79 / 135
#4
幕間 : Heidi 13
しおりを挟む
ペトラの存在は、ハイジにとっては非常に厄介なものだった。
強気で美しく、派手で、そして艶やかなペトラの見た目は、男たちの目を引いた。
しかしハイジはそうしたことに全く興味がない。体ばかり肥大化していても、ハイジの精神年齢は思春期以前に止まってしまっている。歪なハイジの精神構造では色恋沙汰など全く理解できるはずもない。
ハイジにとって、女や子供は保護の対象でしかない。自分には扱いきれないと信じている。何しろちょっと苛ついて見せるだけで息すらできなくなるような脆弱な生き物だ。できれば直接関わり合いにはなりたくない––––などと言えば少し偽悪的だが、要するにハイジは無意識に弱者を傷つけてしまうことを恐れているのだ。
弱者と仲良くするには自分は危険過ぎる。だから寂しくともずっと孤独なままでよい、死ぬまで一人で戦おう––––と、ハイジはそう決めている。しかし実はそれも思考停止でしかない。発想が単純でしかも臆病すぎる。『逃げる』以外の可能性を排除しすぎている。
そうしたハイジの精神的な子供っぽさをアゼムはずっと気にかけている。しかし、あえてそれを口に出してそれを指摘したりはしなかった。それを指摘するのは、同じ暴力装置たる自分の役割ではない。いつかハイジが心を許せるような女でもできれば、その女が教えてくれるだろうと思っている。
▽
リヒテンベルク戦が終わり、地元に返す予定だったペトラだが、何とリヒテンベルクが故郷というわけではなかった。どうやら両親と死に別れた後、自慢の腕っぷしを活かそうと傭兵ギルドに登録したものの、決まった拠点を持たないまま、一番払いのよかったリヒテンベルク戦に参加しようとしたらしい。
要するに考えなしのバカだった。
これにはアゼムも予想外だったらしい。しかも初戦ときた。リヒテンベルクが何を考えてこの女を雇ったのか、全く理解できなかった。数さえ集めれば良いとでも良いのか。
アゼムは一瞬、ペトラがリヒテンベルクの諜報員なのではないかと疑ったが、その考えを一瞬で破棄した。こんなに目立つ考えなしの諜報員がいてたまるか。
まさかまだ十代の少女を無責任の放り出すわけにもいかない。かといって『魔物の谷』に連れ帰ることなどできるわけもない。しかたなく、アゼムはライヒ卿を頼ることになった。
ライヒ卿はペトラを見た瞬間に眉を潜めた。どうやら派手な女性は好みではないらしい。しかしとりあえずはライヒ領で生きていく許可を下し、一月分の生活費まで用意してくれた。
これでややこしい元女傭兵とは縁が切れる。アゼムやハイジ、それにヨーコも厄介払いができて清々した。
だから、遠征先の自陣で、沢山の兵たちに囲まれながら朗々と歌を唄うペトラを見て、目を点にした。
アゼムはひとつ大きなため息を付いて、ハイジに捕縛を命じた。
▽
アゼムから「傭兵から足を払うのではなかったのか」と問い詰められたペトラは悪びれもせずに「戦士が自分の天職だ」と主張した。
しかし、実際のところペトラに戦士という職業は向いていない。自慢の豊満な体も戦闘には不向きだ。歌が上手いようだし、人目を引く見た目をしているのだから、歌姫のほうがよほど向いているだろう。
しかし、ペトラは「自分は戦うことしか能がない」と主張した。
曰く、女が守られるだけの存在であることが許せないという。ゆえに、自分が女だからという理由だけで保護しようとするハイジとアゼムに対して思うところがある。特にハイジだ。もし自分と同程度の力しかない兵士が敵にいて、それが女でなく男だったら、どうしていただろうか? ––––きっと見向きもせずに切り捨てていたに違いない。
要するに、ハイジが自分を保護したのは、自分が女だという、それだけの理由にほかならない。それは戦士に対する侮辱だ。戦場で性別が何の意味を持つというのか。力量差がどれだけあろうと、ハイジは戦士に対する最低限の礼儀が守れないクソ野郎だ。
アゼムはとうとうペトラの説得を諦めた。こうと決めた女性を説得することがどれほどの難事か、アゼムはよく知っていた。
