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三章「遭遇」

#15

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「なぁっ?!」

 確実に捉えたと思った相手が気づくと後ろに居て、しかも振り下ろしたはずの木刀は手の中になく、取り上げられている。
 日本の感覚しか知らないケンゴには、何が起きたかわからなかったろう。

(そう、これが王国騎士の実力……と言うよりは、カインの実力か)

 ふぅ、と息を吐いて、カインが木刀をケンゴに返す。

「想像を遥かに超える腕だった。侮ってすまない」

 カインはそう言って、頭を下げた。

「え、ちょ、やめて下さい」

 ケンゴが慌てて止めるも、

「いや、これだけの実力があるのなら、このはぐれ階層くらいなら何の問題もないだろう。試すようなことをして済まなかった」

 そう言って、カインが笑う。
 ケンゴが無事だったからか、アリサがほっと息をつく。

「一体何が起きてたわけ? 今のやり取りの意味は?」
「こんな子供だけでダンジョンに潜ってるのが心配だから、実力不足を見せつけて追い出そうとしたんだろうな」
「じゃあ……」
「ケンゴの腕は確かだ。剣道はとても洗練された技術だからな。技術だけなら下手な冒険者にも引けは取らない。実力不足とは思われまいよ」
「その通り」

 カインがまた人懐こい笑顔で手をひらひらさせて、

「こんなはぐれ階層とは言え、ダンジョンはダンジョンだ。それに、一歩他の階層に出てしまえば間違いなく命を落とす。なにせ、ここは『最果ての迷宮』だからね」
「最果ての迷宮……」
「でも、これだけの腕があれば、ケンゴくんに関しては問題はないだろう。そうだな……Dクラスの冒険者にも匹敵する」
「やった」

 何が何だかわからないうちに戦わされたケンゴは、自分が試されていたこと、そしてカインの目に適ったことを知って、喜びを露わにする。

「でも、他のメンバーについてはどうかな」

 カインのイタズラそうな目。
「さあ実力を見せてみろ」と言わんばかりだ。

「それについても、問題ないと思います」

 オレが言うと「と言うと?」とカインが先を促す。

「アリサは前衛として、ケンゴと魔石の取得数で争えるくらいですし、コータの索敵能力は大人顔負けですよ」
「ほう?」

 信じてない……か?

「では……」

 コホン、と一つ咳をしてみせる。

「カインさん。あなたは、最近もここに着たことがあるでしょう?」
「ん? 確かに来たことはあるな」
「その時、この先の噴水に腰掛けて、パンをかじっていた」
「……なぜ知っている?」
「その場にいたからです」
「……!!なんと……」
「あなたがあの広間に来る前に、あなたの気配を察知し、モンスターではないことに気づき、そして戦いを避けるために息を潜めていました」
「それは……ぜんぜん気付かなかったぞ」
「コータの索敵能力の証明にはなりませんか?」
「うむ、十分だ」

 まいったな、とカインが頷く。

「あと、ぼくとカナは後衛です。一応全員が魔石を使った魔術は使えるのですが、カナが一番得意ですね」
「キミより?」
「そうですね、似たり寄ったりでしょうか。そもそも僕たちが灯り魔術を使っていないことでも、それなりの魔術の腕があると認めてもらえないでしょうか」
「……「Nocturnality(夜目)」か」
「そうです」
「なるほど。ダンジョン探査には非常にバランスの取れた、良いチームだと思う」
「……では?」
「うん、君たち探検チームによる、ダンジョン探索を認めよう」

 この階層に限りという条件付きではあるけどね、とカインは片目をつぶる。

「やった!」

 皆が飛び上がって喜ぶ。
 どうやら「騎士」に対する警戒心もなくなったようだ。
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