騎士様は甘い物に目がない

ゆみ

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忘却のキャンディー

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 回廊を鬼のような形相でしかし静静とこちらに迫る人が見えた…。その手に持つ扇子が微かに震えているような…。
「あ、しまった!」
「レジー、また何かやらかしたのか?」
「その…やらかさなかったからきっと怒ってるというか…なんと言うか…」
 ここは素直にこちらから頭を下げるべきだろう…。
「レジー!」
「はいっ!ご、ごめんなさい!」
「忘れていたとは言わせないわよ?」
「姉上、少し落ち着いて下さい!」
 いきなり怒鳴りつけるリーナに対し、取り敢えずジークフリートが間に入ってくれる。
「忘れてはなかったけど、ここの所ちょっとバタついてて…。」
「庭園でお茶を飲める時間があれば十分でしょう?」
「姉上、レジーは私に仕えているのですからまずは私にも分かるように説明して下さい!」
「街の菓子屋に連れ出してくれるよう頼んだのにいつまでたっても連絡を寄越さないのよ!」
「…姉上?」
「何か?」
「それはレジーには出来ません。」
「どうして?」
「私が許可しないからです。」
 リーナは眉を顰めると改めてジークフリートを見上げた。
「許可しない?」
「はい」
「…」
「レジーが守るべきは姉上でなく私なので…。」
「だったらジークからレジーに一言言ってくれたら良いじゃない?」
 ジークフリートは小さく否定するように首を横に振った。
「あ、リーナ様、出来るだけ早く俺があのキャンディー買ってきますから…。」
 リーナはまだ何か言いたい事がある様だったが、ジークフリートを睨みつけるとそのまま返事もせずにツンとそっぽを向き去って行った。
「…ごめん、ジーク。」
「いや…。」
「かなり怒ってたな…」
「……何故私に何も言わなかった?」
「それは…」
「断りきれなかったのだろう?」
 返事を聞かずに逃げ去るリーナの後ろ姿が目に浮かんだ。きっとジークフリートも同じ様にそれを思い浮かべているのだろう。
「お前は優しすぎるんだよ。姉上はまだお前が──」
「あのさ、ジークも一緒に菓子屋に行かない?侍女たちにも人気がある新しい店なんだって。リア様に何か買ってあげるといいよ!」
 分かっている。分かっていてもどうしようもない事が最近多すぎて…。そういう面倒な記憶だけを消せるキャンディーとか、売ってない…よね?
「菓子屋か…。」
「そう、1人じゃ俺でも入りにくいし…。お願いします!」
「どんな店なんだ?私が行っても本当に大丈夫なのか?」
「王太子殿下は何しても何処行っても問題ないでしょ!」
「…」
「よし、じゃ早速今から行こう!」
「レジー、ひょっとして本当に忘れていただけなのか?」
「──よし、急いで行こう!」
「レジナルド…」
「だからもういいだろ?ほら行くぞ!」
 誰でもいいからお願い!急いで作ってください、そんでもってジークの口に一つか二つ入れて!
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