騎士様は甘い物に目がない

ゆみ

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見掛けによらない

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 本日の主役は王太子殿下とその婚約者様。俺は一歩控えた所から見守っているだけで良かったから、植物園の視察もなんとか無事に終わりそうだ。
 施設を一通り回った後に、それまで説明をしながらついて回っていた園長が記念にどうぞとジークフリートに何やら袋を渡してきた時には流石に危なかった。ジークフリートは中身にチラッと目をやるとそのままにこやかに園長に礼を言い、袋をノールックで俺に向けて差し出した。荷物持ちも仕事のうちだ──とそれを受け取るとやはり中身はハーブ入りクッキーだった…。くぅ…。どうにか顔を顰める寸前で持ちこたえた俺、誰でもいいから褒めて欲しい…。

 馬車に乗り込み見送りの園長達が視界から見えなくなると同時に、セシリアがもう我慢できないと言うようにジークフリートの袖を引っ張った。
「どうしてこうも重なるのでしょうか?」
「ん?園長が渡してきた土産のことだろう?私もあれには危うく吹き出すかと思った。危ないところだった…。」
「何か俺が悪いみたいな感じになってない?」
 セシリアは袋から包みを取り出すとその香りを確かめるようにそっと顔を寄せた。前回下見に行った時のお土産はあの後ジークフリートからセシリアに渡ったので、セシリアもまたレジナルドがハーブ入りの甘いものが苦手なのだと知っているのだ。
「これは…バジルの香りがしますけれど、甘い香りはしませんね。」
「ん?そうなのか?」
 ジークフリートはセシリアが持ったままの包みに顔を寄せている──妙に近いがそこはまぁ大目に見てやろう…。
「どうなの?それって香りで分かるもの?」
「言われてみればそうだな、バジルとチーズの香りがする…。」
「バジルにチーズ?いかにもジークが食べてるパンみたいな…。」
「きっとジーク様の好みをお調べになったのですよ、それで甘いものより此方がいいだろうと。」
 ──確かに、気が回る人物ならばそういう所まで調べるものだ。
「そっか、良かった~。じゃあ俺も後で分けてもらえる!」
「レジー様は甘くないクッキーは大丈夫なのですか?ハーブの香りと甘い組み合わせが苦手なのは分かる気がするのですが…。」
「それ!そうなんだよ、甘くないパンケーキとかクッキーは確かに何か違うって思うよね?」
「甘いものだという先入観がありますものね。」
「でもまぁ少しならいけるかな。欲を言えばバジルチーズはパンか、プレッツェルがいいんだけどね。」
「プレッツェル…ですか?初めて聞く名前です。」
「そう?俺とジークは昔から食べてる菓子なんだけど。そうだなぁ、プレッツェルを何かに例えるなら…すんごい硬いパンかな?」
 お菓子談義で盛り上がる甘党二人にそれまでついていけなかったジークフリートが、そこでやっと話に入ってきた。
「そう、確かにあれは硬い。レジーの虫歯が欠けたのはプレッツェルを食べた時だった。」
「…それ、何時の話だよ?」
「さぁ?」
「歯が生え変わる前の話じゃない?よくそんな昔の事思い出したね。あ、さてはリア様と俺の話に入ってこれなくて拗ねてたんでしょ?」
「拗ねてなど…ない。」
 そう言いながら横を向いて顔を背けるジークフリートを見ているとこっちまで恥ずかしくなってくる。なんだ、照れてんじゃん…赤くなっちゃってさ。

 公務からの帰りの為、今日は王宮正面の玄関に馬車が停まる。扉を開けるとそこには既に数人の騎士と侍女が待機していた。レジナルドは表向きの顔をさっと作ると、扉を支えて王太子とその婚約者が降りるのを見守った。手を取り歩き出す二人の表情も先程とは打って変わってどこか余所行きだ。レジナルドはふと自分が手にしていたままの袋に気が付いた。
「失礼、セシリア様、こちらの菓子はいかがいたしましょうか?」
 セシリアは少し驚いたように顔だけこちらへ向けると、袋を見て微笑んだ。
「殿下の執務室へお願い致します。」
 ──一緒に食べようってことだな、了解です。
 レジナルドはにっこりと微笑むと軽くお辞儀をした。
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