってます?」
「いいえ。申し訳ないです」
「大丈夫ですよきっと。あの僕、探索者です。名前をアーシェリヲン。これがカードになります」

 アーシェリヲンは『呪いの腕輪』から探索者カードを取り出した。

「確認させてもらいますね」
「こちらの女性は僕の同伴者です」

 青年は一度詰め所へ入っていく。すぐに戻ってくると、少々驚いた表情をしていた。

「確認とれました。間違いありません、ですが、そのお年で鉄の序列なんですね。申し訳ありませんが、お連れ様の身分を証明するものはございますか?」
「いえ、僕の同伴者、だけではいけませんか?」

「申し訳ございません、規則ですので。身分の証明を発行するまでの間、預かり金として金貨一枚かかりますが、よろしいですか?」

 金貨一枚と聞いたリルメイヤーは、アーシェリヲンの手をぎゅっと握ってしまう。

「大丈夫ですよ。これでお支払いできますよね?」
「はい。大丈夫です。身分証明が発行されましたら、返金いたしますのでご安心を」
「わかりました。手続きをお願いします」

 アーシェリヲンはカードで支払いを終える。

「はい、お預かりしました。こちらが預かり証になる札です。では、お入りください」
「大丈夫なんですか?」
「はい。僕それなりに稼いでいますから」

 いつものように会釈をしつつ、門を抜けていくのだが、アーシェリヲンは足止めて振り向いた。

「あの」
「はい、なんでしょう?」
「ここは『れすとらん』はどっちにありますか?」
「はい。この道を真っ直ぐにいきますと、三本目の道が交わるところがありまして、その角にありますよ」
「そうですか。ありがとうございます」

 アーシェリヲンはリルメイヤーの手を引いて先を急ぐ。

「あの、『れすとらん』というのはもしや?」
「はい。とても美味しいごはんが食べられ――じゃなくて、それはそうなんですけど、僕たちの保護をお願いできるところでもあるんです」

 確かに三本目の道が交わる交差点の角に、入店待ちの人の列が見えてきた。とてもいい匂いがする。まちがいなく『ちーずそーすはんばーぐぷれーと』の匂いだろう。

 アーシェリヲンは『れすとらん』を確認すると、店の前を通り過ぎる。

「あれ? 入らないのですか?」
「はい。こっちに用があるんです」

 アーシェリヲンは隣りにある店舗を確認した。やはり雑貨屋があるのが確認できる。

「おや、何を買ってもらえるのかな?」
「あの、これを」

 アーシェリヲンは『呪いの腕輪』からユカリコ教のカードを取り出した。

「ご確認のため、お預かりしてもよろしいですか?」
「はい、お願いします」
「少々お待ちくださいね」

 おそらく、この国にいるユカリコ教関係者はこうしてカードを見せることはない。外からきた関係者だからだろう。ややあって女性は戻ってくる。何やら焦りの表情が見られるのだった。

「ど、どうぞ。詳しくは中で伺います」
「はい。ありがとうございます」

 奥にあるドアが開けられる。不思議そうにしていたリルメイヤーがきょとんとしていた。

「リルメイヤーさん。こっちです」
「は、はいっ」

 やはりここも、雑貨屋を抜けると搬入口を兼ねている中庭へ繋がる通路があった。中庭に出ると、巫女の姿をした女性が待っていた。

「ヴェンダドール神殿所属のアーシェリヲン君ですね。お連れの方は、どのようなご関係でしょうか?」
「はい。僕と一緒に攫われていた人です。ここで保護をお願いしたいんです」
「そうでしたか。わかりました。
「はい、そうです」
「カードをお返しします」
「はい、ありがとうございます」
「アーシェリオン君には、司祭長様がお会いになるとのことです」
「あー、その前にですね。数日お風呂にはいってないので、あと、部屋も貸して欲しいです。あと、温かいごはんを……」
「そ、そうでしたね。気づかず申し訳ありません。こちらへどうぞ」
「アーシェリヲン君。ユカリコ教とも関係してたんですね」
「はい、そうなんです」

 巫女について歩くと、見慣れたような風景が目に入る。

「こちらが現在空いている部屋となります。こちらがアーシェリヲン君。こちらが……」
「はい。リルメイヤーと申します」
「ご丁寧にありがとうございます。リルメイヤーさんがお使いください。突き当たり右がお風呂で、左が食堂になります」
「はいっ」
「お食事が済みましたら、お手数ですがアーシェリヲン君は三階の司祭長室へご足労いただけますか?」
「わかりました。あの」
「はい。お着替えは用意して脱衣所へお持ち致しますね」
「は、はい。ありがとうございます」
「いいえ。家族が困っているんです、当たり前ですから」
「僕は換えを持って歩いているので大丈夫です」
「そうですか、わかりました。では、後ほど」
「はい。ありがとうございます」
「ありがとうございます」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~

にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。 「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。 主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜

みおな
ファンタジー
 私の名前は、瀬尾あかり。 37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。  そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。  今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。  それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。  そして、目覚めた時ー

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?

白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。 「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」 精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。 それでも生きるしかないリリアは決心する。 誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう! それなのに―…… 「麗しき私の乙女よ」 すっごい美形…。えっ精霊王!? どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!? 森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。

処理中です...