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四章「帰還」
#5
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「……久しぶり、カイン、そしてソフィ」
俺は無理やり笑って、片手を上げた。
多分その顔は引き攣っているだろう。
――気まずい。
「……キミ、本当にグレンなのか? でも、グレンは……」
「死んだはずだ、って言うんだろ?」
「いや、でもソフィの言うことに間違いはないから……」
カインは混乱している様子だったが、ソフィが「絶対に間違いない」と保障したことで、無理やり自分を納得させたようだ。
▽
「転生?!」
「の、ようなものだと思う」
事情を話すとカインはうーむを腕を組んだ。
「正直俺も夢だと思ってたんだけど――ダンジョンに潜ると記憶が鮮明になる瞬間があってさ。そのへんのことは彼らが知っている」
俺が子どもたちを指すと、皆は顔を見合わせた。
「ダイチさんは、ぼくたちに危険が及ぶとでてくるんです」
「なんだい? その『ダイチさん』ってのは」
「普段のダイチって、どちらかって言うとぼんやりしてて、全然違う感じなんです」
「なのに、ダンジョンだとたまに、大人かと思うくらい頼もしくなって……」
「その原因が転生だというんだね?」
カインはさらに深くうーむと腕を組む。
「俺も確信したのはこちらに帰ってきてからなんだ」
「こちらに、ってのは、街にってことか?」
「うん、どうやら記憶が戻り始めてるみたいだ。ただ自意識としてはまだ「ダイチ」なんだよ。グレアムとしての記憶はあるけど」
俺の言葉に、カインが困ったように天を仰ぐ。
「ジイシキ? ジイシキってなんだ?」
「……要するに、大人ダイチはグレンさん? の記憶が戻った状態なんだけど、それでもダイチはダイチのままだってことだよ、ケンゴ」
「……当たり前じゃん?」
「……まぁね」
子どもたちが話し合っているのを聞きながら、カインが言った。
「にわかには信じがたいな」
「別に信じてくれとは言わないさ。グレアムの記憶を少しだけ持った子供とか、その程度に思ってくれればいい」
俺がそう言うと、
「でもカイン? この子の魂は間違いなくグレンだわ」
ソフィが「嘘じゃないと思う」と言うと、カインは
「ソフィが言うならそうなんだろうけどね」
とそう言って、パンと膝を叩いた。
「まぁ、どちらでもいいことさ。そうだろう? ぼくがキミたちを保護することはすでに決まったことだし、それにダイチくんがグレンの記憶をもっていたところで子供であることには違いはない」
「そう言ってもらえて助かるよ」
ホッと息をつく。
「それに、これが他の誰かならともかく、グレンだというなら信頼できる。ただ……調査はさせてもらうよ」
カインの目がキラリと光る。
「……その話は、子どもたちが居ないところで頼む、カイン」
「わかってるさ」
「何? どういうこと?」
「意味分かんないんだけど……」
子どもたちが顔を見合わせているが、こればかりは説明するわけにもいかない。
だがカインは俺の言いたいことが解ったようだ。
「よし! 仕切り直そう!」
パン、と今度は手を叩いて、
「歓迎するよ! 短い間だが仲良くやっていこう!」
「はっはいっ!」
「よろしくおねがいします!」
「みんな、よろしくね」
「はい、ソフィさん!」
皆で頭を下げる。
ソフィはニコニコしながら立ち上がる。
「疲れたでしょう? お茶にする? それとも食事がいいかしら」
「あっ、あの、手伝います!」
あわててアリサが立ち上がる。
「あら? 大丈夫よ、目が見えないといってもあなたたちよりも周りのことは把握できるのよ?」
「でも……やっぱり手伝います。お世話になるんですし」
「あたしも!」
カナもパッと手を挙げる。
「アリサみたいに料理は上手くないけど、良ければお手伝いさせてください」
「あら? アリサちゃんは料理ができるの?」
その歳ですごいわね、とソフィ。
「アリサはすごく料理が上手なんですよ。いつもお店の手伝いしてるから」
カナがそう言うと、カインとソフィがぎょっとした表情になった。
「店? 家業は料理屋なのかい?」
「あっはい、洋食屋です」
「ヨウショク……?」
カインとソフィが顔を見合わせる。
「カイン。それにソフィ。先に言っておくと俺たちは貴族じゃないぞ」
「そうなのか? その服装や手の綺麗さから、てっきり……」
「俺たちが居た場所では、これが普通の格好なんだ。手が綺麗なのも、向こうの世界では子供は労働をしないからだな」
「……本当に異世界から来たというのか……?」
「カイン。正直に言えよ。貴族じゃないならそのほうが助かるだろ?」
ニヤッと笑ってやると、カインは困ったように顔を掻いた。
「まぁ、そう言えなくもないな」
「だから俺たちに気を使う必要はないぜ。使える用事があるなら遠慮せずに言ってくれ。匿ってもらう以上、できる限りの手伝いはさせてもらうからさ」
そう言うと、カインは「ハハッ」と笑った。
「なにがおかしい?」
「いや……だんだん口調がグレンらしく聞こえてきてな」
