思い出に花を、君に唄を

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授業参観

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 結論から話すと、俺が寝込んでから本当に8年の月日が経っていたらしい。
 正直信じられない話だが、家には沙雪が小学校を卒業したという証拠が残っていた。
 俺がもともと居た会社は、経営難により潰れてしまったらしい。
 何やら、横領の発覚や時代の発展に付いていけなかったことが原因だそうだ。
 例のナイフを持った男は、精神病院に搬送される最中、逃げ出してしまったらしい。その後も結局行方知れずだそうだ。
 病院で目覚めてからの俺は8年寝込んでいたということもあってか、腹の傷が完治した後にすぐリハビリを始めた。
 今ではすっかり前と同じくらい。むしろ、それ以上動けるくらいまで回復した。
 その動きには、あの噓つきの医者も驚いていた。
 「本当に大丈夫なんですか?体に違和感などはありませんか?」
 などと、しつこく聞かれたのが未だに印象に残っている。
 現在は、あの問題児である後輩の経営する会社に勤めている。
 後輩はあの事件の後、病院で治療を受けた後すぐに目覚めて、自分で起業するというアイデアを閃いたらしい。
 あの時、一緒に後輩を運んでくれた3人に声を掛け、会社を辞めたのだとか。
 そこから何故か全てがうまく行き、前の会社が潰れたのに比べて、後輩の会社は世界で戦えるような大企業へと進化したのだとか。
 まぁ、詳しい話は聞いていないのだが。
 そんなおり、俺が目覚めたらしい。
 後輩は俺が目覚めたと知るや、自分の仕事も無視して真っ先に挨拶をしに来てくれた。
 何なら、俺が入院している間の病院代やら家への仕送りも8年間、後輩がやってくれていたらしい。
 「自分は先輩が居てくれたから生きています。あの時、自分のことより俺を優先してくださった恩義には報いたいです」
 とのことで、何から何まで世話になりっぱなしだ。
 何か返さなければならないかなとも考えたが、8年眠っていた俺にできることはなさそうだった。
 せいぜい、甘えさせてもらうことにしている。
 そんなこんなで俺は今、8年越しに真理の授業参観に出ている。
 俺に似たのか、娘は控えめな性格になっており、授業中でも手を挙げることは無かった。
 それでも、自分の娘が元気に学校に行き、すくすくと成長しているのを実感できた。
 8年の間の成長を見逃した。いや、それ以上の成長に目を向けなかった父親だったが、これからはそれを埋められるように家族を大事にしようと思う。
 

 きっと、これからたくさんのことが起きるのだと思う。
 俺も、周りも年月を重ねていき、変わっていくのだろう。
 確かに、うまく行かないこと、ままならないこともたくさんあるだろう。
 自分ではどうしようもないことだって起きるだろう。8年前の事件のように。
 この先、俺や周りがどうなっていくかを予測することなんて出来はしない。
 偶然の出会いが人生を変えることだってある。
 そんなことを死ぬまで繰り返して、これからを生きていくんだ。
 少なくとも、俺はそう思っている。
 だから、少しでも。多くでも、楽しい事ややりたいことをしよう。
 死ぬ時に後悔をしないような、そんな生き方をしよう。
 今を噛みしめて生きていこう。
 8年間治らなかった腹の傷の疼きを感じながら。
 自分が自分ではなくなるような感覚にとらわれながら。
 握りしめたナイフに力を込めながら、俺はそう誓った。
 「ささっかいいわぎぎあいいな」
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