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二章「魔法」

#4 『魔石戦』

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「そういえば、聞きたいことがあるんだ」

 後ろでギャーギャー騒いでいるのを無視して、カナがオレに言った。

「魔法の使い方がわからないんだ。「るーめん」だけ使えたけど、あたししか使えなかったし」

 なるほど?

「皆が使えなかったのは発音の問題と、お前のラックが影響しているかもしれんな」
「発音?」
「『lumen』は初歩の初歩だ。だが、初歩だろうがなんだろうが発音が悪ければ発動しない。お前は舌っ足らずで、たまたま運良く『lumen』の発音が正しくなったんだろう」
「なるほど」

 舌っ足らずなのは自覚があるらしい。
 ついでに、魔術の基本についても説明しておこう。

「魔石もそうだが属性には『火』『水』『土』『光』『風』の五属性ある。最後に『神聖』……これは厳密には属性ではないので魔石には存在しないが、これを加えて六属性」
「なんだか本格的にファンタジーっぽくなってきた……!」
「テンション上がるね……!」

 いつの間にか喧嘩をしていたケンゴとアリサもオレの話を聞いていた。

「火は熱を、水は液体を操る。風は気体だな。土は「錬金」とも呼ばれ、固体を自在に操る。光は、光だけでなく「闇」も含む。神聖は生命に関わるものを指す」

 指折りながら説明する。

「基本はこれだけだな。他にもう一つあるという話だが実際に見たものはいない」
「おお~」
「な、なるほど、六属性か」

 皆「はぁー」と感心した顔で頷く。
 
「でも、それすらオレにはできなかったんだよな」

 ケンゴが悔しそうな顔を見せる。
 ふむ、発音だけでなく、感覚的に魔術という存在にピンときていないのが原因らしいな。

「では、見てみるか?」
「えっ」
「魔術は頭で考えるよりも、見て覚えるほうが早い」

 皆が、期待を込めた目でオレを見るので、ニヤッと笑ってやる。

「この先のモンスター溜まりで、魔術を使った戦い方を見せてやろう」
「「「おおっ!」」」

 歓喜の声が上がる。

「見たい!」
「すげー!魔法でバトルとか!」
「私にも使えるかな」
「カナはすでに『るーめん』を使ってるじゃない」

 どうやらモンスター溜まりに対して恐怖は少ないようだ。
 良いことだ。侮られるのも危険だが恐怖で動けないのはもっと危険だしな。

「では、行くぞ」

 オレが立ち上がると、皆もすっくと立ち上がる。

「この先右側に小部屋がある。吸血コウモリが十匹ほどとジャイアントタランチュラが数匹。それにもう一匹何やら硬そうなのがいるな。それ以上はわからないが少なくとも危険な敵はいないようだ」
「そ、そんな正確にわかるもんなの?」
「冒険者なら普通にできる。コータ、お前なら位階を上げてもっと正確にわかるようになるぞ?」
「ホント? よ、よし、ぼくも頑張って位階上げることにする……!」

 コータが気合を入れる。その調子だ。

「今回は位階を上げることよりも経験値を積め。戦わなくていいからよく見ておくんだ」
「わかった」

 皆が息を飲むのがわかった。
 やはり「多数の敵がいる」ということそのものに対する緊張感があるのだろう。

「魔石をこちらによこせ。を見せる」
「わかった」

 慌ててケンゴがリュックサックから魔石を取り出して、オレに差し出した。
 四つか。少し心許ないが雑魚相手なら十分だ。

「行くぞ!」

 オレは部屋に飛び込む。
 こうした小部屋にモンスターが溜まっているのは、基本的に待ち伏せ目的だ。油断はできないが、部屋に這入るか前を通るまでは攻撃はない。

「『Flamma(炎よ!)』

 突入と同時に魔石を一つ消費する。ギャギャ、と声がして、コウモリを一網打尽にする。
 コウモリは羽が燃えやすく、炎を使うと倒すのは容易だ。だが、足元にはジャイアントタランチュラが五匹。
 それぞれ八つずつある目のうち、オレに面した四つの目が一斉に赤く光る。

「『Ignis(火よ!)』

 火の玉を5つ作る。威力はいらないので目立つように大きめに育ててからジャイアントタランチュラに一つずつお見舞する。
 ジャイアントタランチュラは火に耐性がある。ただの牽制だ。だが火の玉につられて赤い目が一斉に動く。十分だ。
 コウモリの魔石が降り注ぐ中、おれは状況判断する。
 赤の魔石(火属性)が七、黄の魔石(土)が二,青の魔石(水)が一。

「『Thorn(穿て)!」

 生まれたての土魔石を二つとも消費して小さな槍を5つ作り出す。チッ、魔石の質が悪い。1つがなり損ねて宙に溶ける。

「『Ignis(火よ!)』

 蜘蛛のうち一番近い一匹を火の玉で釘付けにしつつ、残った4本の槍を振り落とす。槍が4匹の眉間を正確に穿つ。即死を確認。
 釘付けにしておいた足元の蜘蛛がすぐに動き始める。こいつは警戒する必要はない。眉間を踏み潰す。これでジャイアントタランチュラは全滅。
 すぐに奥にいる硬そうな奴を観察する。レッサースコーピオン、硬くて火や槍に耐性があるでかいサソリだ。
 視界の隅で消えつつある蜘蛛から生み出される緑の魔石(風)を見つける。こいつを使うか。

「『Ventus(風よ!)」

 地を這うように風が広がり、サソリが持ち上がる。更に上に向けて風を強める。サソリが浮き上がって腹ばいになる。
 ここで土の魔石があれば解決だったんだが……ないものは仕方ない。

「『Stiria(氷の槍よ!)』」

 氷の槍を腹ばいになったサソリのど真ん中に落としてやる。物理耐性があっても腹は弱いもんだ。簡単に串刺しになる。
 周りを更に観察する。まだ1匹、部屋の隅に小さなモンスターがいる。あれは、病毒鼠ポイズン・ラット!?

「『Aqua(水よ!)』」

 万一誰かが噛まれたら洒落にならん。こんな階層にもたまにこういうのが出現するから油断はできない。
 鼠を水で囲んでやって身動きが取れなくしてやる。

「『Ignis(火よ!)』」

 そのまま水を沸騰させてやると鼠が溶けて、中に黄色い魔石が残る。こうなると無害だ。

 油断なく周りを見回す。
 よし、敵はもういない。突入からここまで約十秒。

「ふぅ」

 残った魔石は、一、二、三ひのふのみ……ふむ、赤が五、黄が一か。はじめに赤を一つ消費したので、赤四に黄一の収入だな。

 息をついて、皆の方を振り返る。
 皆はポカンとしていた。


=====


 今日はもう一話更新します。
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