「そりゃあそうだろ」
俺は笑い返した。
「ダイチとしての時間よりも、グレアムとして生きた時間のほうが倍以上長いんだから」
俺は無理やり笑って、片手を上げた。
多分その顔は引き攣っているだろう。
――気まずい。
「……キミ、本当にグレンなのか? でも、グレンは……」
「死んだはずだ、って言うんだろ?」
「いや、でもソフィの言うことに間違いはないから……」
カインは混乱している様子だったが、ソフィが「絶対に間違いない」と保障したことで、無理やり自分を納得させたようだ。
▽
「転生?!」
「の、ようなものだと思う」
事情を話すとカインはうーむを腕を組んだ。
「正直俺も夢だと思ってたんだけど――ダンジョンに潜ると記憶が鮮明になる瞬間があってさ。そのへんのことは彼らが知っている」
俺が子どもたちを指すと、皆は顔を見合わせた。
「ダイチさんは、ぼくたちに危険が及ぶとでてくるんです」
「なんだい? その『ダイチさん』ってのは」
「普段のダイチって、どちらかって言うとぼんやりしてて、全然違う感じなんです」
「なのに、ダンジョンだとたまに、大人かと思うくらい頼もしくなって……」
「その原因が転生だというんだね?」
カインはさらに深くうーむと腕を組む。
「俺も確信したのはこちらに帰ってきてからなんだ」
「こちらに、ってのは、街にってことか?」
「うん、どうやら記憶が戻り始めてるみたいだ。ただ自意識としてはまだ「ダイチ」なんだよ。グレアムとしての記憶はあるけど」
俺の言葉に、カインが困ったように天を仰ぐ。
「ジイシキ? ジイシキってなんだ?」
「……要するに、大人ダイチはグレンさん? の記憶が戻った状態なんだけど、それでもダイチはダイチのままだってことだよ、ケンゴ」
「……当たり前じゃん?」
「……まぁね」
子どもたちが話し合っているのを聞きながら、カインが言った。
「にわかには信じがたいな」
「別に信じてくれとは言わないさ。グレアムの記憶を少しだけ持った子供とか、その程度に思ってくれればいい」
俺がそう言うと、
「でもカイン? この子の魂は間違いなくグレンだわ」
ソフィが「嘘じゃないと思う」と言うと、カインは
「ソフィが言うならそうなんだろうけどね」
とそう言って、パンと膝を叩いた。
「まぁ、どちらでもいいことさ。そうだろう? ぼくがキミたちを保護することはすでに決まったことだし、それにダイチくんがグレンの記憶をもっていたところで子供であることには違いはない」
「そう言ってもらえて助かるよ」
ホッと息をつく。
「それに、これが他の誰かならともかく、グレンだというなら信頼できる。ただ……調査はさせてもらうよ」
カインの目がキラリと光る。
「……その話は、子どもたちが居ないところで頼む、カイン」
「わかってるさ」
「何? どういうこと?」
「意味分かんないんだけど……」
子どもたちが顔を見合わせているが、こればかりは説明するわけにもいかない。
だがカインは俺の言いたいことが解ったようだ。
「よし! 仕切り直そう!」
パン、と今度は手を叩いて、
「歓迎するよ! 短い間だが仲良くやっていこう!」
「はっはいっ!」
「よろしくおねがいします!」
「みんな、よろしくね」
「はい、ソフィさん!」
皆で頭を下げる。
ソフィはニコニコしながら立ち上がる。
「疲れたでしょう? お茶にする? それとも食事がいいかしら」
「あっ、あの、手伝います!」
あわててアリサが立ち上がる。
「あら? 大丈夫よ、目が見えないといってもあなたたちよりも周りのことは把握できるのよ?」
「でも……やっぱり手伝います。お世話になるんですし」
「あたしも!」
カナもパッと手を挙げる。
「アリサみたいに料理は上手くないけど、良ければお手伝いさせてください」
「あら? アリサちゃんは料理ができるの?」
その歳ですごいわね、とソフィ。
「アリサはすごく料理が上手なんですよ。いつもお店の手伝いしてるから」
カナがそう言うと、カインとソフィがぎょっとした表情になった。
「店? 家業は料理屋なのかい?」
「あっはい、洋食屋です」
「ヨウショク……?」
カインとソフィが顔を見合わせる。
「カイン。それにソフィ。先に言っておくと俺たちは貴族じゃないぞ」
「そうなのか? その服装や手の綺麗さから、てっきり……」
「俺たちが居た場所では、これが普通の格好なんだ。手が綺麗なのも、向こうの世界では子供は労働をしないからだな」
「……本当に異世界から来たというのか……?」
「カイン。正直に言えよ。貴族じゃないならそのほうが助かるだろ?」
ニヤッと笑ってやると、カインは困ったように顔を掻いた。
「まぁ、そう言えなくもないな」
「だから俺たちに気を使う必要はないぜ。使える用事があるなら遠慮せずに言ってくれ。匿ってもらう以上、できる限りの手伝いはさせてもらうからさ」
そう言うと、カインは「ハハッ」と笑った。
「なにがおかしい?」
「いや……だんだん口調がグレンらしく聞こえてきてな」
「そりゃあそうだろ」
俺は笑い返した。
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