2 / 80
第二話 プロローグ 後半。
しおりを挟む 偶に来る残党を迎撃しながら包囲を続けていると、程なくして洞窟から、試験官が数名の男女を連れて出てくる。
「終わったぞ。怪我人はいないか?」
試験官は受験者達の方を確認する。
受験者達の周りには、返り討ちにした残党の死体は何体もあったが、傷を負っている人は一人もいなかった。
「上出来だ。今回の受験者は優秀だな。みんな、試験結果の方は期待すると良い」
実質の合格宣言をされ、受験者達は表情を明るくさせる。
試験官は迎撃の様子を見ていなかったが、無傷で撃退したという結果は、チームワークが取れている何よりの証拠であった。
「では、街へ帰ろう」
突発の討伐を終えて帰ろうとしたその時、試験官の腹部から剣が飛び出した。
「うぐっ……。お前は……何故っ……」
試験官を後ろから刺していたのは、最初に殺したはずの、マフィアのボスであった。
「これはお返しだよ。ひゃひゃひゃ」
剣を引き抜くと、試験官は地面へと倒れる。
直後、凛がマフィアのボスへと飛び掛かった。
振り下ろしたハンマーを、マフィアのボスは紙一重で避ける。
「うおっと」
マフィアのボスが飛び退いて距離が空いたところで、凛が他の受験者達に言う。
「試験官の治療を!」
その声でハッとしたガーネットとラピスが、慌てて倒れた試験官の下へと駆け寄る。
「見ていたぞ。あの中では、お前が一番能力が高いな」
「ふざけんじゃないわよ! 試験官が死んじゃったら、せっかくやった試験がパーじゃないの!」
凛はマフィアのボスの足元の地面を凹ませるが、その瞬間に勘付かれて飛び退かれる。
「はっはっはっ、油断はしねーぞ」
最初は油断して試験官にやられたマフィアのボスだが、その後は死んだふりをして、敵の実力を見計らっていた。
腕が立つ上に、警戒心も強い厄介な相手であった。
ハンマーでは速度が足りないと判断した凛は、ハンマーを模っていた土を組み替えて、双剣に切り替える。
そしてすぐさまマフィアのボスへと飛び掛かった。
マフィアのボスも迎え撃ち、二人は打ち合いを始める。
「む」
双剣の連撃による手数の多さから、マフィアのボスは腕や足をどんどん斬り付けられて行く。
そして、傷に意識を取られた隙を突き、凛はその片目を剣で貫いた。
剣は脳にまで届くほど、深く突き刺さる。
だが、マフィアのボスは平然とした顔で言う。
「お前、思っていた以上にヤベーな。ひひっ。ヤバ過ぎて、笑いが込み上げてくるぜ」
マフィアのボスは刺された目を庇いもせず、剣を振り下ろした。
凛は咄嗟に、首に刺した剣から手を放して、飛び退く。
マフィアのボスが目に刺さった剣を抜いて捨てると、傷口から血が滝のように流れ出すが、全く物ともしない様子だった。
目だけでなく、試験官が刺した胸の傷からも、夥しい量の血が流れ出ている。
「何で、そんな状態で生きてるのよ」
「ひっひっひっ、秘密だよ」
目の傷も胸の傷も、明らかに致命傷であるのに、マフィアのボスは一切倒れる様子がなかった。
残った片目が血走っており、手足が若干痙攣しているが、それだけである。
(再生系のアーティファクト? それともモンスター化の薬? どれもちょっと違うわ……)
凛は心当たりのあるアイテムを思い返してみるが、どの効果とも当てはまらなかった。
しかし、何かしらのアイテムの効果によるものだろうと考えたところで、一つ別の危険性に気付く。
「みんな、気を付けて! さっき倒して奴ら、まだ死んでない可能性があるわ!」
凛が他の人達に警笛を鳴らすと、マフィアのボスが笑って答える。
「心配するな。あれは貴重な物だから、使ってるのは俺だけだ。ひひゃひゃ」
マフィアのボスはアイテムによるものであることを自白した。
(何のアイテムか分からないけど、何にしても不死身になることはあり得ない。なら……)
凛は飛び掛かり、凄まじい速度で連撃を行う。
「無駄だよ、無駄ぁー」
マフィアのボスは一切効いていない様子だが、凛は構わずダメージを与えて行く。
そうしているうちに、首が半分千切れ、内臓は飛び出し、人の形を保っていられるのが怪しくなってきた。
喉が壊れて声も出さなくなっていたが、戦う手は止めず、狂ったように反撃を続けている。
目の焦点は合っておらず、既に正気は失っていた。
「もう化け物じゃないの……」
身体が崩壊しているのに死なないその姿に、凛は恐怖を抱いていた。
周りで見ていた他の受験者達も、恐れ戦いている。
「こんなの生かしておいちゃいけないわ」
凛は再度、マフィアのボスの足元を凹ませる。
既に真面な意識がなかったマフィアのボスは、足を引っかけて、あっけなく地面に倒れた。
