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大暴走

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 突然だが、俺は今魔の森の入り口付近にいる。今さっき、今回の大暴走への対応の会議が始まったが、俺とガイアスが知った(性格に言うと、調査をしたガイアスだけ)情報だけじゃあ足りなかったらしい。だから、俺がここに来て状況を見て来る事になった。

 あの時は俺達も、大暴走の危険を知らせる為に早くに街に戻ったからな…。それと、あの吸血鬼フローラに関して、あの吸血鬼は大暴走の影響で出来た魔物じゃ無く、吸血公爵家の令嬢と言う事は、あそこで何かしていた…と考えられる。本当に下僕作りに来たとしても、公爵上位貴族の令嬢が直々に来ると言うのは、何か引っ掛かる。

 そして、大暴走に関しても、もう一度確認しよう。それは、何年間から何十年周期で起こると言う、天災の一つだ。人の手で起こす、止めるは不可能に近く、もし起こったらそれが止まるまで出てきた魔物を倒し続けるしかない。その前兆として、魔物のランクの下落。これは、大暴走で出て来る魔物が奥に集まる為、普通はそこに住み着くことの出来ない魔物達が住み着くからと考えられている。それと、魔物の数が数倍に膨れ上がる。これは、何故そんなに増えるのか現在分かっていない。だが、毎回その様な現象が見られるらしい。そして、今回の魔の森の森の大暴走は、約八十年前に一度起こった事があるらしい。この時の損害は、約十万の兵のうち、約三万四千が死亡。五万人が傷を負い、その中の約三万人の兵が精神的・肉体的要因で戦場に出る事は出来なくなったと記録に残っている。そして、この戦いで参戦していた五人のSSランク冒険者のうち、三人が死亡。二人はどうにか生き残ったが、一人は下半身の酷使で戦いからは身をひいた。

「ふむ、魔物の数が思った以上に多い…。一週間も持たないな、これ。それと、竜種ドラゴンが五体。飛龍ワイバーンが…約百体入は居るな。それと、A、Bランクの魔物も大量。これはまずいか…?Cランクも少々。」

 竜種、それはこの世界の恐怖の象徴。そして、弱肉強食の頂点トッププレデターである。問題なくSSランクの魔物であり、昔から生きる古龍エンシェント種になると、SSSランクに値する。そこまで行くと、ほぼ神様の様な存在になる。飛龍____ワイバーンもSランクの魔物であり、かなりの強敵である。と言うか、群れで生活する上に竜種と違い、人里近くまで出没する可能性もある。他のA、Bランクも普通の一般人や低ランク冒険者には脅威であり、それが主力になっている…と言う事は、街に少なからずいる低ランク冒険者はこの戦いに参戦する事は出来ないだろうな。

「よし、ここまで、いったん帰るか。…さっさと対策を練らないとな。」

 情報がある程度収集できたら、すぐに街に帰る。道のりも短くないし、なるべく早く帰った方が時間が取りやすいからな。因みに今は、少しでも安全性を高める為に、ヴォルデザートを使って聖天の鎧を完全装備している。これは、行動や視界を阻害することもないし、防御性能も…かなり高いので着用している。と言うか、神魔剣の話を聞いた後に、この鎧の事も聞いてみると、これもあの戦神の装備の一つらしいので、圧倒的な防御性能を持っているのも納得である。

「「「「…それは本当か!?」」」」

 俺の報告にお偉方、が血相を変えて見事にハモる。ちなみに、ここにいるお偉方はギルド長ガイアス三人の高ランク冒険者ノート・フレア・ユキ、この街、「アクア」の領主。そして、商業ギルドやその他富豪達、そしてここの王城にいる騎士団の長。である。今ここを襲われたら、この街は終わるだろうとは、ガイアスの言葉である。つーか、なんで俺に言った?そして、危険視しようぜ?なんでそんなに余裕なんだよ…とも思ったが、どうやらちゃんと護衛は隠れているな。恐らく配備したガイアスを含めた四人の高ランク冒険者達も、どこに居るか気づいているっぽいが、知らないふりを貫いている。俺もそうしよう。面倒事は好きじゃない。っと、質問に答えないとな。

「はい、これは確実な情報です。…そして、もしかしたら奥にまだ居るかもしれません。」
「…そうか。ところで、ガイアス殿。貴殿の“最終兵器”とはなんでしょう?」

 最終兵器?俺が行く前はそんなの聞いていないが…っ!まさか⁉︎

「はい、それはこの少年、シンの事でございます。この少年は、十二分に今回の件に貢献できるでしょう。」
「なぬ?こんな少年が?」
「冗談じゃあないでしょうね?」
「勿論です。こんな時に軽口を叩く余裕はありませんよ。」

 …ここを襲えば云々って言ったのは何だったんだ?…今は気にしないで置こうか。それにしても、おれが「最終兵器」とはどう言う事なのだろうか。俺が何かするのだろうか?

「この少年に、コアを潰してもらいます。」

 コア。それは、大暴走が起こった時に、何処からともなく現れる球体のことである。コアを潰すと、大暴走が収まるのだが、どこにあるか分からないのが問題である。地下や木の中、上空や魔物の体内など、何処にでも現れるので、見つけるのが大変なのだ。ただ、実際にこれを潰して収まった大暴走も複数存在する。だが、全て狙ったわけではなく、たまたま見つかったものだ。狙ってやるなど、不可能に近いのだ。

「不可能ではありません。何故なら、少年は気配を精密に知る事ができます。そうでしょう?」
「当たり前だ…です。」

 まぁ、気配察知は前世の経験から、かなりレベルの高いものだと自負している。

「コアは、強大な気配を放ちます。それを探す事で、コアの探索はスムーズに出来るでしょう。」

 なるほど______確かに行けそうだな。
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