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第十章 混乱と動乱
第240話 決意
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ノエインに向かって、テーブルに額をこすりつけるように頭を下げるジュリアン。
「……………………はあぁ~」
ジュリアンの頭のてっぺんを見下ろしながら、ノエインは長考の果てに深く長く息を吐いた。
「……キンバリー」
「はい、旦那様」
部屋の隅で影のように存在感を消していた家令のキンバリーが即座に返事をする。
「屋敷の近くに、まだ何軒か空き家が残ってたはずだ。そのひとつを宿としてジュリアン・キヴィレフト殿のご一行に提供して。準備ができるまでは屋敷の客間で休んでもらって」
「かしこまりました」
そのやり取りを聞いたジュリアンが、顔を上げて輝くような表情を見せる。実際に、その顔面は涙と鼻水でキラキラと輝いている。
「あに、ノエイン殿! ありがとうございます! ありがとうございます~!」
「あー、もういいから。そういうのいいから」
テーブルに身を乗り出すように寄ってくるジュリアンを、ノエインは不愉快そうな表情で押しのける。
「別に異母兄弟として同情したわけじゃない。君は謝礼に2000万レブロを提示した。僕はそれが今までの確執を一旦脇に置いて、君の一行を保護するのに足る金額だと判断した。だから僕はそれを受け取って、君の滞在を許す。それだけだ」
努めてそっけない口調で言うノエイン。
「しばらくいていいけど、王国が戦争に勝って情勢が落ち着いたら出て行ってよ。ていうか追い出すから……その後の君たち一族の身の振り方についても、王家なり他の貴族なりに口利きくらいはしてあげるよ」
「わか、分かりましたぁ!」
ノエインのぶっきらぼうな言い方を気にした様子もなく、ジュリアンは笑顔でコクコクと頷いた。
「お客様、ひとまず客間の方へご案内いたします。こちらへどうぞ」
キンバリーが促すとジュリアンは立ち上がり、彼に続いてエルンストも退室しようとする。その背中へノエインは声をかけた。
「アレッサンドリ卿。あなたは残っていただけますか? 少し話したいことが」
「……はっ。何でございましょうか?」
ジュリアンが退室して扉が一度閉められてから、エルンストは答えた。
「今から七年前になりますか。パラス皇国との国境紛争で、キヴィレフト伯爵家の雇った傭兵団が捨て駒にされそうになり、伯爵領軍の騎士を斬って逃亡するという事件があったはずです。ご存知ですか?」
「……憶えております。傭兵団を雇う際の契約の実務は私が行いましたので」
「その傭兵団の団長をはじめとした数人の生き残りが王国北西部まで逃げ延び、縁あって今は私のもとで従士になっています」
ノエインの言葉を聞いたエルンストは、少しだけ眉を上げた。
「その事実を聞いて、あなたはどう思いますか? 領軍の仲間を殺された恨みを晴らしたいですか? 王家や他の貴族家にこのことを報告したいですか?」
声色は穏やかに尋ねながら、ノエインは凍るような目でエルンストを見据える。
「……いえ。もう過去の話です。実際に部下を斬られたのは私ではなく、当時紛争へと出征した部隊の隊長ですので。その者もベトゥミアの侵略で死んだでしょうから……私の新たな主君であるジュリアン様を受け入れていただいた閣下へのご恩を考えても、私が閣下の不利益になるような報告をすることは決してございません」
今のジュリアンとノエインでは、王国がベトゥミアを撃退して存続した後、どちらの立場が強いかは明らかだ。ここで自分がノエインに逆らう意味も利点もない。エルンストはジュリアンの部下としてそう考えた。
「それはよかった。あなたがそのまま賢明であられることを願います。あなたの主君のためにも」
もし口外すればジュリアンを害する。そう仄めかしたノエインに、エルンストは無言で小さく頭を下げる。
「……ああ、それとあとひとつ」
先ほどまでの冷たい目を止めて、急に軽い口調になるノエイン。
「魔道具職人のダフネ・アレッサンドリはあなたの親戚ですか?」
「……はい。私の姪です」
ダフネはラーデンを去るときに伯父にも移住先を伝えていたのだろう。思い当たる節があるのか、エルンストはさほど驚いた様子もなく頷いた。
「やはりそうですか。本人からも聞いているかもしれませんが、彼女は今このアールクヴィスト領で工房を構えています。もしよろしければ後日、会えるよう取り計らいましょう」
「……お気遣い、感謝申し上げます」
深く頭を下げ、エルンストは今度こそ退室していった。
・・・・・
ジュリアンとエルンストの退室を見送った後、ノエインは体の力を抜いてだらしなくソファの背もたれに寄りかかる。
マチルダとクラーラと三人きりになると、ノエインは後ろに立っていたマチルダも隣に座らせて、二人を自分に寄り添わせた。
「……めちゃめちゃ疲れた」
「無理もありませんわ」
「本当にお疲れ様でした、ノエイン様」
ノエインが呟くと、二人はノエインを挟むように両側から抱き締め、ノエインの頭を撫でながら答える。
「二人ともありがと……まったく、なんでジュリアンもここまで来ちゃうかな。おまけに2000万レブロも持ってるくせにその切り札をいきなり明かすとか、何考えてるんだろうね。僕に恨まれてる自覚ないのかな。僕がジュリアンたちを皆殺しにしてお金だけ奪おうとしたらどうするつもりだったんだろ」
あんな身なりをしていたということは、身分も隠しながら逃げ続けていたのだろう。キヴィレフト一族の生き残りがここに来たことなど誰も知るまい。彼らを殺して焼くか埋めるかすればこの件は闇の中だったはずだ。
「でも、あなたはそうはしませんでした」
「……赤ん坊がいたからね」
これ以上なく優しい笑顔のクラーラに言われて、ノエインも力なく笑って答えた。
答えながら、ノエインの怒鳴り声に驚いて泣き出した赤ん坊を思い出す。底抜けの馬鹿であるジュリアンに顔立ちが似ているからか、あまり利発そうには見えなかった赤ん坊を。
「あの赤ん坊にはまだ何の罪もないからね。それなのにジュリアンの息子だからって理由だけで害したら、僕はあのクソ父上と同じに成り果てちゃうから。赤ん坊には母親が必要だし、あの頼りないご婦人が生きていくにはあんな馬鹿でも夫が必要だろうし。だから全員生かしてあげたんだよ」
「ええ、きっとそうお考えになったのだろうと思いました。あなたは優しいお方です」
「……自分が堕ちたくなかっただけだよ」
照れ隠しのように少し口をとがらせながらノエインが言うと、クラーラは愛しそうにノエインの顔を寄せてその頬にキスをした。
「マチルダ、ごめんね。君だってジュリアンにいい感情は持ってないだろうに」
「私に謝られる必要などありません。ノエイン様のお考えやご決断に私が疑問や異議を持つことなどあるはずがございません」
少し不安げな表情のノエインにマチルダは微笑んで答えながら、ノエインの頭を自分の胸に抱くように引き寄せる。
マチルダとクラーラに寄り添われて、ノエインは少しの間黙り込んだ。そして、ふと天井を見上げながら口を開いた。
「……それにしても……あのクソ父上……死んだのかぁ」
最後にマクシミリアンと会ったのが、二年前の王城での晩餐会だ。あのときノエインは、どうかこれからも長生きをしろと、生きて庶子の成功の噂を聞きながら悔しい思いをし続けろとマクシミリアンに言い放った。
しかし、マクシミリアンは死んだ。確定ではないが、状況から言ってほぼ確実に死んだ。2年前にノエインが伝えた些細な願いすらも、あのろくでもない父親は聞いてくれなかったらしい。
「なあぁぁにやっってんだよあのジジイ……」
深く深く息を吐きながらノエインは嘆く。マチルダとクラーラは何も言わずノエインの両隣に寄り添う。