すると、凛は即座に飛び退いて距離を開け、武器を再びハンマーに替える。
それを振り上げると、一回り二回りと大きくなり、大きなハンマーとなった。
そしてそのハンマーをマフィアのボスへと振り下ろす。
ハンマーが地面とぶつかり、地響きが鳴る。
凛はすぐにハンマーを持ち上げ、何度も打ち付けた。
十分な回数を打ち付けてから退かせると、そこには血溜まりだけとなっていた。
「……死んだわよね?」
凛は血溜まりの中に僅かに残っている潰れたミンチ肉を凝視する。
もしかするとまだ動くかもしれないと考えていたが、動くことはなかった。
決着が着いたところで、ラピスがヘルプを出す。
「凛さんっ、終わったなら手を貸してくださいっ。何とか命は繋いでますが、弱ってて私達だけじゃ……」
「オッケー、任せて」
凛はハンマーを消して、治療に参加する。
その後、凛の上級治癒魔法で試験官の人は無事回復し、みんなは街へと帰還した。
ギルドに戻ると、すぐに全員に合格が渡され、受験者達はそれぞれ笑顔で解散した。
凛達がギルドを出たところで、ガーネットが声を掛けてくる。
「貴方、本当に凄い人だったのね。悔しいけど、魔法使いとしても冒険者としても、今の貴方には勝てそうにないわ。でもね。いつか勝ってみせるから」
ガーネットは一方的にそれだけ言って去って行った。
「認めてくれたってこと?」
「そうですね。ガーネちゃん素直じゃないから」
凛達は微笑ましく去り行くガーネットの背を見送った。
「終わったぞ。怪我人はいないか?」
試験官は受験者達の方を確認する。
受験者達の周りには、返り討ちにした残党の死体は何体もあったが、傷を負っている人は一人もいなかった。
「上出来だ。今回の受験者は優秀だな。みんな、試験結果の方は期待すると良い」
実質の合格宣言をされ、受験者達は表情を明るくさせる。
試験官は迎撃の様子を見ていなかったが、無傷で撃退したという結果は、チームワークが取れている何よりの証拠であった。
「では、街へ帰ろう」
突発の討伐を終えて帰ろうとしたその時、試験官の腹部から剣が飛び出した。
「うぐっ……。お前は……何故っ……」
試験官を後ろから刺していたのは、最初に殺したはずの、マフィアのボスであった。
「これはお返しだよ。ひゃひゃひゃ」
剣を引き抜くと、試験官は地面へと倒れる。
直後、凛がマフィアのボスへと飛び掛かった。
振り下ろしたハンマーを、マフィアのボスは紙一重で避ける。
「うおっと」
マフィアのボスが飛び退いて距離が空いたところで、凛が他の受験者達に言う。
「試験官の治療を!」
その声でハッとしたガーネットとラピスが、慌てて倒れた試験官の下へと駆け寄る。
「見ていたぞ。あの中では、お前が一番能力が高いな」
「ふざけんじゃないわよ! 試験官が死んじゃったら、せっかくやった試験がパーじゃないの!」
凛はマフィアのボスの足元の地面を凹ませるが、その瞬間に勘付かれて飛び退かれる。
「はっはっはっ、油断はしねーぞ」
最初は油断して試験官にやられたマフィアのボスだが、その後は死んだふりをして、敵の実力を見計らっていた。
腕が立つ上に、警戒心も強い厄介な相手であった。
ハンマーでは速度が足りないと判断した凛は、ハンマーを模っていた土を組み替えて、双剣に切り替える。
そしてすぐさまマフィアのボスへと飛び掛かった。
マフィアのボスも迎え撃ち、二人は打ち合いを始める。
「む」
双剣の連撃による手数の多さから、マフィアのボスは腕や足をどんどん斬り付けられて行く。
そして、傷に意識を取られた隙を突き、凛はその片目を剣で貫いた。
剣は脳にまで届くほど、深く突き刺さる。
だが、マフィアのボスは平然とした顔で言う。
「お前、思っていた以上にヤベーな。ひひっ。ヤバ過ぎて、笑いが込み上げてくるぜ」
マフィアのボスは刺された目を庇いもせず、剣を振り下ろした。
凛は咄嗟に、首に刺した剣から手を放して、飛び退く。
マフィアのボスが目に刺さった剣を抜いて捨てると、傷口から血が滝のように流れ出すが、全く物ともしない様子だった。
目だけでなく、試験官が刺した胸の傷からも、夥しい量の血が流れ出ている。
「何で、そんな状態で生きてるのよ」
「ひっひっひっ、秘密だよ」
目の傷も胸の傷も、明らかに致命傷であるのに、マフィアのボスは一切倒れる様子がなかった。
残った片目が血走っており、手足が若干痙攣しているが、それだけである。
(再生系のアーティファクト? それともモンスター化の薬? どれもちょっと違うわ……)
凛は心当たりのあるアイテムを思い返してみるが、どの効果とも当てはまらなかった。
しかし、何かしらのアイテムの効果によるものだろうと考えたところで、一つ別の危険性に気付く。
