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三章「遭遇」

#5

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 ぼくたちはその場で引き返すことにした。
 いくら話し合っても意味がないのはわかってるからだ。

「少なくとも、さっきの男が向かったのは逆方向だから、いきなり出くわすことはないだろ」

 とケンゴは言ったけれど、どうしてもおっかなびっくり歩くことになり、出口に戻るのには少し時間がかかってしまった。

 外から入ってくる明るい光を見て、ぼくたちは心底ほっとする。
 途中でツノコウモリが現れたが、ケンゴが上の空のまま片手で叩き落とした。
 考えてみれば、モンスターよりも人間の方を怖がっているなんておかしな話だ。
 思えば、ぼくたちもずいぶんモンスターに慣れたもんだ。

 ようやく基地に戻って、みんな息をつく。

「みんな、聞いてくれ」

 ケンゴの声に、皆が振り返る。

「今日のことについて、話し合っておこうと思う」

 なんかリーダーっぽいことをいい出した。

「賛成」

 アリサが手を挙げて、

「つまり……これからどうするかってことだよね?」
「またばったり会うこともあるかもしれないからね」
「あたしはいつもどおりでいいと思う」

 カナちゃんの言葉に、アリサが顔をしかめる。

「それは……『ダイチさん』が出てこなかったから危険はないって判断?」
「そう」

 頷くカナちゃんに、

「それはまぁ……言いたいことはわかるけれど、実際のところはわからないじゃない?」

 アリサが反対する。

「索敵はコータが担当だ。だから、敵との遭遇についてはコータの意見を聞こう」

 ケンゴの言葉に、

「え、ぼ、ぼく?」

 コータがちょっと狼狽えた。

「そうだ。リーダーとしてコータの意見を聞きたい。索敵が一番上手いのはコータだ。だから、もしこれからもダンジョンに潜るなら、さっきの男に会わないために、コータに頼ることになる」

 ケンゴが真剣な顔でコータを見つめる。

「コータは、どうしたらいいと思う?」

 コータはしばらく考えて、

「わかんないよ」

 と答えた。

「わかんないって、そりゃわかんねぇのはみんな同じだけどさ」

 ケンゴが口を尖らせるが、コータは

「や、そうじゃなくて」

 と、考え考え思ったことを言葉にしていく。

「カナちゃんの言うことも一理あると思うんだ。ぼくは、大人ダイチ……いや」

 ちらっとぼくの顔を見る。

「もう『ダイチさん』でいいかな」
「ちょ、その呼び方やめて」

 しかしぼくの言葉はサラッと無視された。

「ダイチさんのことは、ぼくも信用していいと思ってる」
「その呼び名、定着しちゃうんだね……」
「じゃあ、これからもいつも通りでいいってことか?」
「ううん、アリサの言うことももっともだと思うんだ。多分、危険はないとは思う。とはいえ、本当に遭遇しても大丈夫かどうか、試して見るわけにもいかないよね」
「ま、そうだよな」
「だから、ぼくとしてはこれまで通りダンジョンには潜りながら、できるだけ灯り魔術を使わないで、できるだけ遭遇しないようにした方がいいと思ってる」
「なるほど」
「でも、さ」

 コータは肩をすくめて、

「それが正しいかどうかは、ぼくにはわかんないかな。最終決定は、リーダーのケンゴが決めるべきだと思う」

 まぁ、そうなるよな。

「ケンゴ……」

 アリサが少し不安そうにケンゴを見つめる。
 視線に気づいたケンゴは、アリサの顔を見つめる。

「アリサ、お前さ、もうダンジョンに潜るのやめたいか?」
「う、ううん、あたしは、ケンゴが決めたとおりにする」

 そしてちょっとうつむいて

「やっぱりちょっと怖いけど……」
「じゃ、ダイチは?」

 え、ぼく?

「お前はどうしたい?」
「う、うーん……正直、これでダンジョン探索はやめる!ってのは、無いかなって思ってるけど」
「けど?」
「ほら、ぼくの場合さ、『大人ダイチ』はぼく自身でもあるわけで……ちょっとみんなとは立場が違うというか」
「あぁ……」

 コータが頷く。

「でもまぁ、なんだろ、ぼくもケンゴの決めたようにするのが一番だと思う」

 丸投げした。

「よし」

 ケンゴが腕を組んで、何やら悩んでいるように見せる。
 まぁ、どうせ格好だけで、何も考えてないと思うけど。

「決めた!」

 ケンゴが宣言する。

「索敵担当のコータの意見で行く!できるだけ灯り魔術を使わず、できるだけ鎧の男に遭遇しないようにする。あとはいつもどおりということで」

 とりあえず、そういうことになった。
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