「なにが領主の役目を果たして戦死しただよ。散々クズな生き方してたくせに最後だけかっこつけやがって。どうせ逃げ出して貴族社会で後ろ指差されるのが嫌だっただけでしょ。簡単に死んでんじゃねーよ。人生をかけた僕の復讐が台無しだ。誰に見せつけるために僕が今まで頑張ってきたと……」
「……ノエイン様」
「……あなた」
ぐちぐちと悪態を呟くノエインを、両側からマチルダとクラーラがより一層強く抱き締める。
「たとえあなたが父君への復讐として始めた開拓でも、結果としてあなたのおかげで多くの人々が幸福を手にして、人生を救われてきました。私もその一人です。あなたは偉大な領主貴族です。あなたの父君とは比べ物にならない素晴らしい領主です。この地で暮らす私たち全員がその証人です」
「マクシミリアン・キヴィレフトの存在の有無など、もはや何も関係はありません。ノエイン様は今、確かな幸福を手にしておられます。アールクヴィスト領の全員がノエイン様の庇護下で幸福を得ています。あなた様の幸福が私たちの幸福であり、私たちの幸福はあなた様のものです」
二人に耳元で囁くように説かれて、ノエインも悪態を止める。二人の耳心地の良い言葉に心を洗われる。
「……そうだね。二人の言う通りだ。マチルダもクラーラも、ありがとう」
フッと微笑んで、ノエインはソファの背にもたれていた体を起こした。
「決めた。僕は新しい復讐を始める。僕はマクシミリアン・キヴィレフトとは違う人生を生き抜く。あのクソ父上よりも長く生きて、愛する家族や部下や領民に囲まれて、最後は穏やかに幸福にこの世を去る。そうなれるように、その理想的な最期の日までこれからも生きるんだ」
不貞腐れた表情で悪態をついていた先ほどまでとは打って変わって、ノエインは力強く語る。
「そのために、まずは目の前の脅威に打ち勝つ。異国の侵略者なんかに僕の領地を蹂躙させてたまるか。民や部下や家族の幸福を、僕自身の幸福を、戦争なんかに脅かされるなんて冗談じゃない。どんな手を使ってでも海の向こうに追い返してやる」
民を愛し、民に愛され、部下たちを信頼し、部下たちに信頼され、愛する家族に囲まれて暮らす幸福な日々をこれからも守る。必ずこの危機を乗り越える。
ノエインはそう決意した。
「……………………はあぁ~」
ジュリアンの頭のてっぺんを見下ろしながら、ノエインは長考の果てに深く長く息を吐いた。
「……キンバリー」
「はい、旦那様」
部屋の隅で影のように存在感を消していた家令のキンバリーが即座に返事をする。
「屋敷の近くに、まだ何軒か空き家が残ってたはずだ。そのひとつを宿としてジュリアン・キヴィレフト殿のご一行に提供して。準備ができるまでは屋敷の客間で休んでもらって」
「かしこまりました」
そのやり取りを聞いたジュリアンが、顔を上げて輝くような表情を見せる。実際に、その顔面は涙と鼻水でキラキラと輝いている。
「あに、ノエイン殿! ありがとうございます! ありがとうございます~!」
「あー、もういいから。そういうのいいから」
テーブルに身を乗り出すように寄ってくるジュリアンを、ノエインは不愉快そうな表情で押しのける。
「別に異母兄弟として同情したわけじゃない。君は謝礼に2000万レブロを提示した。僕はそれが今までの確執を一旦脇に置いて、君の一行を保護するのに足る金額だと判断した。だから僕はそれを受け取って、君の滞在を許す。それだけだ」
努めてそっけない口調で言うノエイン。
「しばらくいていいけど、王国が戦争に勝って情勢が落ち着いたら出て行ってよ。ていうか追い出すから……その後の君たち一族の身の振り方についても、王家なり他の貴族なりに口利きくらいはしてあげるよ」
「わか、分かりましたぁ!」
ノエインのぶっきらぼうな言い方を気にした様子もなく、ジュリアンは笑顔でコクコクと頷いた。
「お客様、ひとまず客間の方へご案内いたします。こちらへどうぞ」
キンバリーが促すとジュリアンは立ち上がり、彼に続いてエルンストも退室しようとする。その背中へノエインは声をかけた。
「アレッサンドリ卿。あなたは残っていただけますか? 少し話したいことが」
「……はっ。何でございましょうか?」
ジュリアンが退室して扉が一度閉められてから、エルンストは答えた。
「今から七年前になりますか。パラス皇国との国境紛争で、キヴィレフト伯爵家の雇った傭兵団が捨て駒にされそうになり、伯爵領軍の騎士を斬って逃亡するという事件があったはずです。ご存知ですか?」
「……憶えております。傭兵団を雇う際の契約の実務は私が行いましたので」
「その傭兵団の団長をはじめとした数人の生き残りが王国北西部まで逃げ延び、縁あって今は私のもとで従士になっています」
ノエインの言葉を聞いたエルンストは、少しだけ眉を上げた。
「その事実を聞いて、あなたはどう思いますか? 領軍の仲間を殺された恨みを晴らしたいですか? 王家や他の貴族家にこのことを報告したいですか?」
声色は穏やかに尋ねながら、ノエインは凍るような目でエルンストを見据える。
「……いえ。もう過去の話です。実際に部下を斬られたのは私ではなく、当時紛争へと出征した部隊の隊長ですので。その者もベトゥミアの侵略で死んだでしょうから……私の新たな主君であるジュリアン様を受け入れていただいた閣下へのご恩を考えても、私が閣下の不利益になるような報告をすることは決してございません」
今のジュリアンとノエインでは、王国がベトゥミアを撃退して存続した後、どちらの立場が強いかは明らかだ。ここで自分がノエインに逆らう意味も利点もない。エルンストはジュリアンの部下としてそう考えた。
「それはよかった。あなたがそのまま賢明であられることを願います。あなたの主君のためにも」
もし口外すればジュリアンを害する。そう仄めかしたノエインに、エルンストは無言で小さく頭を下げる。
「……ああ、それとあとひとつ」
先ほどまでの冷たい目を止めて、急に軽い口調になるノエイン。
「魔道具職人のダフネ・アレッサンドリはあなたの親戚ですか?」
「……はい。私の姪です」
ダフネはラーデンを去るときに伯父にも移住先を伝えていたのだろう。思い当たる節があるのか、エルンストはさほど驚いた様子もなく頷いた。
「やはりそうですか。本人からも聞いているかもしれませんが、彼女は今このアールクヴィスト領で工房を構えています。もしよろしければ後日、会えるよう取り計らいましょう」
「……お気遣い、感謝申し上げます」
深く頭を下げ、エルンストは今度こそ退室していった。
・・・・・
ジュリアンとエルンストの退室を見送った後、ノエインは体の力を抜いてだらしなくソファの背もたれに寄りかかる。
マチルダとクラーラと三人きりになると、ノエインは後ろに立っていたマチルダも隣に座らせて、二人を自分に寄り添わせた。
「……めちゃめちゃ疲れた」
「無理もありませんわ」
「本当にお疲れ様でした、ノエイン様」
ノエインが呟くと、二人はノエインを挟むように両側から抱き締め、ノエインの頭を撫でながら答える。
「二人ともありがと……まったく、なんでジュリアンもここまで来ちゃうかな。おまけに2000万レブロも持ってるくせにその切り札をいきなり明かすとか、何考えてるんだろうね。僕に恨まれてる自覚ないのかな。僕がジュリアンたちを皆殺しにしてお金だけ奪おうとしたらどうするつもりだったんだろ」
あんな身なりをしていたということは、身分も隠しながら逃げ続けていたのだろう。キヴィレフト一族の生き残りがここに来たことなど誰も知るまい。彼らを殺して焼くか埋めるかすればこの件は闇の中だったはずだ。
「でも、あなたはそうはしませんでした」
「……赤ん坊がいたからね」
これ以上なく優しい笑顔のクラーラに言われて、ノエインも力なく笑って答えた。
答えながら、ノエインの怒鳴り声に驚いて泣き出した赤ん坊を思い出す。底抜けの馬鹿であるジュリアンに顔立ちが似ているからか、あまり利発そうには見えなかった赤ん坊を。
「あの赤ん坊にはまだ何の罪もないからね。それなのにジュリアンの息子だからって理由だけで害したら、僕はあのクソ父上と同じに成り果てちゃうから。赤ん坊には母親が必要だし、あの頼りないご婦人が生きていくにはあんな馬鹿でも夫が必要だろうし。だから全員生かしてあげたんだよ」
「ええ、きっとそうお考えになったのだろうと思いました。あなたは優しいお方です」
「……自分が堕ちたくなかっただけだよ」
照れ隠しのように少し口をとがらせながらノエインが言うと、クラーラは愛しそうにノエインの顔を寄せてその頬にキスをした。
「マチルダ、ごめんね。君だってジュリアンにいい感情は持ってないだろうに」
「私に謝られる必要などありません。ノエイン様のお考えやご決断に私が疑問や異議を持つことなどあるはずがございません」
少し不安げな表情のノエインにマチルダは微笑んで答えながら、ノエインの頭を自分の胸に抱くように引き寄せる。
マチルダとクラーラに寄り添われて、ノエインは少しの間黙り込んだ。そして、ふと天井を見上げながら口を開いた。
「……それにしても……あのクソ父上……死んだのかぁ」
最後にマクシミリアンと会ったのが、二年前の王城での晩餐会だ。あのときノエインは、どうかこれからも長生きをしろと、生きて庶子の成功の噂を聞きながら悔しい思いをし続けろとマクシミリアンに言い放った。
しかし、マクシミリアンは死んだ。確定ではないが、状況から言ってほぼ確実に死んだ。2年前にノエインが伝えた些細な願いすらも、あのろくでもない父親は聞いてくれなかったらしい。
「なあぁぁにやっってんだよあのジジイ……」
深く深く息を吐きながらノエインは嘆く。マチルダとクラーラは何も言わずノエインの両隣に寄り添う。
「なにが領主の役目を果たして戦死しただよ。散々クズな生き方してたくせに最後だけかっこつけやがって。どうせ逃げ出して貴族社会で後ろ指差されるのが嫌だっただけでしょ。簡単に死んでんじゃねーよ。人生をかけた僕の復讐が台無しだ。誰に見せつけるために僕が今まで頑張ってきたと……」
「……ノエイン様」
「……あなた」
ぐちぐちと悪態を呟くノエインを、両側からマチルダとクラーラがより一層強く抱き締める。
「たとえあなたが父君への復讐として始めた開拓でも、結果としてあなたのおかげで多くの人々が幸福を手にして、人生を救われてきました。私もその一人です。あなたは偉大な領主貴族です。あなたの父君とは比べ物にならない素晴らしい領主です。この地で暮らす私たち全員がその証人です」
「マクシミリアン・キヴィレフトの存在の有無など、もはや何も関係はありません。ノエイン様は今、確かな幸福を手にしておられます。アールクヴィスト領の全員がノエイン様の庇護下で幸福を得ています。あなた様の幸福が私たちの幸福であり、私たちの幸福はあなた様のものです」
二人に耳元で囁くように説かれて、ノエインも悪態を止める。二人の耳心地の良い言葉に心を洗われる。
「……そうだね。二人の言う通りだ。マチルダもクラーラも、ありがとう」
フッと微笑んで、ノエインはソファの背にもたれていた体を起こした。
「決めた。僕は新しい復讐を始める。僕はマクシミリアン・キヴィレフトとは違う人生を生き抜く。あのクソ父上よりも長く生きて、愛する家族や部下や領民に囲まれて、最後は穏やかに幸福にこの世を去る。そうなれるように、その理想的な最期の日までこれからも生きるんだ」
不貞腐れた表情で悪態をついていた先ほどまでとは打って変わって、ノエインは力強く語る。
「そのために、まずは目の前の脅威に打ち勝つ。異国の侵略者なんかに僕の領地を蹂躙させてたまるか。民や部下や家族の幸福を、僕自身の幸福を、戦争なんかに脅かされるなんて冗談じゃない。どんな手を使ってでも海の向こうに追い返してやる」
民を愛し、民に愛され、部下たちを信頼し、部下たちに信頼され、愛する家族に囲まれて暮らす幸福な日々をこれからも守る。必ずこの危機を乗り越える。
ノエインはそう決意した。
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