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第6話 憎き敵の人生は焼き尽くされましたわ
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「マルコ・オルグレン様、そしてエレーナ・ガンパウダー様、この度はご婚約おめでとうございます」
「あ、ありがとうございます」
「本日は晩餐会にお越しいただいて、こちらこをお礼を言わせてくださいまし。祝福のお言葉もいただき大変光栄ですわ」
もう何人目かという招待客からの祝意に、マルコ様は未だにやや緊張した面持ちで、私は余裕をもってそう答えます。
ここは私たちの婚約を正式に発表する晩餐会の会場。ガンパウダー伯爵家やオルグレン侯爵家と繋がりの深い貴族を招待した身内のパーティーですが、お互い大家ということもあって招待客の人数がとても多いのです。
たくさんの祝福の言葉をいただけるのは嬉しいのですが、さすがにこう長く続くと少し飽きてしまいますわ。もちろん顔には出しませんが。
「はは、エレーナはまだまだ余裕そうで凄いですね……」
「うふふ、そういうマルコ様はお疲れになってしまったようですわね。そんなあなた様も可愛らしくて素敵ですわ」
今日もマルコ様は食べちゃいたいほどキュートです。こうして愛する殿方との恋に没頭できるのも、復讐を終えて全ての憂いを絶ったからこそですわ。
あれから、ザウアーは完全に失脚しました。
ベルグリット侯爵閣下の尽力もあってお家自体の取り潰しは避けられ、ベルグリット家が重要な軍家であるという立ち位置もかろうじて守られましたが、閣下はそれらと引き換えに継嗣であるザウアーを切り捨てられたのです。
ザウアーを守るには、彼にかかった「オーランド様暗殺未遂」の嫌疑と「屋敷内でみっともない大騒ぎを引き起こした」という醜聞があまりにも大きすぎたのでしょう。
もともと侯爵家を継ぐ男としては評価の低かったザウアーを厄介払いするという、当主としての厳しいご判断もあったのかもしれません。
結果、ザウアーは「今回の”事故”で身心を病んだことによる静養」という名目でベルグリット家の飛び地の領地である小さな島へと送られたそうです。
その直後にベルグリット閣下の側室の子であった次男が正式な継嗣になったと公表されたことを考えても、ザウアーは実質的な島流しにされたと言えますわ。
そして、復讐を終えてようやく落ち着いた私とマルコ様は、婚約を結んだことを貴族社会へと正式に公表しました。その証左であるこの晩餐会を以て、私たちは対外的にも婚約者となったのです。
「あら? あれは……」
ようやく招待客からの挨拶攻勢もひと段落したところで、私はパーティーホールの隅で、一人で立ったままビクビクと辺りを伺っている雌犬……ではなく女性を見つけます。
キョロキョロしていた彼女の方も私に気づいたようで、あからさまに不安そうな顔になりました。
「こんばんは、マーガレット。お久しぶりですわ」
かつて私の元婚約者を奪ったマーガレット・ハミルトンに近づいて挨拶をすると、彼女も引きつった笑みを浮かべて応えてくれます。
「え、え、エレーナ様……ほ、ほ、ほん、本日は、お、おま、おまお招きいただき、ありあり、ありがとうごじゃいましゅ……」
「あら、前みたいに気軽に『エレーナ』とお呼びになって? 私たち親友だったじゃない」
かつて私は、彼女とザウアーによってパーティー会場のど真ん中で恥をかかされました。
だからマーガレットにも招待状を送り、こうして自分が主役となったパーティー会場でわざわざマウントをとってやったのですわ。うちより立場の低いハミルトン男爵令嬢の彼女は、正体を受けて来ないわけにはいきませんから。
「今日は楽しんでいってね。それと、色々とお世話になったあなたには後日ご実家の方に贈り物をさせていただくわ」
「はあうっ!? は、はい……」
「贈り物」と聞いて涙目になってしまったマーガレットを一人放置して、私はマルコ様の隣へと戻ります。
ザウアーがいなくなったことで、もともとただの弱小貴族家の令嬢でしかなかったマーガレットの立場も地に堕ちました。彼女の失墜ぶりも社交界のいいゴシップとして知られていますわ。
