思い出に花を、君に唄を

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書類は燃える

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 社内の一角は、完全に火に包まれていた。
 社内に鳴り響く火災報知器は、そのまま近くの消防署へと連絡を飛ばしてくれていることだろう。記憶によれば、そういう契約でシステムを導入したものはずだ。
 こんな大惨事を引き起こした部下を叱責したい気持ちはやまやまだが、今は正直それどころではない。そんなことをしていたら、火の手が建物全体に及んでしまうだろう。
 火種は書類から書類へと、容赦なくその勢力を確実に広げていく。
 「消火器持ってこい!」
 俺は、燃える書類の前で呆然としている後輩を怒鳴りつけ、消火器を取りに行かせる。
「先輩!消火器です!」
 部下が持ってきた消火器を取り上げ、書いてある説明を読む。
 生まれてこの方、消火器なんてものを使ったことは無いが、ありがたいことに知らない人のためにご丁寧な説明が乗っているため、簡単に消化液を噴出することが出来た。
 後はこれを使って、これ以上火の手が上がらないように食い止めるだけだ。
 「危ないから下がってろ!」
 消火器を持ってきた部下や命知らずな野次馬たちに一声かけ、俺は勢いよく出る消化液を燃えさかる書類たちに向ける。
 火事なんかよりも、消化をした後の後始末の心配の方が勝るが、火事なんかで会社が無くなってしまえばそれこそ困る。
 書類が燃えてしまっているのは残念だが、管理もろくにできず、無駄に溜め込み続けた書類を処分してもらえたと考えれば、少しは気が楽だ。
 実際、過去にこの書類をどうにかしようと上司に稟議を出したこともあるが、結局一笑されただけで終わってしまった苦い記憶がある。
 「どうすることもできないなら、このまま燃えてくれた方がいいかもな」
 消火活動をする手を止めることまではできないにしても、心のどこかでは、このまま書類がすべて燃えてくれればいいのに何てことを考えてしまう。
 そんなこんなで、消化のプロである消防署の人たちが駆けつけてくれたことで、火種は完全に消えた。
 最終的に火災報知器が鳴り止んだのは、時計が12時を指した頃のことだった。
 その後も、社内は軽くパニックを起こしてはいたが、そのうち収まることだろう。
 この会社に勤めて20年ほど経つが、社内で火事が起こった。何て言う大事件は初めてだ。
 いい経験をしたと言えば聞こえはいいだろうが、実際そんなにいい経験というわけでもない。
 この部下が来てからというもの、パソコンは壊すわ、車で事故を起こすわ、書類は無くすわ、といった具合に度々問題を引き起こしている。
 その度に上司であり責任者でもある俺が、監督不行き届きとしてさらに上の上司に怒られる始末である。
 出来ない部下を持つと大変だと言うが、本当にその通りだ。
 火事騒動は完全に収まり、昼休憩を知らせる社内ベルが鳴り響く。その音を皮切りに、皆が一斉にげっそりとした顔で昼休憩に入る。
 周りが休憩に入る中、俺と火事を引き起こした張本人である俺の部下は、いつものごとくさらに上の上司の机に呼び出された。
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