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僕らだけの未来

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白いエレクトリックギターを構えた笑可がクリーンサウンドで弾いて、ララララーとか豚野菜炒めは売り切れーとかテキトーな仮歌を口ずさむ。

歌詞が浮かばないと言う彼女に子供の頃の思い出を聞いてみる。
「花の蜜を吸っておいしいと思ってたら、どんどん止まらなくなってきたこととか?」
「それいいじゃん」

G
花の蜜をー
C         D
吸っていたらー
Em 
止められない
Am
いつのまにか
Dsus4    D
8本くらい
Gmaj4
吸い終わってる

笑可の歌はしっかり歌になってた。
彼女のギターと歌をスマホのボイスレコーダーアプリで録音しきる。

「曲作るって楽しいね。余計なこと考えなくてすむ。次にどんなコードを鳴らすか考えてギターを弾くの楽しい」

山沢さんいわく、20曲以上から曲のバリエーションが浮かばない壁にぶち当たるらしい。
思えば山沢さんのボカロP時代の曲もまともに作れていたのは50曲中20曲くらいだった。

他はサッカーで言う守備崩壊みたいなもので歌詞やメロディが明らかにテキトーだったりで世の中のミュージシャンが天才なんだとしみじみ思わされた。

笑可はギターを弾くのをやめて、山沢さんにLINE通話をしているようだ。
「山沢さん?    dimって何?」
「ディミニッシュ。KANA-BOONとかが時々使うね。押さえるのめんどいコード多いだろうし、何となく代替コードで変えてもいいんじゃない?何7(セブンス)だったかな。
昔フジファブリックのミラクルレボリューションNo.9のサビをパクった歌作る時に代用コードでごまかしたんだよね」

「山沢さん、ディミニッシュの代用コードについてのサイト送ってくれてありがとう。参考にするね」

そして笑可は丸サ進行を使いつつ、「麻布十番の雨しぐれ」という暗い歌も完成させた。
「さユりさんみたいなアコギで弾き語る女の子に憧れるけど、1年前に伯父のアコギ触らせてもらった時弦が硬すぎてエレキの方がいいってなったんだよね」
「そうなのか」
「アコギはエグい指タコできるよ。クラスメイトで音楽やってる子の手触らせてもらったことあるけどめっちゃ固かった」

「あれ?  なんだろ。山沢さんからYouTubeのリンク送られてきた」
そこには超飛行少年(スーパーフライングボーイ)の銀色ラプソディという曲のURL。
そしてジャパハリネットの哀愁交差点という曲のURLも送られてくる。

どちらも切なかったり悲しい雰囲気で、でもエモい曲だ。
山沢さんと子供時代ぶりに関わると、とにかく彼の青春時代に流行ってたバンドに詳しくなれる。

高卒で仕事を探すことになったら『最終学歴を書いて封筒に入れる。最近そんな毎日が当たり前になってきた』という銀色~の歌詞に共感できるんだろうか。

スポーツもロックシーンも移り変わりが激しい世界だ。
10年経って一人の選手や1つのバンドが現役を続けている保証はない。
生きてはいるけど、表舞台から姿を消してしまう。

もし、笑可が音楽の道をしっかり突き進むなら長く細く続けて欲しいと思った。

彼女の鳴らすクリーントーンのギターが響いていた。


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