21 / 76
第二章:浸透
お茶会という名の(4)
しおりを挟む
ステラリアが去った執務室で、ポーラニア帝国の皇太子であるレイジは小さく拳を握りしめた。
「やはり、あのドレスはステラリアに似合っている」
今日のお茶会でステラリアが着ていたドレスは、レイジがデザインしたものではなく、帝都の人気デザイナーに持ち込ませたカタログから選んだものだった。
そのほかにもいくつかまとめて注文していたが、レイジは改めて自分の選んだドレスが間違いでなかったことを確信した。
「明日はまた違うドレス姿が見られるのか。楽しみだな……」
執務机に両肘をついて、組んだ両手に顎を乗せる。
そうしてうっとりとつぶやいた声をかき消すように、咳払いの音が響いた。
「殿下、私がいるのをお忘れではありませんか?」
「なんだ、セルジュ。お前いたのか」
「最初からいましたよ!」
見るからに不機嫌な表情を浮かべて、レイジがセルジュをにらむ。
「普通は交流のない令嬢と一対一でお茶会なんてさせないでしょう。いくら殿下がステラリア嬢のドレス姿をたくさん見たいからといって、そのために毎日お茶会をさせるなんて……聞いたことがありませんよ」
「まあ、前例はないだろうな。だが、ステラリアはそれを合理的だと受け入れているぞ?」
「それは令嬢が社交界を知らないからでしょう。いずれバレたら怒られますよ?」
セルジュの忠告を受けて、レイジは破顔する。
「はっはは。そんなことで怒れる日が来るといいな」
言って、レイジは目を細める。
生き残るため必死になっている今のステラリアは、目の前の壁をひとつずつ乗り越えることしかできない。
彼女が立ち止まってこれまでの歩みを振り返れるほどに余裕ができる日は、はたしていつ来るのだろうか。
「ステラリアは毎日ひとりの令嬢に集中して向き合うことができる。俺はステラリアのドレス姿を毎日見ることができる。完璧な計画だと思わないか?」
「ええ。ステラリア嬢にレイジ殿下の下心がまったく伝わらないところも含めて完璧だと思いますよ」
皮肉交じりにセルジュは答える。レイジがこんなことを考えているなど、ステラリアは欠片も感じ取っていない。
「なに、時間はまだある。彼女の邪魔にならないように、ゆっくり進んでいければいいさ」
そういうと、レイジは大きく伸びをしてペンを手に取った。
「さ、無駄話をしている場合ではないな。ステラリアがお茶会で頑張っている姿を見に行けるように努力しよう。セルジュ、お前もサボっていないで手を動かせ」
「なっ、誰のせいだと……!」
セルジュが反論しようとしたときには、すでにレイジは集中して書類に向かい始めていた。セルジュはあきらめて自分の仕事に戻る。
さまざまな思惑が絡み合いながら、皇太子宮の時間は過ぎていった。
「やはり、あのドレスはステラリアに似合っている」
今日のお茶会でステラリアが着ていたドレスは、レイジがデザインしたものではなく、帝都の人気デザイナーに持ち込ませたカタログから選んだものだった。
そのほかにもいくつかまとめて注文していたが、レイジは改めて自分の選んだドレスが間違いでなかったことを確信した。
「明日はまた違うドレス姿が見られるのか。楽しみだな……」
執務机に両肘をついて、組んだ両手に顎を乗せる。
そうしてうっとりとつぶやいた声をかき消すように、咳払いの音が響いた。
「殿下、私がいるのをお忘れではありませんか?」
「なんだ、セルジュ。お前いたのか」
「最初からいましたよ!」
見るからに不機嫌な表情を浮かべて、レイジがセルジュをにらむ。
「普通は交流のない令嬢と一対一でお茶会なんてさせないでしょう。いくら殿下がステラリア嬢のドレス姿をたくさん見たいからといって、そのために毎日お茶会をさせるなんて……聞いたことがありませんよ」
「まあ、前例はないだろうな。だが、ステラリアはそれを合理的だと受け入れているぞ?」
「それは令嬢が社交界を知らないからでしょう。いずれバレたら怒られますよ?」
セルジュの忠告を受けて、レイジは破顔する。
「はっはは。そんなことで怒れる日が来るといいな」
言って、レイジは目を細める。
生き残るため必死になっている今のステラリアは、目の前の壁をひとつずつ乗り越えることしかできない。
彼女が立ち止まってこれまでの歩みを振り返れるほどに余裕ができる日は、はたしていつ来るのだろうか。
「ステラリアは毎日ひとりの令嬢に集中して向き合うことができる。俺はステラリアのドレス姿を毎日見ることができる。完璧な計画だと思わないか?」
「ええ。ステラリア嬢にレイジ殿下の下心がまったく伝わらないところも含めて完璧だと思いますよ」
皮肉交じりにセルジュは答える。レイジがこんなことを考えているなど、ステラリアは欠片も感じ取っていない。
「なに、時間はまだある。彼女の邪魔にならないように、ゆっくり進んでいければいいさ」
そういうと、レイジは大きく伸びをしてペンを手に取った。
「さ、無駄話をしている場合ではないな。ステラリアがお茶会で頑張っている姿を見に行けるように努力しよう。セルジュ、お前もサボっていないで手を動かせ」
「なっ、誰のせいだと……!」
セルジュが反論しようとしたときには、すでにレイジは集中して書類に向かい始めていた。セルジュはあきらめて自分の仕事に戻る。
さまざまな思惑が絡み合いながら、皇太子宮の時間は過ぎていった。
0
お気に入りに追加
65
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令嬢の反撃の日々
アイアイ
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。
「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。
お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。
「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。
私が死んだあとの世界で
もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。
初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。
だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。
宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました
悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。
クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。
婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。
そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。
そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯
王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。
シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯
【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~
涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
貴方が選んだのは全てを捧げて貴方を愛した私ではありませんでした
ましゅぺちーの
恋愛
王国の名門公爵家の出身であるエレンは幼い頃から婚約者候補である第一王子殿下に全てを捧げて生きてきた。
彼を数々の悪意から守り、彼の敵を排除した。それも全ては愛する彼のため。
しかし、王太子となった彼が最終的には選んだのはエレンではない平民の女だった。
悲しみに暮れたエレンだったが、家族や幼馴染の公爵令息に支えられて元気を取り戻していく。
その一方エレンを捨てた王太子は着々と破滅への道を進んでいた・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる