ある日王子は国を出ることにした

ゆみ

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運命の出会い

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 マリエの葬儀はザールにある小さな教会でひっそりと行われた。マルセルは母親が亡くなって初めて、その身分が侍女ではなく国母─つまりは国王の妃になっていたことを知らされた。にも関わらず、王都ではなくザールで葬儀が執り行われたということは、母親の存在はやはり公にされていないのだろう。

 葬儀にはザールの屋敷の使用人が幾人かとロベールの父親が参列をした。
 ロベールの父親である公爵は今までマリエとマルセルの言わば監視役を務めていた。もちろん実際にザールで二人の監視をしていたのは騎士団から派遣された騎士達だったので、その取りまとめ役という事になる。

 マルセルは幼い頃からずっと傍に仕えていた一人の騎士が、実は自分の本当の父親なのではないかと思っていた。
 ポールと呼ばれたその騎士は頼り甲斐があり、マルセルに優しく、そして母親に対しては特別な感情を抱いているように見えた。母親も口には出さなかったが、きっと同じように思いを寄せていたに違いない。
 何かと制約の多いザールで半ば幽閉のような扱いを受けながらも、マリエとマルセル親子がなんとかやって来れたのは、ポールがいつも傍にいてくれたお陰だった。

 マリエが毒に倒れた時、ポールは運の悪いことに休暇中だった。
 マルセルが後に聞いた話によると、ポールが長期の休暇を取るのはこの時が初めてだったという。そしてその理由を聞いてマルセルは愕然とした。──ポールはマルセルが知らない間に結婚をしていたのだ。そして夫人はの子供を身篭っていたのだが流産したのだと言う。ポールは心身共に疲弊した妻を労り、上の子供の傍にいるために休暇を申し出たのだと言う。それを聞いたマルセルは父親を取られたような、ポールに裏切られたような、妙な気分になった。そして突然その存在を知ることとなったポールの子供の事が気になって、頭から離れなくなってしまった。


 母親の葬儀の翌日──マルセルは使用人と護衛に無理を言って教会の裏にある母親の墓地に参ることにした。
 身元がバレないように深く外套を被り、マルセルが護衛騎士と共に墓地へひっそりと訪れると、そこにはマリエの墓に白い薔薇を手向けるポールの姿があった。昨日の葬儀に参列することができなかったからだろう。
 様々な思いが頭を過り話しかけようかどうしようか迷っていたマルセルは、その時になってようやくポールが一人ではないことに気が付いた。ポールの向こう側にはマルセルと同じくらいの年齢の、薄茶色の柔らかそうな髪を靡かせたひょろっと背の高い子供が立っていた。

 マルセルは自分と同じ年頃の子供といえばロベールくらいしか見たことが無かった。ロベールに比べてポールの陰に隠れている子供はやせ形で背が高く、マルセルと同じように色が白かった。そしてその目がこちらを向いた時、マルセルは思わず息を呑んだ。ポールとよく似たその顔に、澄み渡った空の様な色の瞳を持つ美しい顔……。
 ポールと一緒に墓参りに来ているくらいだから、やはりポールの子供だと考えるのが普通だろう。頭では分かっているというのに、何故だか他人の様には思えなかったのだ。
 物陰から様子を窺うだけのつもりが、ついつい身を乗り出してしまっていたマルセルは、間もなくポールに見つかってしまった。

「マルセル様?」
「ポール…。」

 ポールは墓から一歩後ろに下がると、マルセルに向かって騎士の礼をした。

「本当に申し訳ありません…私が休みを願い出た途端にこの様な事になってしまって…。」
「……母上の件はお前のせいじゃない。」
「ですが……。これからはお屋敷にマルセル様お一人になります。」
「分かっている。母親のいない子供をただ一人あの屋敷に置いておくわけにもいかない。どこかへ移動させられるかもしれないな。」

──最も、父上は私のことを生かしておくつもりもないだろうが。

 マルセルはうなだれたままのポールを冷たい目で見るとその脇の子供にちらっと目を向けた。

「ポールの子か?」
「はい、マルセル様と同い年の息子で、ジャンと申します。」
「息子?」

 マルセルはもう一度ジャンの方を見ると、今度はじっくりと観察をした。ゆるく一つに縛られた薄茶色の長い髪、瞳の蒼色は透き通るような肌と合わせて柔らかな雰囲気を醸し出しており、少年にも少女にも見えた。

「……随分と美しい…息子だな。」

 マルセルは自分の口から出た思わぬ言葉にはっと息を呑んだ。ジャンはマルセルの方を何も言わずに鋭い目で睨みつけると、すぐに視線を逸らした。
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