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第七章 内政の日々と派閥争い

第154話 ゴーレム隊の初出動

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 夏真っ盛りのある日。領軍詰所の訓練場に並ぶ傀儡魔法使いたちを前に、ノエインは声を張った。

「まずは、君たちのこれまでの努力を称えたい。訓練が始まってからおよそ十か月。毎日ひたすらゴーレムを動かし続けるという精神的にも過酷な日々を、よくこれまで乗り越えてくれたね。まだ全ての訓練が終了したわけではないけど、皆この領に来た当初とは別人と言っていいくらい成長してくれた」

 ノエインの言葉を聞くグスタフたち七人の傀儡魔法使いの後ろには、彼らのゴーレムが持ち主と同じように姿勢を正して立っていた。

「これから取り組む仕事も訓練の一環ではあるけど、これまでとは違って限りなく実務的なものだ。そして、今日は君たちの活動が初めて領民たちの目に触れる日になる」

 戦闘以外の動作であれば人間とほとんど変わりなくこなせるようになり、「ノエインの半分の技量」という目標への到達も見えてきた傀儡魔法使いたちに、ノエインは初めて外での実務を兼ねた訓練を行わせようとしていた。

 その内容は、治水工事の手伝いだ。

 領都ノエイナの西から南へと流れている川はさほど大きなものではないが、南西側の川辺には水車小屋や公衆浴場などが建てられ、領民たちの生活を支えている。

 今後この川を領都の市域に取り込むにあたって、ノエインは本格的な治水工事を行うことにした。自然の川がそのまま都市内を流れるというのは、雨期の防災の面でも都市の景観の面でも問題があるためだ。

「人力だけで治水工事をやろうとすれば相当な労力が必要になるし、危険もある。だけどそこでゴーレム使いの君たちが力を発揮すれば、領民たちにとって大きな助けになる。領民たちはきっと君たちの活躍に感謝してくれる」

 ノエインの言葉を聞きながら、まるでこれから実戦にでも臨むような表情を見せるグスタフたち。初めて自分たちの行動が直接的に領の実益に繋がるということもあって、その士気は相当に高い。

「今日は君たちにとって重要な日だ。この工事は君たちの能力を示す絶好の機会だ。これまで培った技術を発揮して、力を振るってほしい。アールクヴィスト領軍ゴーレム隊の有用性を示そう。準備はいいね?」

「もちろんです閣下。必ずやご期待に応え、訓練の成果をお見せします!」

 ノエインの問いかけに、代表してグスタフが答えた。セシリアも、他の五人のゴーレム使いたちも自身に満ちた表情で頷く。

「その意気だよ。皆頑張ってね……それじゃあ、そろそろ川に向かおう」

「「はっ!」」

 七人全員が、力強い返事とともに敬礼する。それに続いてゴーレムも敬礼の姿勢をとる。これも以前と比べると見違えて様になっていた。

・・・・・

「すげえな、どんどん川底の泥が掬われていく」

「ああ。それに川辺も今朝までただの草地だったのに、あの辺なんかたった半日でしっかり固められてるな」

 工事初日の午後。治水工事の中でも特に重労働である川底の浚渫や、川辺の土を固めて小規模な土手を作る作業がゴーレムによって着々と進められていく様を見ながら、領民たちが言った。

 川の周辺には百人以上が集まり、七体のゴーレムが働く様子を見物している。

 当初は日銭を目当てに人夫として工事に参加した領民しかいなかったはずが、いつの間にか付近で開拓・開墾作業を行っていた者、さらには「ゴーレムがたくさん動いていて凄い」という話を聞きつけて街から出てきた暇な者まで集まって、見物人の数が膨れ上がっていた。

「あそこにいる若い子たちがゴーレムを動かしてるのかい?」

「そうらしい。ノエイン様が新しく雇って育てた魔法使い集団なんだとか」

「へえー、ノエイン様ほどじゃないけど、あの人たちのゴーレムの動きも凄いもんだねえ」

 領民たちは男も女も子供も、ゴーレムとそれを操作するグスタフたちを見ながら感想を言い合う。

 治水工事はゴーレムによってざっくりとした作業が行われ、人夫たちが細かな仕上げをする、という工程で進められることになっている。

 そのためゴーレムをぼーっと眺めている人夫たちも本当は働かなければならないし、昼間から仕事をさぼって川辺で見物にふける他の領民たちの行動も問題であったが、ノエインはあえてこれを見逃していた。

 辺境の都市に住む領民たちにとってはこうした珍しい光景は貴重な娯楽であろうし、グスタフたちの活躍ぶりを多くの者の目にしっかり焼き付けるのも今回の工事の目的のひとつだ。

「去年ここに来たばっかりの頃と比べると、さすがに見違えましたね、あいつら」

「だよねえ。一年かからずに全員がこの練度に到達するなんて、正直驚いたよ。七人とも相当頑張ったよね」

 かく言うノエインも、領民たちから少し離れた位置で視察という名の見物を行っている。傍らにはいつものようにマチルダが控え、この工事の監督兼警備を担うペンスも横に並んで話し相手になっていた。

「領民たちからも大うけだし、ゴーレム隊のお披露目としては文句なしだね」

 見物人の中にはゴーレム使いたちに話しかける者や歓声を送る者もおり、七人もそれに応えて手を振ったりしている。なかには若い娘たちの視線をあからさまに意識しながら大仰な手振りでゴーレムを動かす者もいた。

 こうして目立つ活躍を見せていて、おまけに若く高給取りで未婚者の多いゴーレム使いたちは、これからさぞモテることだろう。

「……ただ、明日からはさすがに人夫どもにもちゃんと仕事させますけどね。いつまでも見物させてたら工事が終わらないし、全然関係ない他の開拓作業の奴らまでさぼってるのはやばいですよ。こんなザマを従士長が見たらキレますよ?」

 その従士長ユーリは今日は領軍詰所で兵士の訓練指導を担当中なので、治水工事の現場がこんな騒ぎになっていることは知らない。

「あっはっは、そうだねえー。ただの平日なのにまるでお祭りみたいになっちゃってるし。ばれたら皆怒られちゃうね」

「とか言いながら自分では怒りもしないじゃないですか。ノエイン様は領民に甘すぎるんでさあ」

 この賑やかな雰囲気をむしろ楽しんでいるノエインに、ペンスはそう言って肩を竦めた。

「まあでも、ゴーレム使いの雄姿を領民たちに見せるのは今日一日あれば十分だから。今後はちゃんと監督を頼むよ」

「もちろんです。じゃないと俺まで従士長にどやされますからね」

 その後、ゴーレム使いたちの奮闘もあって治水工事は当初の予定よりも大幅に早く進んだ。

 この工事を通してゴーレム使いたちの実力は領民たちに知れ渡り、彼らは頼もしい戦力として歓迎されることとなった。
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