今日の晩餐会も彼女にとってあまり愉快なものにはならないでしょうが、せいぜい最後まで端っこでオドオドして見せてほしいですわね。
「あ、ありがとうございます」
「本日は晩餐会にお越しいただいて、こちらこをお礼を言わせてくださいまし。祝福のお言葉もいただき大変光栄ですわ」
もう何人目かという招待客からの祝意に、マルコ様は未だにやや緊張した面持ちで、私は余裕をもってそう答えます。
ここは私たちの婚約を正式に発表する晩餐会の会場。ガンパウダー伯爵家やオルグレン侯爵家と繋がりの深い貴族を招待した身内のパーティーですが、お互い大家ということもあって招待客の人数がとても多いのです。
たくさんの祝福の言葉をいただけるのは嬉しいのですが、さすがにこう長く続くと少し飽きてしまいますわ。もちろん顔には出しませんが。
「はは、エレーナはまだまだ余裕そうで凄いですね……」
「うふふ、そういうマルコ様はお疲れになってしまったようですわね。そんなあなた様も可愛らしくて素敵ですわ」
今日もマルコ様は食べちゃいたいほどキュートです。こうして愛する殿方との恋に没頭できるのも、復讐を終えて全ての憂いを絶ったからこそですわ。
あれから、ザウアーは完全に失脚しました。
ベルグリット侯爵閣下の尽力もあってお家自体の取り潰しは避けられ、ベルグリット家が重要な軍家であるという立ち位置もかろうじて守られましたが、閣下はそれらと引き換えに継嗣であるザウアーを切り捨てられたのです。
ザウアーを守るには、彼にかかった「オーランド様暗殺未遂」の嫌疑と「屋敷内でみっともない大騒ぎを引き起こした」という醜聞があまりにも大きすぎたのでしょう。
もともと侯爵家を継ぐ男としては評価の低かったザウアーを厄介払いするという、当主としての厳しいご判断もあったのかもしれません。
結果、ザウアーは「今回の”事故”で身心を病んだことによる静養」という名目でベルグリット家の飛び地の領地である小さな島へと送られたそうです。
その直後にベルグリット閣下の側室の子であった次男が正式な継嗣になったと公表されたことを考えても、ザウアーは実質的な島流しにされたと言えますわ。
そして、復讐を終えてようやく落ち着いた私とマルコ様は、婚約を結んだことを貴族社会へと正式に公表しました。その証左であるこの晩餐会を以て、私たちは対外的にも婚約者となったのです。
「あら? あれは……」
ようやく招待客からの挨拶攻勢もひと段落したところで、私はパーティーホールの隅で、一人で立ったままビクビクと辺りを伺っている雌犬……ではなく女性を見つけます。
キョロキョロしていた彼女の方も私に気づいたようで、あからさまに不安そうな顔になりました。
「こんばんは、マーガレット。お久しぶりですわ」
かつて私の元婚約者を奪ったマーガレット・ハミルトンに近づいて挨拶をすると、彼女も引きつった笑みを浮かべて応えてくれます。
「え、え、エレーナ様……ほ、ほ、ほん、本日は、お、おま、おまお招きいただき、ありあり、ありがとうごじゃいましゅ……」
「あら、前みたいに気軽に『エレーナ』とお呼びになって? 私たち親友だったじゃない」
かつて私は、彼女とザウアーによってパーティー会場のど真ん中で恥をかかされました。
だからマーガレットにも招待状を送り、こうして自分が主役となったパーティー会場でわざわざマウントをとってやったのですわ。うちより立場の低いハミルトン男爵令嬢の彼女は、正体を受けて来ないわけにはいきませんから。
「今日は楽しんでいってね。それと、色々とお世話になったあなたには後日ご実家の方に贈り物をさせていただくわ」
「はあうっ!? は、はい……」
「贈り物」と聞いて涙目になってしまったマーガレットを一人放置して、私はマルコ様の隣へと戻ります。
ザウアーがいなくなったことで、もともとただの弱小貴族家の令嬢でしかなかったマーガレットの立場も地に堕ちました。彼女の失墜ぶりも社交界のいいゴシップとして知られていますわ。
今日の晩餐会も彼女にとってあまり愉快なものにはならないでしょうが、せいぜい最後まで端っこでオドオドして見せてほしいですわね。
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