52 / 65
四章「帰還」
#4
しおりを挟む
この世界では、靴を脱ぐ習慣がない。
靴のまま家に上がることに落ち着かない子どもたちに「大丈夫」と伝えると、また「なんでそんなことを知っているんだ!」と追求された。
うん、でもソフィと顔を合わせるのであれば、こうなることは解っていた。
「えーと、では、改めて自己紹介をさせてもらいます」
まだ騒いでいる子どもたちに代わって、俺は頭を下げた。
「では、まずリーダーから」
「え、俺?! あ、あー、えーと、俺は奥本健吾と言います! 十歳です! 特技は剣道! よろしくおねがいします!」
「ええ、よろしく、ケンゴくん」
ソフィの返答に、ケンゴがペコリと頭を下げる。
「次、誰行く?」
「じゃあ、女子代表であたしから」
アリサがパッと手を上げる。
「はじめまして、ソフィさん。水無月有紗と言います。アリサと呼んでください」
「よろしくね、アリサちゃん」
「次は?」
「コータくん、先どうぞ」
アリサの言葉に、カナがコータに向かって手を差し出す。
コータは「えっ、ぼく?」とちょっと焦った様子でお辞儀した。
「じゃあ……コホン。始めまして、お世話になります。篠山高太と言います。みんなからはコータと呼ばれてます。どうぞよろしくおねがいします!」
「ええ、こちらこそよろしく、コータ君」
コータがちらりとカナを見ると、カナは軽く頷いてニッコリと笑って頭を下げた。
「あたしは一庫花菜です。カナと呼んでください。ソフィさん、カインさん、よろしくおねがいします」
「ああ、よろしく」
「よろしくね、カナちゃん」
おっとりと笑うソフィ。
夫がいきなり5人も子供を連れてきて「しばらく保護する」などと言われた割に、それをあっさり受け入れている。新婚の割に随分と寛大なことだ。
そのソフィが、俺の方に顔を向けた。
「じゃあ、次はあなたね」
「あー、いや、話がややこしくなるので、先にカインさんとソフィさんにお願いしていいですか? 俺も、最後にきちんと説明しますから」
「えーっ」
ソフィは俺の言葉に少し不満そうな声を上げる。
その様子を苦笑しつつ見ていたカインが仕方なく手を上げた。
「それじゃ、ぼくから行こう。すでに知っているとは思うが、ぼくはカイン。王国騎士団で騎士をしている。そして隣りにいる美女がソフィーリア、ぼくの妻だ」
「ソフィーリアです。気軽にソフィーと呼んでね?」
「はい、よろしくおねがいします!」
「お願いします!」
と、そこでカナが気遣わしげに言った。
「あの、もしかしてソフィーさんは……」
「ん? ああ……想像通りだと思うよ。見ての通り、ソフィーは目が見えない」
「やっぱり……」
ソフィーは、窓から顔を出していたときも、玄関の扉を開けたときも、そして自己紹介の間も、一度も目を開いていない。
目が細いわけではなく、本当に目を閉じているのだ。
「心配しないで。見えないと言っても、不便ではないのよ」
「どういうことですか?」
「目ではなく、魔力でものを見ているの。ただ、ちょっと見えすぎるのよね」
そういってソフィは手を頬に当てて、ハァと小さくため息を付いた。
「見えすぎるってどういう意味ですか?」
「ずっと目を閉じているでしょう?」
「はい……」
「目を開けると、見えすぎて処理しきれなくなっちゃうのよ。例えば、あなた達の顔だって、あたしはちゃんと解ってるわよ」
「え、見えないんじゃないんですか?」
「肉眼ではね。視力はほとんど残ってないわ。正確に言うとぼんやりとは見えるんだけど、目を開けるとそれ以外の情報が多すぎて理解できなくなっちゃうのよ」
「はぁ~」
千里眼。
この世に顕現するあらゆる事を見通す事のできる目。
その情報過多な視界は、肉眼で見える情報がちっぽけに見えるほどだという。
「そんなことより」
と、ソフィは言った。
「説明してくれるんでしょう? ――グレン」
靴のまま家に上がることに落ち着かない子どもたちに「大丈夫」と伝えると、また「なんでそんなことを知っているんだ!」と追求された。
うん、でもソフィと顔を合わせるのであれば、こうなることは解っていた。
「えーと、では、改めて自己紹介をさせてもらいます」
まだ騒いでいる子どもたちに代わって、俺は頭を下げた。
「では、まずリーダーから」
「え、俺?! あ、あー、えーと、俺は奥本健吾と言います! 十歳です! 特技は剣道! よろしくおねがいします!」
「ええ、よろしく、ケンゴくん」
ソフィの返答に、ケンゴがペコリと頭を下げる。
「次、誰行く?」
「じゃあ、女子代表であたしから」
アリサがパッと手を上げる。
「はじめまして、ソフィさん。水無月有紗と言います。アリサと呼んでください」
「よろしくね、アリサちゃん」
「次は?」
「コータくん、先どうぞ」
アリサの言葉に、カナがコータに向かって手を差し出す。
コータは「えっ、ぼく?」とちょっと焦った様子でお辞儀した。
「じゃあ……コホン。始めまして、お世話になります。篠山高太と言います。みんなからはコータと呼ばれてます。どうぞよろしくおねがいします!」
「ええ、こちらこそよろしく、コータ君」
コータがちらりとカナを見ると、カナは軽く頷いてニッコリと笑って頭を下げた。
「あたしは一庫花菜です。カナと呼んでください。ソフィさん、カインさん、よろしくおねがいします」
「ああ、よろしく」
「よろしくね、カナちゃん」
おっとりと笑うソフィ。
夫がいきなり5人も子供を連れてきて「しばらく保護する」などと言われた割に、それをあっさり受け入れている。新婚の割に随分と寛大なことだ。
そのソフィが、俺の方に顔を向けた。
「じゃあ、次はあなたね」
「あー、いや、話がややこしくなるので、先にカインさんとソフィさんにお願いしていいですか? 俺も、最後にきちんと説明しますから」
「えーっ」
ソフィは俺の言葉に少し不満そうな声を上げる。
その様子を苦笑しつつ見ていたカインが仕方なく手を上げた。
「それじゃ、ぼくから行こう。すでに知っているとは思うが、ぼくはカイン。王国騎士団で騎士をしている。そして隣りにいる美女がソフィーリア、ぼくの妻だ」
「ソフィーリアです。気軽にソフィーと呼んでね?」
「はい、よろしくおねがいします!」
「お願いします!」
と、そこでカナが気遣わしげに言った。
「あの、もしかしてソフィーさんは……」
「ん? ああ……想像通りだと思うよ。見ての通り、ソフィーは目が見えない」
「やっぱり……」
ソフィーは、窓から顔を出していたときも、玄関の扉を開けたときも、そして自己紹介の間も、一度も目を開いていない。
目が細いわけではなく、本当に目を閉じているのだ。
「心配しないで。見えないと言っても、不便ではないのよ」
「どういうことですか?」
「目ではなく、魔力でものを見ているの。ただ、ちょっと見えすぎるのよね」
そういってソフィは手を頬に当てて、ハァと小さくため息を付いた。
「見えすぎるってどういう意味ですか?」
「ずっと目を閉じているでしょう?」
「はい……」
「目を開けると、見えすぎて処理しきれなくなっちゃうのよ。例えば、あなた達の顔だって、あたしはちゃんと解ってるわよ」
「え、見えないんじゃないんですか?」
「肉眼ではね。視力はほとんど残ってないわ。正確に言うとぼんやりとは見えるんだけど、目を開けるとそれ以外の情報が多すぎて理解できなくなっちゃうのよ」
「はぁ~」
千里眼。
この世に顕現するあらゆる事を見通す事のできる目。
その情報過多な視界は、肉眼で見える情報がちっぽけに見えるほどだという。
「そんなことより」
と、ソフィは言った。
「説明してくれるんでしょう? ――グレン」
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
白城(しろぐすく)の槍
和紗かをる
大衆娯楽
痛快サイコパスエンターテイメント開幕。ある少年が出会う普通の世界の裏側の物語。策士の少女に恋をして、因果の反逆者を屠るただ一つの槍として駆け抜けた白城一槍(しろぐすくいちやり)の生とは。異形な暗殺者や超常の力を操る武芸家が織りなすハイテンションストーリーをご覧あれ
獣人の里の仕置き小屋
真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。
獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。
今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。
仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる