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道化師のソネット〜陽だまりの中〜

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よく晴れた日曜日の朝。
ボクは笑可を家に呼んでいた。
ハーモニカでさだまさしの道化師のソネットの出だしを吹いた後、茜色の夕日をフルで吹き続けた。

そしたら少し疲れた。
笑可は自分を慰めようとしているボクを素直に見ていた。

ソファーに座り、ボクが小さい頃から愛用してるネコのぬいぐるみに時折話しかけつつ笑可は自分の近況を話し出してくれた。
「市販薬ODしちゃうし、でも医師から処方され始めた睡眠薬は正しい量で飲んでる。
豹馬が私を慰めようとしてくれてるの、わかるよ。茜色の夕日、よくフルで弾けるようになったね」

「ただ、笑可の力になりたかったからだよ。君が笑うならピエロにでもなる」
少しいい案が思いついていた。
世の中、おかしい男ばかりじゃないと証明するために彼女以上にフジファブリックが好きすぎて志村正彦への歌を全く伸びない再生数でも上げている親せきのお兄さんを紹介したくなったのだ。

山沢ホリゾン。
それが彼の芸名だった。
モテたいを目的に女性配信者200人に200曲書いたのにリズム音痴が起因して、提供曲の6分の1くらいしか歌われなかった悲劇のミュージシャン志望。
ラノベか純文学か筒井康隆だけを読んで、ヒプアニに爆笑しながら「もういちいち聞かなくても、決まりきったコード進行で作ってるから自信がある」と
自作曲をその時流行ってるJPOPか邦ロックを聴き、作る変人。

女性に相手にされたことはほぼなく、風俗だけが生きがい。
冴えないけど、彼の書く歌には魔法がある。

「あのさ、オレの親せきに会わせてみたいんだ」
「私を?」
「今、連絡かけてみる」

「あっ、山沢おじさん?   ボクの女友達に即興でオリジナルソング作ってくれないか。あと男性にトラウマあるんだよね、その子」
スマホの向こうで山沢さんは驚きの提案をした。

「じゃ、オレ女装初チャレンジするからその子によろしくってさ」
ボクの言葉に驚きつつ、笑ってしまう笑可。
「あはは。そのおじさん、お兄さんか。面白い。女装してまで気を使ってくれるなんて」
「うん。まさか女装するつもりなんて思わなかったよ」

「私にオリジナルソング作るってホントなの?」
「本人いわく、1曲伴奏だけなら20分で作り上げるらしい」
「やば」
「好きなミュージシャンが作曲した数が300曲以上でそこに追いつこうとしてるらしい」
「そうなんだ。それでもいい人そう」

ボクは笑可とバウムクーヘンを食べた。
「バウムクーヘンっていうと、フジファブリック志村正彦さんが年輪を重ねていくように人は成長するものだけど、そんなふうに自分も成長していきたいみたいなことをCHRONICLEのインタビューで言ってたよね 」
「そうね。私もこれから……やり直せるかな」
「やり直せるぜ、生きてる限り」

こんな時、未成年じゃなければビールでピザを流し込むテンションの上げ方を彼女としたかった。
今夜はブギーバックの歌詞さながらに。

今、聴かせたい歌がある。
そう言いながらさだまさしさんのいのちの理由をかける。

深い歌詞に笑可は平常心をなくして、感動に泣き始めた。
何か作品を本気で作ってる人間ならば槇原敬之さんか岡村靖幸さんのように薬物には走れど、人を傷つける犯罪は起こさない。

そんなことを世のミュージシャンやXに曲を載せるDTMerには思ったりするボクであった。
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