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三章「遭遇」

#19

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 これで、このダンジョンへはもう来られなくなるのかもしれない。
 否、きっともう来られないのだろう。
 皆は一様に、ダンジョンを手放し難い、惜しむ気持ちだった。

 いつもの見慣れた通路に差し掛かる。
 しかし、いつもと若干様子いつもと若干様子が違うようにみえる。
「Nocturnality(夜目)」のせいか?
 はじめに異変に気づいたのは、「Nocturnality(夜目)」を解いていたケンゴだった。

「あれ、暗くね?」
「暗い?」
「ああ、みんな『Nocturnality(夜目)』を解いてみろよ、なんかいつもと違うというか……」
「ええっ」

 皆は慌てて「Nocturnality(夜目)」を解く。

「どうしたんだい?」

 カインが不思議そうに皆を眺める。

「いつもより暗いんです」

 とカナが説明する。

「夜だからでは?」
「いや……検証したもの。そんなはずは……」

 もし、検証どおりでなく、外が暗くなるほどの時間――今は真夏だ、この暗さでは門限はとっくに過ぎているだろう――だとしたら、大事だ。

「ちょ、ちょっとまって」

 アリサが思わず走り出す。門限が一番厳しい家だからだ。
 そして。

「ケンゴ! みんな! どうしよう!!!」
「Nocturnality(夜目)」を解いたせいでよく見えない。
 アリサが進んだ先から、アリサの焦った声が聞こえて来た。

「どうした?」
「出口が!!」

 アリサが叫ぶ。

「出口が無くなってる!!!!」


 ▽


「それで、本当に出口はここであっているのかい?」
「はい、間違いありません」
「似たような通路はたくさんあるよ?」
「いいえ、蛍光石の配置から見て、絶対に間違いありません」

 ケンゴが項垂れながら言う。
 確かにそのとおりだ。同じ階層に、同じ蛍光石の配置は絶対にありえない。
 これはダンジョンの鉄則だ。

 つまり。

「もともとは、ここに大きな穴があって、外に出られたはずだということ?」
「そのはず、なんですが……」

 そこには、周りの壁と同じ、丸みを帯びた石積みの壁があった。
 叩いてみてもびくともしない。とてもではないが、この先に空間があるようには見えないし、何よりも、真新しい壁ではなく、苔などの汚れのある、周りの壁同様の、長い年月を経た壁にしか見えなかった。

「嘘をついているんではないね?」

 カインが疑わしそうに皆の顔を見回す。

「本当です!……信じられないかもしれないけど、嘘なんか付いていません!」
「そうです、嘘じゃないです!」

 皆の必死さに、カインが慌てて「待って待って」と手のひらをこちらに向けて、

「信じていないわけじゃないんだ、キミたちが嘘を言っているようには見えないし。とはいえ、どう見てもコレは今日昨日作られた壁にも見えない」
「でも、本当に今日の朝までは……」
「うん、ここにキミたちの秘密基地とやらがあった、と言うんだね?」
「はい……」

 うーんと唸って、カインはしばらく壁を叩いたり、罠を探したりとうろつき周る。

「まぁ、こういう現象がありえないとまでは言わない。きっとキミたちが言うとおり、今朝まではここには通路があったんだろう」
「信じて、くれるんですか?」
「うん、まぁ、嘘を言っているわけではなさそうだしね」
「でも、なんで……こんな、急に……」
「考えられることは、三つある」
「三つもあるんですか」
「うん。ある。もっとあるかもしれないけど、今とっさに思いつく中では、一番可能性が高いのが、キミたちが何らかの魔術でここに送り込まれて、記憶を改竄されているというパターン」
「えっ!」
「これが一番納得行く説明ではあるんだけれど、話を聞く限りキミたちにそんなことをさせるメリットがなさそうだ。だから、一応却下」

 皆ホッとした顔をする。

「次が、まだこの階層が拡張中で、たまたまダンジョンの意思でこのように塞がってしまったというパターン」
「ダンジョンって、勝手に壁が塞がったりすることがあるんですか」
「なくはない。とはいえ、今朝から今にかけての短時間で、そんなことがありうるのかまでは、私ではわからないな」
「……」

 皆で顔を見合わせる。

「最後は、もっと荒唐無稽」
「なんですか」
「まぁ、夢物語なんだけど」

 コホン、と一つ咳払いをして、

「失われた技術である、空間魔法の使い手が、この壁とキミたちの秘密基地を繋いでいたというパターン」
「空間魔法?」
「そう、まぁ、詳しいことはわかってないんだけど、魔術の一つに、そういうものがあったとされてるんだ。現在、使い手は一人もいないし、文献も殆ど残ってないんだけれど」
「それじゃあ、あるかどうかもわからないじゃないですか」
「いや、それがそうでもない」
「どうしてですか」
「だって、ダンジョンが、その空間魔法の産物とされているからだよ」
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