「みんな、気を付けて! さっき倒して奴ら、まだ死んでない可能性があるわ!」
凛が他の人達に警笛を鳴らすと、マフィアのボスが笑って答える。
「心配するな。あれは貴重な物だから、使ってるのは俺だけだ。ひひゃひゃ」
マフィアのボスはアイテムによるものであることを自白した。
(何のアイテムか分からないけど、何にしても不死身になることはあり得ない。なら……)
凛は飛び掛かり、凄まじい速度で連撃を行う。
「無駄だよ、無駄ぁー」
マフィアのボスは一切効いていない様子だが、凛は構わずダメージを与えて行く。
そうしているうちに、首が半分千切れ、内臓は飛び出し、人の形を保っていられるのが怪しくなってきた。
喉が壊れて声も出さなくなっていたが、戦う手は止めず、狂ったように反撃を続けている。
目の焦点は合っておらず、既に正気は失っていた。
「もう化け物じゃないの……」
身体が崩壊しているのに死なないその姿に、凛は恐怖を抱いていた。
周りで見ていた他の受験者達も、恐れ戦いている。
「こんなの生かしておいちゃいけないわ」
凛は再度、マフィアのボスの足元を凹ませる。
既に真面な意識がなかったマフィアのボスは、足を引っかけて、あっけなく地面に倒れた。
すると、凛は即座に飛び退いて距離を開け、武器を再びハンマーに替える。
それを振り上げると、一回り二回りと大きくなり、大きなハンマーとなった。
そしてそのハンマーをマフィアのボスへと振り下ろす。
ハンマーが地面とぶつかり、地響きが鳴る。
凛はすぐにハンマーを持ち上げ、何度も打ち付けた。
十分な回数を打ち付けてから退かせると、そこには血溜まりだけとなっていた。
「……死んだわよね?」
凛は血溜まりの中に僅かに残っている潰れたミンチ肉を凝視する。
もしかするとまだ動くかもしれないと考えていたが、動くことはなかった。
決着が着いたところで、ラピスがヘルプを出す。
「凛さんっ、終わったなら手を貸してくださいっ。何とか命は繋いでますが、弱ってて私達だけじゃ……」
「オッケー、任せて」
凛はハンマーを消して、治療に参加する。
その後、凛の上級治癒魔法で試験官の人は無事回復し、みんなは街へと帰還した。
ギルドに戻ると、すぐに全員に合格が渡され、受験者達はそれぞれ笑顔で解散した。
凛達がギルドを出たところで、ガーネットが声を掛けてくる。
「貴方、本当に凄い人だったのね。悔しいけど、魔法使いとしても冒険者としても、今の貴方には勝てそうにないわ。でもね。いつか勝ってみせるから」
ガーネットは一方的にそれだけ言って去って行った。
「認めてくれたってこと?」
「そうですね。ガーネちゃん素直じゃないから」
凛達は微笑ましく去り行くガーネットの背を見送った。
398
お気に入りに追加
758
あなたにおすすめの小説

転生貴族のスローライフ
マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた
しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった
これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である
*基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います
しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました
夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。
スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。
ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。
驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。
※カクヨムで先行配信をしています。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~
にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。
「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。
主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる