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三章「遭遇」

#8

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「さあ、久しぶりのダンジョン探索、行くぜ!」
「「「「おーっ!」」」」

 ケンゴの掛け声に、皆が応える。
 この二週間、詠唱の練習と検証のしっぱなしで、つまり四回も探索を断念してるからね。
 弁当もお茶も準備万端。
 初めての「丸一日ダンジョン探査」だ。

 みんなうずうずしている。

「「「「「Nocturnality(夜目)!!」」」」」

 全員で一つの黄色い魔石を握って、同時に夜目魔術を詠唱する。

「おお、明るいな」
「灯り魔術とはまた違う感じだね」
「かなり遠くまで見えるのね……あっ、あそこモンスターじゃない?」
「本当だ……これまではあんな遠くにいるのまで見えなかったよ。コータがいつも気づくのも、このくらいの距離じゃない?」
「うーん、まぁあのくらいの距離なら気づくとは思うけど、これならぼくももっと遠い敵に気づける、と思う」
「マジか。コータすげぇな。今までは「いるぞ」とか言われても、見えないから凄さがわからんかった」

 灯り魔法と違って、濃い影が存在しないので、足元がよく見える。
 これはかなり快適だ。

「行くぞ」

 ケンゴはどんどん奥へ入っていく。足取りは軽い。

「これからはこれに限るな」

 どんどん突き進む。
 問題は音だけれど、コータ曰く、

「相手はガシャガシャと鎧の音を立てて歩いてるわけだから、音についてはそんなに意識しなくてもいいと思う。それに音が届く距離になれば、ぼくも気配で気づくよ」

 とのこと。
 まぁ、あまり大声で話する訳にはいかないだろうけど。

「それに、ぼくもそうだけど、普段は「人の気配」なんか探してないからね。モンスターを探すのに集中してるから、相手が先に僕たちを見つけるなんてことはそうそうないと思う」

 コータが索敵に自信を覗かせる。

「あ、この先の角にデカグモ二匹」
「よっしゃ」

 ケンゴが木刀を持ったまま走り出す。角を曲がってすぐに

「うりゃっ!」

 パンパンッ!といい音をさせて、魔石をもって戻ってくる。

「青二つかぁ」
「黄色が必要なんだよなー。そんなに数がないし」
「無くなっちゃったら、ダンジョン潜れなくなっちゃうしね」
「黄色が出てくるまで頑張る!」
「できれば複数集めたいけどね」
「調子に乗ると危ないから、見つけたら戻る、というのは徹底しておこう」

 どんどん突き進む。
 しばらく進むと、噴水のある八差路に差し掛かった。

「お、この前の広場だ」

 先日の鎧男のことを思い出し、身を固くする。

「コータ、周りに人の気配は?」
「モンスターの気配なら、いくつもあるけど、人の気配はないかな」
「そうか」

 ケンゴとアリサがあからさまにホッとする。

「うわっ! みんな見て!」

 カナちゃんが上を見て、感嘆の声を上げる。

「お、おお? おおおおお?!」

 満点の星空だった。
 前に見たときも、星空を綺麗だと思ったものだけど……まるで比べ物にならない。

「「Nocturnality(夜目)」のおかげで強化された目でないと、この星空には気付かなかったろう。
 天の川のような星の集まりや、散りばめられた極小の光。
 たまに瞬く強い光を放つ星。

「この町に居ると、星空なんて見慣れてると思ってたけどな……」

 アリサが呆然と呟く。
 ぼくたちの住む海近くの田舎である街は、星空が綺麗なことで有名だ。
 たまにでっかいカメラを空に向けている旅行者も見かけるほどだけれど(星以外に見どころはまったくない)、ここで見られる「ダンジョンの星空」は、それ以上に遥かに綺麗だ。

「プラネタリウムとも違うよね……」
「……これもきっと魔術なんだろうな」

 ダンジョン内の星空観察。
 しかしそんな時間はそう長くは続かなかった。

「みんな、ここを離れよう」
「どうした?コータ」
「幾つかの通路から、モンスターの気配があるんだ。こちらに近づいてくる」
「強敵か?」

 ケンゴの声に緊張が混じる。

「ううん、ただ、この場所にいると囲まれちゃう」

 皆はハッとして、慌てて立ち上がる。

「囲まれなければ、大して怖くないよ。どんどん行こう」

 コータの指示に皆が頷く。

「こっちに行くと数が多くて、あっちにはちょっと硬そうなのがいる」

 硬そう、というのは「強そう」みたいなイメージだ。
 何度もモンスターと戦っているうちに、いつの間にかそういう言い方をするようになった。

 ケンゴが言う。

「黄色の魔石が欲しいからな。質より数のほうがありがたい」
「じゃあ、こっちだね」

 コータが指差す方向に、皆で向かった。
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