上 下
26 / 65
二章「魔法」

#6 魔法を使おう

しおりを挟む
 その日からたちはダンジョンに潜るたびに魔術の練習をすることになった。
 先生はたまに出てくる「大人ダイチ」だ。
 ってことはぼくだけ直接教えてくれる人がいないってことじゃん……。

 案の定、魔術が得意だったのはカナちゃんとコータだった。

「『facem(照らせ!)』」

 カナちゃんが灯り魔法に成功する。

「「「「おおおーーー」」」」

 皆が歓声を上げる。灯りに照らされてるカナちゃん可愛い。
 逆に一度も魔術を成功扠せてないのがケンゴだ。

「くっそ、なんでうまく行かねぇかなぁ……!『Aqua(水よ!)』……『あーくーあー!』」

 ケンゴがイライラしながら黄色い魔石を握りしめる。
 青い魔石があれば成功するのかもしれないけど、何故かモンスターを倒せど倒せど、なかなか出てこなかった。

 大人ダイチ曰く、魔石にも属性はあるが、属性が違う魔石でも使えないことはないらしい。
 ただし、発動しやすさが違うし発動後の効率ががくんと落ちる。
 例えば火属性の魔術を使う時に赤い魔石を使うのと、他の色の魔石を使うのでは数倍の威力の差がある。
 また、魔石によって苦手な属性があって、赤い魔石で水魔法が難しいが、黄色い魔石なら成功率は上がる。

「あー、オレも魔法使いてぇーー!」

 ケンゴがグニグニと魔石を握りしめる。

「魔法じゃなくて魔術だってば。もう少し発音を工夫してみたら?」
「うーん、アックア、アッカー、アクーア、アックぁ~ああああーーーー」
「真面目にね」

 アリサのツッコミに、

「やってらー!」

 と、ケンゴが乱暴に言い返す。
 ちなみにアリサも一度も成功していない。

 ……と。

「お、お、お?」

 ケンゴが上ずった声をだす。
 見ると、握りしめた魔石からポタポタと水が落ちている。

「お、やった? やったのか? オレ」

 ケンゴが立ち上がると、ズボンの股間が濡れていた。

「……おもらし?」
「違わい!!!」

 残念な絵ではあるが、確かに手から水がポタポタと落ちている。
 成功らしい。

「やったやった! できたできた!」

 飛び上がって喜ぶケンゴ。
 それをジト目で睨むアリサ。

「なんでケンゴができてあたしができないのよ!」
「才能の違いじゃね!?」
「才能ってんなら、あたしのほうが上でしょうよ!」
「なんでそんなこと分かんだよ!」

 言い返しながらケンゴの顔が勝ち誇っている。

「クッ……ケンゴのくせに……!」

 アリサの顔が屈辱に歪む。

「ほら、アリサって滑舌がいいから……」

 カナちゃんが慰める。

「もっと外国語っぽく言ってみたらどうかな。ケンゴ君も発音変えていろいろ試して成功したんだし」
「……やってる……」

 アリサが肩を落とす。

「じゃあさ」

 カナちゃんがちょっと迷った素振りを見せてからアリサの耳に何かを囁く。
 アリサは少し驚いた顔をして、真剣な顔で頷く。

 そして。

「『lumen(光よ!)』」

 途端、手に持った魔石がシュルッと宙に消えた。

「やったー!!!」

 目の前に、光の玉が浮いていた。
 光魔法だ。

「え? なんで? なんでアリサが成功するんの」

 勝ち誇っていたケンゴの顔が驚愕に歪む。

「才能の差?」
「オレだって成功させたじゃん! ていうかオレのほうが先!」
「魔石がまだ残ってる状態でポタポタ水が出てる状態が成功って言えるの? うぷぷ、おもらし魔法?」

 ギャーギャー喧嘩を始める二人をよそに、ぼくはカナちゃんにこっそりと、

「カナちゃん、アリサに何を教えたの?」
「うーん……ちょっと言いづらいんだけど」

 カナちゃんがちょっと困った顔をして、

「あたしのモノマネをしながらやってみて、って言ったの」
「ああ~」

 カナちゃんは体が小さいだけでなく、話し方が幼い。
 舌っ足らずで、アリサのハキハキした話し方とは真逆だ。

「ケンゴくんにあたしの真似されるのはちょっと抵抗あるしね」
「まぁ内緒にしとく」

 そう言って笑い合う。

「『facem(灯りよ)』」

 その隣で、コータがあっさりと新しい魔法を成功させる。

『lumen(光よ)』と同じ灯り魔法だが、こちらは火属性だ。
『lumen(光よ)』と違うのは、熱があるかどうか。

 ぶっちゃけ、ちょっと熱い。
 はじめに「大人ダイチ」が赤い魔石なのに『lumen(光よ)』を使ったのも、安全のためのようだ。

「コータ君すごい!」
「すげぇな。これで何種類?」

 訊くとコータはちょっと得意気に、

「『lumen(光あれ)』『Ignis(火よ)』『Ventus(風よ)』『Aqua (水よ)』あと、この『facem(灯りよ)』の五種類だよ」
「すごいな?!」
「あたし『Ignis(火よ)」が使えないんだ。まだ四種類」
「いや、それも十分凄いから」

 十分魔法少女ですから。

 ちなみには「『lumen(光あれ)』『Ignis(火よ)』の二種類が使える。
 大人スイッチが入ったらもっと色々できるんだけどなぁ……。

 なんなんだ、自分。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

性転換マッサージ

廣瀬純一
SF
性転換マッサージに通う人々の話

白城(しろぐすく)の槍

和紗かをる
大衆娯楽
痛快サイコパスエンターテイメント開幕。ある少年が出会う普通の世界の裏側の物語。策士の少女に恋をして、因果の反逆者を屠るただ一つの槍として駆け抜けた白城一槍(しろぐすくいちやり)の生とは。異形な暗殺者や超常の力を操る武芸家が織りなすハイテンションストーリーをご覧あれ

獣人の里の仕置き小屋

真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。 獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。 今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。 仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...