このバカは何を言おうが素直に言うことを聞くとは思えなかったし、目を離せば勝手にのこのこ戦場へ出向くだろう。そして待っている未来を考えれば、とても幸せなものになるとは思えなかった。しかしそうなるともう一人のバカが厄介だ。
アゼムがこれまで育ててきたのは何も少年ばかりではない。数は少なかったが、中には少女も混じっていて、曲がりなりにも育て上げた経験もある。といっても兵として使い物になるまでになった子供は全て少年だった。なぜなら体の構造がそもそも男と女では違うのだ。どれほど鍛え上げようと、こと戦うことについては、究極的には男のほうが向いている。要するに、男には男の、女性には女性の戦場があるというだけの話だ。そこは不可侵でやっていこうではないか。それがアゼムの偽らざる思いだった。とはいえ、このまま放置していれば、暴走したペトラは命を落とすか、捕虜としてろくでもない未来が待っている。
仕方なく、アゼムはペトラの『魔物の谷』入りを、制限付きとはいえ許可した。
制限とは、普段は街で普通の女性らしい仕事をしつつ、仕事の少なくなる閑散期のみ『魔物の谷』で戦い方を学ぶ––––というものだ。アゼムにしてみれば、街で生活することで戦い以外の生き方を学んでもらえればそれで良いし、ペトラはペトラで傭兵として戦えるように鍛え上げてもらえるのであれば、繁盛期の街で猫をかぶるくらいのことは許容範囲だったのだ。
▽
「––––で、申し開きはあるか? ヘルマンニ」
「……ないっす」
ペトラの行動の裏にはヘルマンニが居た。
単細胞なペトラにしては、その行動に策略性があったし、同時ににアゼムたちの事情を知りすぎている。どうすれば戦士になることをアゼムを納得させられるか、さらに言えば『魔物の谷』入りを認めさせられるか––––この難事を、ペトラの頭で成し遂げることなど到底不可能だ。
そしてこの謀略の癖には覚えがある。アゼムはヘルマンニを正座させて尋問を始めた。
ヘルマンニのこの行動は、何も下心ばかりではなかった。ヘルマンニの行動原理は常に損得勘定と、そして仲間意識にある。
ヘルマンニは見てしまったのだ。捕虜として捕らえたペトラに対して、ハイジがどのように接しているのかを––––その様子は、ヘルマンににはとても弱々しく見えた。
まるで、出会った時の、華奢な少女のようだったハイジのままだった。悲しげで、世界を拒絶していて、そして孤独だった。本人はそれを良しとしているつもりのようだが、本心ではどこまでも寂しく、深く傷ついている。
そこから救い上げたつもりでいたヘルマンニは、孤独さに身を縮こませる弟弟子を見て酷く狼狽した。救い上げたなどと、とんだ思い上がりだった。体は大きくなり、戦闘ではすでに手も足も出ないほど強くなった目の前の少年は、実はまだ何も成長などしていない。この事実はヘルマンににとって意外なほどショックが大きかった。
もちろん下心もあった。普段女っ気のない生活をしているヘルマンニにとって、ペトラの美しさはとても眩しかった。だが理性のほうが勝る。この場合の理性とは、すなわちヘルマンニのもう一つの行動原理である損得勘定である。ペトラは美しい。何も敵兵どもにくれてやる必要はないだろう。それくらいならアゼムに鍛えさせて身を守れる程度に強くなってもらうほうがよほどいい。ペトラの姿は男臭い『魔物の谷」において、この上ない目の保養になる。つまり得をする。
ペトラとどうこうなろうというつもりはない。合理主義者であるヘルマンニは、それが仲間にとってややこしい事態を招くであろうことを解っている。
ヘルマンニは、貴族に売られる前に師匠に助けられたため、客を取ったことはないが、とはいえ元男娼には違いない。だから自分の相手には行きずりの娼婦のほうが合っていると思っていたし、それを辛いと思ったこともない。殺されたり飢えたり野垂れ死んだりするのはごめんだが、気の知れた仲間と、少しばかりの旨い酒さえあれば、その日暮らしの方が気が楽だ。家を構えて家庭を守るような生き方は性に合わない。
こうしたヘルマンニの思惑と、女兵士として生きていきたいペトラとの利害は一致した。ヘルマンニほど仲間想いの男は他に居なかったが、同時に仲間の癖を知り尽くしている男も他には居ない。どう行動すればアゼムが、ハイジが操られてくれるかくらいは、ヘルマンニにとっては手にとるようにわかる。そして謀略は功を成し、ヘルマンニとペトラの思惑通り、ペトラは『魔物の谷』の一時滞在を勝ち取った。
とはいえアゼムもバカではない。愚付きとはいえ、人々から賢者と呼ばれるアゼムだ。こうしたヘルマンニの思惑くらいはある程度読めている。第一ヘルマンニをそういう風に育てたのがアゼムなのだ。ヘルマンニには手のひらの上で転がされている自覚はなかったが、アゼムを出し抜こうなどというのは十年早かった。
それでもあえてヘルマンニの思惑に乗ったのには理由がある。つまり、アゼムにとっても、ハイジの存在は非常に危ういものなのだ。精神年齢が幼く、傷つきやすい孤独な弟子には、心を許せる弱者––––つまり女か子供––––が必要だと思っていた。
ペトラの存在はハイジの心を開かせるきっかけにはうってつけだったのだ。
しかし、アゼムとヘルマンニの思惑通りにはいかなかった。そもそも、ペトラは女性である。戦いにおいていかに無双を誇っていようと、女性を思惑通りに制御しようなどというのは、ただの思い上がりだった。
夏の短い間だけ『魔物の谷』に滞在が許されたペトラだったが、どこかハイジにも似たストイックさで貪欲に戦い方を身に付けていき、『愚賢者』アゼムの弟子としては初めての、有能な女性戦士として名を馳せていく。
強気で美しく、派手で、そして艶やかなペトラの見た目は、男たちの目を引いた。
しかしハイジはそうしたことに全く興味がない。体ばかり肥大化していても、ハイジの精神年齢は思春期以前に止まってしまっている。歪なハイジの精神構造では色恋沙汰など全く理解できるはずもない。
ハイジにとって、女や子供は保護の対象でしかない。自分には扱いきれないと信じている。何しろちょっと苛ついて見せるだけで息すらできなくなるような脆弱な生き物だ。できれば直接関わり合いにはなりたくない––––などと言えば少し偽悪的だが、要するにハイジは無意識に弱者を傷つけてしまうことを恐れているのだ。
弱者と仲良くするには自分は危険過ぎる。だから寂しくともずっと孤独なままでよい、死ぬまで一人で戦おう––––と、ハイジはそう決めている。しかし実はそれも思考停止でしかない。発想が単純でしかも臆病すぎる。『逃げる』以外の可能性を排除しすぎている。
そうしたハイジの精神的な子供っぽさをアゼムはずっと気にかけている。しかし、あえてそれを口に出してそれを指摘したりはしなかった。それを指摘するのは、同じ暴力装置たる自分の役割ではない。いつかハイジが心を許せるような女でもできれば、その女が教えてくれるだろうと思っている。
▽
リヒテンベルク戦が終わり、地元に返す予定だったペトラだが、何とリヒテンベルクが故郷というわけではなかった。どうやら両親と死に別れた後、自慢の腕っぷしを活かそうと傭兵ギルドに登録したものの、決まった拠点を持たないまま、一番払いのよかったリヒテンベルク戦に参加しようとしたらしい。
要するに考えなしのバカだった。
これにはアゼムも予想外だったらしい。しかも初戦ときた。リヒテンベルクが何を考えてこの女を雇ったのか、全く理解できなかった。数さえ集めれば良いとでも良いのか。
アゼムは一瞬、ペトラがリヒテンベルクの諜報員なのではないかと疑ったが、その考えを一瞬で破棄した。こんなに目立つ考えなしの諜報員がいてたまるか。
まさかまだ十代の少女を無責任の放り出すわけにもいかない。かといって『魔物の谷』に連れ帰ることなどできるわけもない。しかたなく、アゼムはライヒ卿を頼ることになった。
ライヒ卿はペトラを見た瞬間に眉を潜めた。どうやら派手な女性は好みではないらしい。しかしとりあえずはライヒ領で生きていく許可を下し、一月分の生活費まで用意してくれた。
これでややこしい元女傭兵とは縁が切れる。アゼムやハイジ、それにヨーコも厄介払いができて清々した。
だから、遠征先の自陣で、沢山の兵たちに囲まれながら朗々と歌を唄うペトラを見て、目を点にした。
アゼムはひとつ大きなため息を付いて、ハイジに捕縛を命じた。
▽
アゼムから「傭兵から足を払うのではなかったのか」と問い詰められたペトラは悪びれもせずに「戦士が自分の天職だ」と主張した。
しかし、実際のところペトラに戦士という職業は向いていない。自慢の豊満な体も戦闘には不向きだ。歌が上手いようだし、人目を引く見た目をしているのだから、歌姫のほうがよほど向いているだろう。
しかし、ペトラは「自分は戦うことしか能がない」と主張した。
曰く、女が守られるだけの存在であることが許せないという。ゆえに、自分が女だからという理由だけで保護しようとするハイジとアゼムに対して思うところがある。特にハイジだ。もし自分と同程度の力しかない兵士が敵にいて、それが女でなく男だったら、どうしていただろうか? ––––きっと見向きもせずに切り捨てていたに違いない。
要するに、ハイジが自分を保護したのは、自分が女だという、それだけの理由にほかならない。それは戦士に対する侮辱だ。戦場で性別が何の意味を持つというのか。力量差がどれだけあろうと、ハイジは戦士に対する最低限の礼儀が守れないクソ野郎だ。
アゼムはとうとうペトラの説得を諦めた。こうと決めた女性を説得することがどれほどの難事か、アゼムはよく知っていた。
このバカは何を言おうが素直に言うことを聞くとは思えなかったし、目を離せば勝手にのこのこ戦場へ出向くだろう。そして待っている未来を考えれば、とても幸せなものになるとは思えなかった。しかしそうなるともう一人のバカが厄介だ。
アゼムがこれまで育ててきたのは何も少年ばかりではない。数は少なかったが、中には少女も混じっていて、曲がりなりにも育て上げた経験もある。といっても兵として使い物になるまでになった子供は全て少年だった。なぜなら体の構造がそもそも男と女では違うのだ。どれほど鍛え上げようと、こと戦うことについては、究極的には男のほうが向いている。要するに、男には男の、女性には女性の戦場があるというだけの話だ。そこは不可侵でやっていこうではないか。それがアゼムの偽らざる思いだった。とはいえ、このまま放置していれば、暴走したペトラは命を落とすか、捕虜としてろくでもない未来が待っている。
仕方なく、アゼムはペトラの『魔物の谷』入りを、制限付きとはいえ許可した。
制限とは、普段は街で普通の女性らしい仕事をしつつ、仕事の少なくなる閑散期のみ『魔物の谷』で戦い方を学ぶ––––というものだ。アゼムにしてみれば、街で生活することで戦い以外の生き方を学んでもらえればそれで良いし、ペトラはペトラで傭兵として戦えるように鍛え上げてもらえるのであれば、繁盛期の街で猫をかぶるくらいのことは許容範囲だったのだ。
▽
「––––で、申し開きはあるか? ヘルマンニ」
「……ないっす」
ペトラの行動の裏にはヘルマンニが居た。
単細胞なペトラにしては、その行動に策略性があったし、同時ににアゼムたちの事情を知りすぎている。どうすれば戦士になることをアゼムを納得させられるか、さらに言えば『魔物の谷』入りを認めさせられるか––––この難事を、ペトラの頭で成し遂げることなど到底不可能だ。
そしてこの謀略の癖には覚えがある。アゼムはヘルマンニを正座させて尋問を始めた。
ヘルマンニのこの行動は、何も下心ばかりではなかった。ヘルマンニの行動原理は常に損得勘定と、そして仲間意識にある。
ヘルマンニは見てしまったのだ。捕虜として捕らえたペトラに対して、ハイジがどのように接しているのかを––––その様子は、ヘルマンににはとても弱々しく見えた。
まるで、出会った時の、華奢な少女のようだったハイジのままだった。悲しげで、世界を拒絶していて、そして孤独だった。本人はそれを良しとしているつもりのようだが、本心ではどこまでも寂しく、深く傷ついている。
