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第三章:潮目
帰還(2)
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帝都への帰り道は相変わらず道中で宿泊が必要。つまり、行きと同じ宿場町で一泊することになっていた。
クラリスが「本当に着替える必要ありますか?」と言ってくるのを意にも介さず、私は侍女服を身にまとって宿場町に降りる。バスティエ領の端にあるそこは、行きに訪れたときよりも活気づいているように見えた。歩いている人の数、声の大きさ、数。どれもが増しているようで。
「あら……?」
私が思わず声を漏らして隣を見ると、クラリスも首を傾げていた。
「何かあったのかしら。問題が起きてないといいんだけど」
そう言って街を歩いていると、答えは向こうからやってきた。
「クラリス様! それにステラリア様! もうお着きになったんですかい」
そう言って声をかけてきた人物に、私は見覚えがあった。
「あら、あなたは祭りにいた……」
「へえ。あっしは機動力がウリの商人なんでさ。朝から馬に乗ってここまで駆けてきたんで、おふたりより先に到着しやした」
「そうだったのね。じゃあ、なんとなく街が活発になっているように見える理由を知っているかしら?」
「そりゃもう、あっしら参加者がステラリア様のことを熱心にお伝えしたからですよ!」
商人の返答を、私はすぐに飲み込むことができなかった。
「……どういうこと?」
「この辺ではクラリス様をお慕いしている者が多く、ステラリア様の侍女になったと知ったときに不満を持つ者も多かったんす。それで、今回ステラリア様が領地に来ると知ってどんな人物なのか見てきてほしいって言われましてね。その結果を皆に報告していたところっす」
「そうだったの……それで、それがどうして街の活性化につながるのかしら?」
「ここは宿場町なんで他領の民を受け入れる必要があったっすけど、クラリス様の扱いに対する不満から他領民に対して排他的な傾向が強かったんす。それで、昨日の祭りでステラリア様と対話してこれは本物だってんで、あっしがこの街のみんなにそれを説いて回ってたんでさ」
「そのおかげで他領民によそよそしくする必要がなくなったってことね。それなら理解はできるけど……事情がどうあれ、仕事に全力を尽くさないのは感心しないわね」
「おっしゃるとおりでさ。今後はクラリス様やステラリア様のためにも心を入れ替えて領地の発展に励みまさあ。なあお前ら!」
そう言って周囲に張り上げた声を受けて、いくつもの店から「おおっ!」という声が返ってくる。自分で体験したわけでもないのに不満なく受け入れられている、その状況を作り出した商人がすごいのか、それを柔軟に受け止める町民がすごいのか。
なんにしろ、街の発展に協力的であることはありがたいことね。
「ところで、ステラリア様?」
「なに?」
「なんでそんな恰好をしていらっしゃるんで?」
言われて見下ろすと、なるほど確かに私を見知った人からすると「そんな恰好」だろう装いをしていた。
「私に悪感情を持つ人に存在をばれないようにするためよ。クラリスが露骨に仕えていたらそれでバレるでしょう?」
「まあ、最初はそうだったかもしれませんがね。この街はもう大丈夫ですよ」
「ありがとう。じゃあ、出るときはドレスにしましょうかね」
「ぜひそうしてくだせえ」
その後もいくらか会話をして商人と別れ、買出しをして宿に向かう。
宿に入ってからは慣れたもので、私は夜までクラリスとおしゃべりしながら過ごしたけれど。
(私の存在を知ったうえで受け入れてもらえている……それはそれで、なんだか落ち着かないわね)
行きのときよりも安心できる状況のはずなのに、ベッドに体を横たえてもそんな考えが頭をぐるぐると巡って、なかなか寝付けないのだった。
クラリスが「本当に着替える必要ありますか?」と言ってくるのを意にも介さず、私は侍女服を身にまとって宿場町に降りる。バスティエ領の端にあるそこは、行きに訪れたときよりも活気づいているように見えた。歩いている人の数、声の大きさ、数。どれもが増しているようで。
「あら……?」
私が思わず声を漏らして隣を見ると、クラリスも首を傾げていた。
「何かあったのかしら。問題が起きてないといいんだけど」
そう言って街を歩いていると、答えは向こうからやってきた。
「クラリス様! それにステラリア様! もうお着きになったんですかい」
そう言って声をかけてきた人物に、私は見覚えがあった。
「あら、あなたは祭りにいた……」
「へえ。あっしは機動力がウリの商人なんでさ。朝から馬に乗ってここまで駆けてきたんで、おふたりより先に到着しやした」
「そうだったのね。じゃあ、なんとなく街が活発になっているように見える理由を知っているかしら?」
「そりゃもう、あっしら参加者がステラリア様のことを熱心にお伝えしたからですよ!」
商人の返答を、私はすぐに飲み込むことができなかった。
「……どういうこと?」
「この辺ではクラリス様をお慕いしている者が多く、ステラリア様の侍女になったと知ったときに不満を持つ者も多かったんす。それで、今回ステラリア様が領地に来ると知ってどんな人物なのか見てきてほしいって言われましてね。その結果を皆に報告していたところっす」
「そうだったの……それで、それがどうして街の活性化につながるのかしら?」
「ここは宿場町なんで他領の民を受け入れる必要があったっすけど、クラリス様の扱いに対する不満から他領民に対して排他的な傾向が強かったんす。それで、昨日の祭りでステラリア様と対話してこれは本物だってんで、あっしがこの街のみんなにそれを説いて回ってたんでさ」
「そのおかげで他領民によそよそしくする必要がなくなったってことね。それなら理解はできるけど……事情がどうあれ、仕事に全力を尽くさないのは感心しないわね」
「おっしゃるとおりでさ。今後はクラリス様やステラリア様のためにも心を入れ替えて領地の発展に励みまさあ。なあお前ら!」
そう言って周囲に張り上げた声を受けて、いくつもの店から「おおっ!」という声が返ってくる。自分で体験したわけでもないのに不満なく受け入れられている、その状況を作り出した商人がすごいのか、それを柔軟に受け止める町民がすごいのか。
なんにしろ、街の発展に協力的であることはありがたいことね。
「ところで、ステラリア様?」
「なに?」
「なんでそんな恰好をしていらっしゃるんで?」
言われて見下ろすと、なるほど確かに私を見知った人からすると「そんな恰好」だろう装いをしていた。
「私に悪感情を持つ人に存在をばれないようにするためよ。クラリスが露骨に仕えていたらそれでバレるでしょう?」
「まあ、最初はそうだったかもしれませんがね。この街はもう大丈夫ですよ」
「ありがとう。じゃあ、出るときはドレスにしましょうかね」
「ぜひそうしてくだせえ」
その後もいくらか会話をして商人と別れ、買出しをして宿に向かう。
宿に入ってからは慣れたもので、私は夜までクラリスとおしゃべりしながら過ごしたけれど。
(私の存在を知ったうえで受け入れてもらえている……それはそれで、なんだか落ち着かないわね)
行きのときよりも安心できる状況のはずなのに、ベッドに体を横たえてもそんな考えが頭をぐるぐると巡って、なかなか寝付けないのだった。
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