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四章「帰還」

#2

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 ケンゴ、アリサ、コータ、カナの順にポータルで外に出る。
 最後にだ。
 出てみると、皆の顔が真っ赤で鼻息も荒い。
 どうやら興奮しているらしい――かくいうぼくも、ドキドキしている。
 
 案内されたのは殺風景な石造りの部屋で、木の椅子が用意されているほかはテーブルしかない。
 窓にはガラスがなく、木戸が嵌っていて、つっかえ棒で開かれている。
 外の風景が見える。
 
 ――――ここが異世界!
 
(といっても、今のところ異世界っぽさはほとんどないけどね)

 あえて言えば、石造りの建物なんて日本にはなかなかないので、珍しいと言えば珍しい。
 今の感覚は……ちょうど遊園地でアトラクションに並んでいる感じ。

「なぁ、早く外に出たいな!」
「どんな感じなのかな、危なくないかな」
「……冒険者ギルドとか、本当にあるのかな」
「でも、ぼくたちこの世界のお金とか持ってないよね」
「そういえば、これからどうなるんだろう、住むところとか、食べ物とか……」

 皆、思い思いに語り合っているが、ケンゴが少し声を落として言った。

「あのさ、カインさんが隣の部屋で話ししてるの、聞こえちゃったんだけどさ」
「うん?」
「俺らのことを『どう見ても貴族だから下手に扱うわけにはいかない』って」
「き、貴族?」
「ぼくらが?」

(ああ、なるほどな)
 
 ぼくの中にいる、もう一人のぼく――大人ダイチの部分が理解する。

「あのさ、ぼくらの格好とか、見てみてよ」
「格好?」
「普通じゃね?」
「……バカね、ここは異世界なんだから、服装だってきっと違うわよ」
「うん。アリサの言う通りだよ。この世界じゃ柄の入った服は贅沢品なんだよ」

 ぼくが言うと、皆は顔を見合わせた。
 皆プリント入りの服を着ている。
 そして、ぼくを見る。

「……なんでそんな事がわかるんだよ?」
「ダイチさん、じゃないよね」
「うん……異世界に来たからかな、なんとなくわかるんだよ」

 うまく言葉で説明出来ないけれど、今まで「大人ダイチ」になったときは、完全に『異世界人』になっていた。だから、後から子どもバージョンに戻ったときに、大人ダイチのときの記憶で混乱することが多かった。
 でも今は、子どもバージョンのままうっすらと異世界のことがわかる。
 ちょうど「大人ダイチ」と子どもバージョンのぼくとが少しずつ混じり始めているみたいに。

「そんなことより、ケンゴの言うことのほうが重要だよ」
「そう、そうだよ、ぼくたち貴族だと思われてるの?」
「ああ。あと『魔力は感じられなかったので、危険は無いだろう』って」
「魔力?」
「魔石、いっぱい持ってるけど……?」

 なるほど、そういえばそのあたりのことは説明したことがなかった。

「この世界じゃさ、たまに魔石がなくても魔術が使える人が生まれてくるんだよ」
「え、じゃあ本当の魔法使いじゃん!」
「でも魔石があれば同じことができるんだよね?」
「もちろん。でも魔石は使うと無くなっちゃうでしょ。だから大掛かりな魔法は難しいんだよ。でも、魔石が要らない人なら……」
「そっか! 大掛かりな魔法も可能ってことね!」

 コータの言葉に、アリサがぽんと手を叩いた。

「つまり、魔石が使い放題って感じなのね」
「それがそうでもないんだよ」
「なんで?」
「魔石なら色んな属性のものを集めたらいいけど、生まれつき魔力を持ってる人の場合、魔石なしで使えるのは一属性だけなんだよ。だから自分が持っていない属性の場合、やっぱり魔石が必要になる」
「「「なるほどぉ」」」
「でも、持ってる属性だけなら、使い放題と言えなくもないよね。限度はあるけどさ。だからこの世界ではそういう人は……」
「貴族になる、ってことかぁ」

 理解できたようで、みんな関心している。

「じゃあ、危険がないってのは?」
「あたしたちの格好を見て貴族だと判断したけど、魔力は感じられないから危険はないってことじゃない?」
「でも、ぼくたち貴族じゃないよね」
「言うべきなのかな」
「うーん、黙っておくってのはちょっと……」

 そんなことを話ししていると、カインがやってきた。

「お待たせ。仮入国の許可が降りたよ。ただしぼくがついていることが条件なんだけど」
「カインさんが監視するってことですか?」

 カナが言うと、カインが苦笑した。

「監視だと言葉が悪いな。保護と言ってもらえないかな」
「保護してくれるんですか?」
「ありがとうございます! でも、ぼくたちお金が無くて……」
「それなんだけども」

 カインは片目を閉じて見せる。
 日本人にはウィンクをする習慣がないので、ちょっと照れくさい。

「一旦、ぼくの家で保護することになった」
「えっ」
「カインさんの家?」
「いいんですか?」
「ああ。お行儀よくしてくれるなら歓迎するよ!」

(……相変わらずのお人好しだ)

 どこかいたずらな表情のカインを見てぼくは思う。
 本当に――あの頃から何も変わっていない。

「でも、ずっとお世話になるってわけにも……」
「何か役に立てることがあればいいんだけど」
「それなんだけど」

 カインがニッと笑って、なぜか少し声を潜めた。
 
「キミたちなら、冒険者として独り立ちすることも十分に可能だ。外出許可が降りたら、すぐにでも冒険者ギルドで登録するといい」
「冒険者っ?!」

 真っ先に反応したのがケンゴ。
 戦士に憧れて剣道の腕を磨いてきたケンゴにとって、冒険者は憧れの職業なのだろう。

「ぼ、僕たちでもやっていけるでしょうか」
「ああ、一人ひとりの腕はまぁまぁというところだが、パーティとしては一人前どころか、中堅クラスの実力はあると思う」

 その前にダンジョンについての常識を学ぶ必要があるけどね、とカインはそう言いながら、俺の顔をちらりと見た。

「……なんですか?」
「キミ……ダイチくんだったか。キミはダンジョンに詳しいようだね」
「ええ、まぁそれなりに」
「その歳で大したもんだ。――どこでその知識を?」

 カインの目がキラリと輝く。
 おそらく訝しんでいるというよりは、好奇心が勝っているのだろう。

「それについては、後できちんとお話しますので、少し待ってもらえませんか」
「うん? それは構わないけど……理由は?」
「ぼくもまだ少し混乱しているので……決してカインさんを謀るようなことはしないと誓いますので、お願い致します」

 それに、どうせ時間の問題だ。
 何故なら――
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