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明石海峡を越えて、淡路島へ! ②

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 ――世界一大きなつり橋・明石海峡大橋を渡り終え、わたしたちの車はとうとう淡路島に上陸☆
 ちょうどその頃に、チョコレートもピッタリなくなった。

 まずは。淡路サービスエリアに立ち寄り、運転に疲れた貢のために休憩を取ることにした。わたしもお手洗いに行きたかったし、飲み物も補充しておきたいし……。

 このサービスエリアは、ただ休憩するためだけにあるような場所ではない。もちろん男女の大きなお手洗いはあり、食事を摂れるお店もたくさんある。飲み物の自販機もあるし、お土産も買える。
 でも、それだけじゃないのがここのすごいところ。名物は、瀬戸内海や明石海峡大橋が眺められる大観覧車だ。

「――わぁ、明石海峡大橋があんなところに見える! わたしたち、あれを渡ってきたんだね」

 各々お手洗いを済ませ、飲み物も買い込んで車に戻ろうとする途中、わたしは目の前に広がる風景に感動した。
 ここは海のすぐ近くで、あの大きな橋がぐっと間近に見えるのだ。吹いてくる風も、ほんのり潮風で心地いい。……今日はお天気のせいか、ちょっとジメジメしてるけど。

「絢乃さん、それってレインボーブリッジを渡ってお台場だいばに行った時とおんなじ感想ですよね?」

「……えっ、そうだっけ? ――あ、あの標識見て! 『トンビに注意!』だって」

 わたしは呆れてツッコミを入れてきた貢をスルリとかわし、初めて見た黄色い注意標識へと話題を逸らす。

 この場所は海が近いせいか、猛禽もうきん類のトンビが上空を何羽も飛び回っている。「ピーヒョロヒョロヒョロ……」という鳴き声も、ここに来た時からずっと聞こえていたし、「トンビにご注意下さい」というアナウンスも流れているのだ。
 お目当てはどうも、ここに来た人たちが持っている食べ物らしい(主におにぎりとかパンだと思う)。トンビは爪が鋭いから、襲われたらまず間違いなくケガをするだろう。気をつけなくちゃ!

「ホントだ。僕も初めて見ました。よかったですねぇ、僕たちは食べ物何も持ってなくて」

「うん。トンビに狙われたらコワいもんね」

 多分、トンビの方も生き残るために必死なんだろうけど、観光客に襲い掛かるのはやめてほしいかも。道路公団の職員さんも頭が痛いだろうな。

「――ね、わたし、あの観覧車に乗りたいな! 付き合って!」

 しばしトンビの存在を忘れ、自分のスマホで海や橋の撮影をしていた貢のパーカーの袖を引っぱり、わたしは彼に可愛く駄々をこねてみた。
 ちょっと子供っぽいかもしれないけれど、甘えるのは年下の特権である。

「観覧車……って、昨日も乗ったじゃないですか。ハーバーランドのに」

「あれはあれ、これはこれだよ! 場所が違えば、見える景色だって違うはずだもん。ね、乗ろうよぉ~~」

 呆れる貢に、わたしはこれでもかとダダっ子攻撃を繰り出す。彼がわたしに甘々なのを理解したうえでの確信犯である。

「……分かりました! 僕もお付き合いします。そんなに可愛くダダこねられたら、『イヤ』とは言えないじゃないですか」

「やったぁ♪」

 作戦大成功☆ やっぱり彼は、わたしのおねだりに弱いようだ。

 ――ここの観覧車の料金は、ハーバーランドのそれより安くて一人六百円だった。
 わたしたちは観覧車の料金だけで、二人分で二千八百円も使っていることになる。すごいムダ遣いだとは思うけれど、今日の料金も貢が払ってくれた。

「わぁ、いい眺め~~! すぐ下が海だよ、海っ!」

 わたしは貢そっちのけで(……ゴメンね、貢!)、窓にへばりついて外の眺望に釘付けになっていた。
 眼下には明石海峡が広がり、視線の先には明石海峡大橋、そして海の上には海上保安部の巡視船が何隻も浮かんでいる。

「……絢乃さんって、こういう時はすごく子供っぽくなりますよね」

「うん。だってわたし、数ヶ月前までは高校生だったもん。子供みたいなものでしょ? 貢はそれがイヤなの?」

「そういうわけじゃ……。むしろ、可愛いなって思いますけど。というか、こうして遊んでて、乗船時間に間に合うんですか?」

「……大丈夫、でしょ。多分」

 わたしたちが予約しているうず潮クルーズの船は、出航時間が決まっている。貢はそのことを心配しているみたいだ。
 ちなみにこのクルーズ船は、少々の雨くらいなら欠航せずに予定どおり港を出るらしい。

「ここから福良港まで、車で一時間もかからないみたいだし。ここで昼食も済ませてから行けば十分間に合いそうだよ」

 お昼は〈幸せのパンケーキ〉で食べる予定にしていたけど、仕方ない。……自業自得だし。

「ですね……。でも残念だなぁ、パンケーキ楽しみにしてたのに」

「実はわたしも……。ゴメンね、貢。わたしのワガママのせいで。パンケーキは明日食べに行こうね」

 さすがはスイーツ男子。今日パンケーキにありつけなくなったことを、彼は本気で残念がっている。わたしは彼に申し訳なくて、お詫びついでに彼を慰めた。

「はい。……まあ、多少の予定変更があってもいいですよね。せっかく夫婦水入らずの旅行なんですし」

「そうそう。最悪、行き当たりばったりでもいいくらい。楽しければいいんだから」

 わたしは元々、チマチマと予定を立ててそのとおりに旅をするなんて好きじゃないのだ。
 それが社員旅行とか修学旅行なら、仕方なく決められたスケジュールに従うけれど、プライベートの旅行でまでそれをやったら間違いなく気が狂ってしまう。

「もし、うず潮を見てからまだ時間が早いようだったら、その後にでも行けるだろうし。ね?」

「あー、そうですね。その手があったか! ビバ、プライベート旅行ですよね」

 今日のうちに楽しみにしていたパンケーキが食べられる可能性が出てきたおかげで、貢のテンションがおかしなことになっている。彼ってこんなにコワれた人だったかしら?

「うん……。どうでもいいけど貴方、めちゃめちゃハイテンションになったね。そんなに嬉しいの? っていうかそんなキャラだったっけ」

「はい! めちゃめちゃ嬉しいですっ!」

 彼の目がキラキラ輝いている。貴方、お子ちゃまですか!?
 そして、キャラ云々という話は思いっきりスルーされた。……まぁいいか。

「……そう。じゃあまあ、そういうことで」

 わたしたちの乗っているゴンドラは、ちょうどてっぺんまで到達するところだった。
 昨日、神戸港から見た景色もスゴかったけど、ここから見える景色も負けず劣らずキレイだ。この景色を里歩や唯ちゃんと共有すべく、わたしはスマホのカメラを構え、撮った写真をすぐにタイムラインにアップした。

「――さて、下に降りたらちょっとお土産でも見て、それからお昼ゴハンね。今日は何にしようか」

 わたしは彼にそう言いながら、スマホで検索する。
 このサービスエリアには、レストランもフードコートもあるらしい。わたしはどちらでも構わないけれど、メニューはどちらかというとフードコートの方が豊富なようだ。

「けっこう色々あるんですね……。でも今日は和食というか、丼ものな気分かなぁ。……あ、パンケーキは別腹で」

「まだ言うかね」

 彼のしゅうねん深さに、わたしは思わず吹き出してしまった。

「……でも、わたしもどんぶりもの食べたい気分かな。せっかく淡路島まで来たんだし、海の幸なんかいいかも。神戸では食べてなかったもんね」

 とにかく、二人とも「丼ものがいい」という点で意見が一致した。あー、お昼ゴハンの話をしていたらなんかお腹すいてきた!


   * * * *


 ――その後、わたしたちはお土産を少し買ってから、フードコートのメニューで昼食を済ませた。
 貢はチキン南蛮丼を美味しそうに頬張り、わたしはサーモンやイクラが載った丼に舌鼓を打っていたのだった。
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