31 / 65
三章「遭遇」
#3
しおりを挟む
((((……!))))
全員が緊張に身を固くする。
現れたのは、鎧を着た若い男だった。
年の頃は、二十代の半ばくらい。
暗いのではっきりはしないが、髪の毛の色は明るく、西洋的な顔立ちだ。
そして――腰には剣。
思わず息を呑む。
剣を下げてこんなところに一人でいるということは、きっと強いのだろう。
もし僕たちの存在に気づいて、戦いになったら。
(……勝てるか……?)
どう考えても、勝てる気はしなかった。
なにせ相手は大人だ。武器も僕たちが持っているような木刀や鉄パイプじゃない。
本物の剣だ。
男は、何かを探すようにキョロキョロと見回している。
(僕たちを探している……とか?)
もし見つかったらどうなるのだろうかと考えて、ブルリと震える。
モンスターと戦うことには慣れたけれど、人と戦うことなど考えたこともなかったのだ。
しかし。
(なんで「大人ダイチ」が出てこないんだよ……)
そうなのだ。いつも僕たちが危険に晒されたときは必ず「大人ダイチ」が現れた。
現れたというか、まぁぼくなんだけど……こういうときこそに出てきてくれないと!
(肝心なときに出てきてくれないんじゃ、意味がないじゃないか!)
……と、そこまで考えて、気づく。
(いつの間にか、ぼく自信が「大人ダイチ」に頼り切りになっている……?)
それは――何か不味い気がする。
そんなことを考えている間も、男はガシャガシャと歩き回り――この足音は、鎧が立てる音だったのだ――噴水に腰掛ける。
そして、ゴソゴソと腰に下げた袋から何かを取り出して、口に運んでモグモグと口を動かしている。
(食事してる……)
モンスターは食事をしない。というよりは、モンスターはダンジョンに迷い込んだ人間以外は食わない。
大人ダイチ曰く、ダンジョン内でモンスターにやられたりして斃れると、あっという間にモンスターに群がられて、数分で骨まで食われて跡形も残らないという。
つまり、この男は少なくともモンスターではないということだ。
人の形をしたモンスターも居ると聞く。
冗談みたいな話だけれど、人の骨だけのモンスターや、ゾンビみたいなのもいるんだそうだ。
しかし、目の前でのんきに(?)食事をする鎧の男は、少なくともモンスターではない。
(何者だろう)
そんなことを思いつつ、ぼくたちはとにかく気づかれないように息をひそめ続けるしかない。
ぼくたちの緊張をよそに、男は食事を続ける。
どうやらパンのようなものをかじっているようだ。
見た目で判断することはできないけれど、ごく普通の人間にしか見えない。
それも、横顔を見る限りは目付きが鋭いとかいうこともなく、どちらかというと人の良さそうな顔に見える。
もちろん、だからといって安心することなどできるわけがなかった。
人の良さそうな顔をして、僕たちを見つけたとたんに豹変して剣を抜くかもしれないのだ。
五分か、三十分か、それとも一時間か。
実際はそう長くない短い時間なのかもしれない。
でも、ぼくたちはじっとしていることに慣れていない。
とにかくとてつもなく長い時間じっとしているような、息苦しい時間だった。
しかしその苦痛な時間は、ようやく終わりを告げる。
男が食事を終えて立ち上がる。
そして「うん」と小さな声を出して背筋を伸ばし、もと来た道を戻っていった。
「facem(灯りよ)」の光がだんだんと遠ざかり、ガシャガシャいう足音も消えても、ぼくたちはしばらく動けなかった。
そのうちコータが「はーっ」と息を吐いて、ぼくたちはようやく危機が去ったことを知った。
全員が緊張に身を固くする。
現れたのは、鎧を着た若い男だった。
年の頃は、二十代の半ばくらい。
暗いのではっきりはしないが、髪の毛の色は明るく、西洋的な顔立ちだ。
そして――腰には剣。
思わず息を呑む。
剣を下げてこんなところに一人でいるということは、きっと強いのだろう。
もし僕たちの存在に気づいて、戦いになったら。
(……勝てるか……?)
どう考えても、勝てる気はしなかった。
なにせ相手は大人だ。武器も僕たちが持っているような木刀や鉄パイプじゃない。
本物の剣だ。
男は、何かを探すようにキョロキョロと見回している。
(僕たちを探している……とか?)
もし見つかったらどうなるのだろうかと考えて、ブルリと震える。
モンスターと戦うことには慣れたけれど、人と戦うことなど考えたこともなかったのだ。
しかし。
(なんで「大人ダイチ」が出てこないんだよ……)
そうなのだ。いつも僕たちが危険に晒されたときは必ず「大人ダイチ」が現れた。
現れたというか、まぁぼくなんだけど……こういうときこそに出てきてくれないと!
(肝心なときに出てきてくれないんじゃ、意味がないじゃないか!)
……と、そこまで考えて、気づく。
(いつの間にか、ぼく自信が「大人ダイチ」に頼り切りになっている……?)
それは――何か不味い気がする。
そんなことを考えている間も、男はガシャガシャと歩き回り――この足音は、鎧が立てる音だったのだ――噴水に腰掛ける。
そして、ゴソゴソと腰に下げた袋から何かを取り出して、口に運んでモグモグと口を動かしている。
(食事してる……)
モンスターは食事をしない。というよりは、モンスターはダンジョンに迷い込んだ人間以外は食わない。
大人ダイチ曰く、ダンジョン内でモンスターにやられたりして斃れると、あっという間にモンスターに群がられて、数分で骨まで食われて跡形も残らないという。
つまり、この男は少なくともモンスターではないということだ。
人の形をしたモンスターも居ると聞く。
冗談みたいな話だけれど、人の骨だけのモンスターや、ゾンビみたいなのもいるんだそうだ。
しかし、目の前でのんきに(?)食事をする鎧の男は、少なくともモンスターではない。
(何者だろう)
そんなことを思いつつ、ぼくたちはとにかく気づかれないように息をひそめ続けるしかない。
ぼくたちの緊張をよそに、男は食事を続ける。
どうやらパンのようなものをかじっているようだ。
見た目で判断することはできないけれど、ごく普通の人間にしか見えない。
それも、横顔を見る限りは目付きが鋭いとかいうこともなく、どちらかというと人の良さそうな顔に見える。
もちろん、だからといって安心することなどできるわけがなかった。
人の良さそうな顔をして、僕たちを見つけたとたんに豹変して剣を抜くかもしれないのだ。
五分か、三十分か、それとも一時間か。
実際はそう長くない短い時間なのかもしれない。
でも、ぼくたちはじっとしていることに慣れていない。
とにかくとてつもなく長い時間じっとしているような、息苦しい時間だった。
しかしその苦痛な時間は、ようやく終わりを告げる。
男が食事を終えて立ち上がる。
そして「うん」と小さな声を出して背筋を伸ばし、もと来た道を戻っていった。
「facem(灯りよ)」の光がだんだんと遠ざかり、ガシャガシャいう足音も消えても、ぼくたちはしばらく動けなかった。
そのうちコータが「はーっ」と息を吐いて、ぼくたちはようやく危機が去ったことを知った。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
獣人の里の仕置き小屋
真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。
獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。
今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。
仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる