騎士様は甘い物に目がない

ゆみ

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甘酸っぱいパウンドケーキ

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 窓辺に寄り、そっと外の様子を伺う。その翡翠色の目には相変わらず雲ひとつない空と誰もいない眩い庭園がうつるだけだ。
「流石にこう天気がいいと誰も外で散歩なんてしないか…」
「なんだ、雨の日にもそんな事言っていなかったか?お前は外ばかり気にして居るようだが…。」
「だってさ、ジークは書類仕事あるだろうけど俺はここで控えてても結構退屈なんだよね。」
「これが終わればここに居る必要もない、もう少し待ってくれ…。」
 ジークフリートは手元の書類に視線を戻すとまた何やら考え込み始めたようだ。
 もう少しならば仕方ないとソファーにどっかりと腰を下ろすと、侍女が丁度お茶を持ってきたようだった。
 今日は…小さいパウンドケーキがお皿に載せられている。
「レジー、先に楽しむといい。」
 相変わらず視線は書類に向けたままだがジークフリートは気を使っってくれたようだ。なんだか悪いことしちゃったかな。
「ありがと、じゃ…遠慮なく。」
 ミントの葉が浮かんでいる冷たいハーブティーを一口飲むとパウンドケーキにフォークを入れる。黄色い何かが見えるからこれはきっと…。
「…」
 うん、予想通りレモンの香りのパウンドケーキだ。ミントのさわやかなハーブティーにレモンのパウンドケーキときたか…。まさに夏の午後にピッタリ!
 チラッとジークフリートを盗み見るとまだ仕事中の様だ。邪魔しない邪魔しない…。もう一口ケーキを食べよっと。
「…」
 結構しっとりしてるけど爽やかで美味しいな~。
「…」
「レジー?」
「?」
 パウンドケーキを半分ほど食べたところでジークフリートが不思議そうにこちらを見て居ることに気が付いた。
「どうした?口に合わないのか?」
「え?」
「いつもならもっと何か言うだろう?」
「あ、いや?そういう訳では…」
「そうなのか?」
「美味しいよ?だけどジークの邪魔しちゃいけないと思ってさ。」
 それを聞いたジークフリートは嬉しそうな顔をしてこちらにやって来ると向かいに座った。
「いや、あれはもう終わった。」
 ジークフリートはそのままパクッとケーキを一口食べる。珍しい事もあるものだとレジナルドが呆然として見ていると視線に気付いたのかわざとらしく顔を顰めるとハーブティーを口にする。
「なんだ、充分に甘いじゃないか?」
「そりゃ、ケーキだし…?」
「レジーが黙っているから甘くないのかと思った。」
 それきりジークフリートはケーキには手をつけようとせず、レジナルドが食べ終わるのを見計らってこちらに差出す。
「ほら、これも…」
「あ、ありがとう。」
「いつも済まないな、待たせてばかりで。」
「ん?」
「お前はもっと外で駆け回りたいんだろう?中でじっとするのは昔から苦手だ。」
「そんな事考えてたの?馬鹿だな、ジークのそばに居るのが俺の仕事だよ?」
「それは分かっている。だがまぁこれは幼馴染としての正直な思いだな…。」
「もう子供じゃないからな、お互い。」
「そういう事だ。そういえば知っているか?普通王太子に付いている騎士は一緒に座って菓子を食べたりしないそうだ。」
「…」
「お前はずっとそのままでいい、私が許す。」
「ジーク…」
 ──俺は一生貴方について行きます!
 レモンの香りのパウンドケーキは妙に甘酸っぱい味がした。
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