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銀ラプロテピチ

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「ミックスダウンは明日だったよね。その前に歌いたい曲できた」
「マジかよ」
「超飛行少年(スーパーフライングボウイ)の銀色ラプソディとクノシンジさんのポータブルポップミュージックかな」
「2曲もできるのか?」

「山沢さんにディストーションギターとボーカルの2つのMP3を送って、玖蘭さんにポータブル~のクリーンギターのバッキングを送る」
「2人にだいたいのミックスと玖蘭さんに関してはアレンジも丸投げするのか」

「そう。頼れる人がいるなら甘えてもいいって思ったの」

2人は急なこちらの提案に笑可ちゃんのためならと引き受けてくれた。
その日の夕方に幻想的なピアノでサビのメロディを単音で弾いたイントロと打ち込みのリズムトラックが付け加えられた銀色ラプソディ(カバー)と、玖蘭さんが急遽知り合いのミュージシャンを呼び寄せて作られた原曲にかなり近いアレンジのポータブルポップミュージックの音源は次の日の昼に届いた。
サビで玖蘭さんが美しいコーラスを入れたり、笑可のボーカルを殺さない程度にキレイなハモリを入れている。

これが笑可にとってインディーズ最後の仕事になるだろう。
1ヶ月後、笑可の2ndシングルの『猫の歩く時/ポータブルポップミュージック』が店頭に並んだ。
1.猫の歩く時
2.ポータブルポップミュージック
3.悲しみスープ
4.銀色ラプソディ

この曲順で、今度は銀色のカバーを聞きたさに試聴機におっさんが群がる独特な景色を2人で確認した。
笑可がもしも音楽活動につまずいた時は、再始動したバンドか再び音楽を奏で始めたクノさんみたいな人をイメージして何年も休んでもいいから、ゆっくり進むことが大切なのかも。

「やっぱり店員さんに聞いてきて」
「そう言うと思った」
そして店員に尋ねると120枚売れたと答えが返ってきた。
今の時刻は19:45。
つまり前回よりも遅く来店したのと確実に彼女のファンが増えている証拠だと見て取れた。

「笑可はメジャーデビューできたら何がしたい?」
「性被害のことさえなければ台湾とか香港とか行きたかった。豹馬が着いてくるなら行こうか迷ってる」
「悪くないかもね。行っちゃう?」
「行こうよ」

こうして電撃的に台湾行きが決まった。
ももすももすさんがMV撮影で行ってたのに触発された感じだ。

「それにしてもCDの裏ジャケに水絵さんの飼い猫のすみれちゃん載せてもらったけど、本当にかわいかった。水絵さんの指をなめるすみれちゃん見て、はわわぁってなった」

「あまりに初日にしてはCDが売れるからインディーズなのに面陳されてたよね。
慌てて絵の上手い店員さんが描いたと思しき猫のイラストのポップまで付いてたし」
「感動してスマホで撮っちゃったよ。emikaの名前もレタリングなノリで書かれてたし」

この頃になると、性被害を克服しようと活動している彼女を応援したいと思ったレコード店の店員(やはり女性が多め)がクオリティの高いポップでどこまで宣伝できるか競い合っていた。

笑可は喜んでそれらのツイートにお礼の言葉を自らリプしていた。
だが彼女が凌辱される様を書いたふざけた小説やイラストを書くゲス野郎もいて、通報により消しているものの笑可が見ていない訳もなく。

彼女に直接問えないものの、本当は傷ついてるんじゃないかと思ったりした。
「何か悩みは無いの?」
「ん?   全然。本当にプロになれるのか?   って不安くらいはあるけど」

どうやらそんなに気にしてないみたいだ。
リアルタイム検索で彼女の歌についての反応を調べると「選曲渋い」「カバーで久しぶりにクノシンジ気になって調べたら、いつのまにかクノくん復活しててうれしい」
それとラップなノリで猫を可愛がる笑可をイメージした文章と動画を上げてる女性ラッパーがいた。

「あれ。mieさんだ」
「mieってのは何者なんだ?」
「えー!?  知らないの?    JKの心をつかみまくってる現役ラッパーだよ」
笑可は曲作りの間にTiktokやYouTubeを見てるらしく、ボクなんかより世間の流行を熟知してるみたいだ。

「槇原ドリルいいよね。槇原敬之さんとさだまさしさんは書く歌詞深くて好きだわ」
「そうだな(槇原ドリルって何だ??)」

「豹馬、槇原ドリル知らないんでしょ。もう恋なんてしないを独特なリミックスしてTiktokで流行りまくってるミームだよ」
「なるほど」
「しかも公式が認めてる」
「槇原さんは懐深いな」

「7分以上の曲いつか作りたいな。ゆりあさんに師事する時、長尺の歌を聞き飽きさせずに作る方法真っ先に聞こうかな」
「なんでそんな長い歌作りたいんだよ」
「だってXJAPANのForever LoveとかヒプマイのNext Stageとか他のヒプマイの歌もそうだけど、長くても聴いてられる歌って作業用BGMに役立つから」

そんな長い歌をレコード会社のスタッフに提案しても大丈夫なのか?   とまだどこにも所属が決まってないにも関わらず心配してしまった。

「歌詞覚えられるのかよ」
「いざとなったら、町田康先生ばりに歌詞カード持ちながら歌うのもいいかなって。
普通の歌ならさすがに歌詞見なくても歌えるけど長い歌は自信ないや」

笑可が猫好きだから知ったけど、そういえば保護犬2匹、保護猫はもはや多すぎて何匹かわからないくらい飼ってる芥川賞作家にいたな。そんな人。

「いつか気い狂いて、カバーしたい」
「町田康の歌なら心のユニット辺りが無難だろ」
確かに町田先生のミュージシャン時代のように売れないのは困るし……と言葉に詰まった笑可。

まだ3月だけど寒いね…と言う笑可。
ボクはというと、帰ってから両親から海外に行く許可を取らなければならない。
とはいえ、笑可との関係を知ってるから許可もお金も出してもらえるだろう。
いつかバイトするようになったら、そのお金は返せばいい。

「台湾楽しみだな」
「そうね。果物とかスイーツおいしそう」

自分の音楽の関わる場面だと不思議とPTSDに悩まされる状態から少しだけ解放される笑可。
これが音楽療法ってやつか。
彼女がやり遂げたと思うまで、ベーシスト兼マネージャーとして添い遂げたい。
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