そこから救い上げたつもりでいたヘルマンニは、孤独さに身を縮こませる弟弟子を見て酷く狼狽した。救い上げたなどと、とんだ思い上がりだった。体は大きくなり、戦闘ではすでに手も足も出ないほど強くなった目の前の少年は、実はまだ何も成長などしていない。この事実はヘルマンににとって意外なほどショックが大きかった。
もちろん下心もあった。普段女っ気のない生活をしているヘルマンニにとって、ペトラの美しさはとても眩しかった。だが理性のほうが勝る。この場合の理性とは、すなわちヘルマンニのもう一つの行動原理である損得勘定である。ペトラは美しい。何も敵兵どもにくれてやる必要はないだろう。それくらいならアゼムに鍛えさせて身を守れる程度に強くなってもらうほうがよほどいい。ペトラの姿は男臭い『魔物の谷」において、この上ない目の保養になる。つまり得をする。
ペトラとどうこうなろうというつもりはない。合理主義者であるヘルマンニは、それが仲間にとってややこしい事態を招くであろうことを解っている。
ヘルマンニは、貴族に売られる前に師匠に助けられたため、客を取ったことはないが、とはいえ元男娼には違いない。だから自分の相手には行きずりの娼婦のほうが合っていると思っていたし、それを辛いと思ったこともない。殺されたり飢えたり野垂れ死んだりするのはごめんだが、気の知れた仲間と、少しばかりの旨い酒さえあれば、その日暮らしの方が気が楽だ。家を構えて家庭を守るような生き方は性に合わない。
こうしたヘルマンニの思惑と、女兵士として生きていきたいペトラとの利害は一致した。ヘルマンニほど仲間想いの男は他に居なかったが、同時に仲間の癖を知り尽くしている男も他には居ない。どう行動すればアゼムが、ハイジが操られてくれるかくらいは、ヘルマンニにとっては手にとるようにわかる。そして謀略は功を成し、ヘルマンニとペトラの思惑通り、ペトラは『魔物の谷』の一時滞在を勝ち取った。
とはいえアゼムもバカではない。愚付きとはいえ、人々から賢者と呼ばれるアゼムだ。こうしたヘルマンニの思惑くらいはある程度読めている。第一ヘルマンニをそういう風に育てたのがアゼムなのだ。ヘルマンニには手のひらの上で転がされている自覚はなかったが、アゼムを出し抜こうなどというのは十年早かった。
それでもあえてヘルマンニの思惑に乗ったのには理由がある。つまり、アゼムにとっても、ハイジの存在は非常に危ういものなのだ。精神年齢が幼く、傷つきやすい孤独な弟子には、心を許せる弱者––––つまり女か子供––––が必要だと思っていた。
ペトラの存在はハイジの心を開かせるきっかけにはうってつけだったのだ。
しかし、アゼムとヘルマンニの思惑通りにはいかなかった。そもそも、ペトラは女性である。戦いにおいていかに無双を誇っていようと、女性を思惑通りに制御しようなどというのは、ただの思い上がりだった。
夏の短い間だけ『魔物の谷』に滞在が許されたペトラだったが、どこかハイジにも似たストイックさで貪欲に戦い方を身に付けていき、『愚賢者』アゼムの弟子としては初めての、有能な女性戦士として名を馳せていく。
0
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
真実の愛は、誰のもの?
ふまさ
恋愛
「……悪いと思っているのなら、く、口付け、してください」
妹のコーリーばかり優先する婚約者のエディに、ミアは震える声で、思い切って願いを口に出してみた。顔を赤くし、目をぎゅっと閉じる。
だが、温かいそれがそっと触れたのは、ミアの額だった。
ミアがまぶたを開け、自分の額に触れた。しゅんと肩を落とし「……また、額」と、ぼやいた。エディはそんなミアの頭を撫でながら、柔やかに笑った。
「はじめての口付けは、もっと、ロマンチックなところでしたいんだ」
「……ロマンチック、ですか……?」
「そう。二人ともに、想い出に残るような」
それは、二人が婚約してから、六年が経とうとしていたときのことだった。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる