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甘いものにはブラックコーヒー
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リリーが目を見開いたまま後退りし、扉近くの家具にぶつかったのも気にせずに部屋を出ていったのを確認するとダニエルはようやく凛花の頬から手を離した。
「今のは途中で入ってきた方が悪い。それともあの距離で見つめあったまま出て行くのを待った方が良かった?」
「……」
凛花は慌ててダニエルから離れると無言で机に置かれたコーヒーに手をやった。
「冷たい…。」
「氷を沢山入れるんだろ?これで合ってる?」
ダニエルも笑いを堪えながらコーヒーに手を伸ばすとそのまま少し口をつけた。
「…うん、冷たいのもいいな。」
「久しぶりだ、コーヒー。」
凛花が美味しそうにコーヒーを飲むのをダニエルはまじまじと見つめていた。
「美味しい…」
「本当に飲んだ…。」
「え?」
凛花がコーヒーを持ったままダニエルの方を見ると、腕を組んで嬉しそうに笑ってこちらを見ていた。
「信じてなかった訳じゃないよ?でも、凛花は普通の女の子とはちょっと違うから一緒にいても飽きない。」
凛花はコーヒーを机に戻すとソファーからクッションを引き寄せ抱き締めた。
「そういえば、あの伯爵家の騎士。あの人にも変わった女だって言われた。」
「伯爵家の騎士?君をさらったエミール?」
「うん、その人。」
「あいつ…」
ダニエルは何かを思い出したかのように拳をぐっと握りしめると凛花の抱き締めたクッションを見ながら黙り込んでしまった。
──何か思い出させちゃったみたい…。今名前を出したのは不味かったかな…。
凛花は少しだけ反省をすると黙り込んでしまったダニエルを気にしながらじっとしていた。
「凛花…?」
「ん?」
ようやく顔を上げたダニエルは、何か思い詰めた様子で凛花の方に向き直った。
「エミールにあの日何をされた?」
「え?あの日?」
「馬車から連れ去られてから俺たちが凛花を見つけるまで。」
──え~っと…。何だったかな…。
「馬に乗せられてそのまま商店街を抜けて邸に連れて行かれた…だけだよ?」
「ただ馬に乗っていただけじゃないだろう?随分親密そうにしていたと聞いてるけど?」
凛花は目が点になるとは正にこの事だろうかと考えていた。
──何?ダニエルヤキモチ妬いてるの?
「エミールが勝手に抱きついてきただけで…。親密そうになんてしてないと思うよ?」
「本当にそれだけ?俺が駆けつけた時だって顔がすごく近くまで来てたよ?」
「違う!キスはしてないよ?」
「ただ抱き締められただけ?」
「……その…あっちが勝手にくっついてきて…。」
「……」
ダニエルは再び凛花から視線を逸らすと拳を強く握りしめた。
「ヤキモチ妬いてるの?」
「……」
「うっ……ダニエル可愛い。」
「は?可愛い?」
目を丸くしたダニエルが思わず凛花を二度見した。
「ごめん!心の声が思わず出ちゃった。」
「心の声?」
「……そう。知らない方が良かった?」
「いや、別にそういう訳では…。」
「そういう風にダニエルが私にだけ素直な感情を見せてくれるの、嬉しいよ?」
「……それは、まぁ。凛花には何も隠し事はしないと言ったし。エミールとの噂がどこまで本当なのかは気になっていたから…。」
「噂?騎士団の?それとも街の?」
「…街の…かな。騎士団の噂は作られたものだろうからそんなに気にはならないけれど。街の噂では君はエミールに抱き寄せられて熱烈に……キスをされていたと……。」
「だからそれは誤解だって!首筋にちょっと唇が触れたくらいはあったかもしれないけど…。」
「へぇ…。」
ダニエルは目を細めると凛花の首辺りを鋭く睨んだ。
「あ!それなら私も気になることあったんだ!」
凛花は何となくダニエルが睨んでいる首の辺りを手で擦りながら、話題を逸らした。
「フィルがいつか言ってたよ?アオイとダニエルの間に何があったのか気にならないのかって。こうやって唇に触りながら…。」
言いながら凛花は自分の唇をいつかフィリップがしていたのと同じように触りながらダニエルを見た。
「……フィルがそんな事を?」
ダニエルは凛花の唇をじっと見つめたまま小さな声で呟いた。
凛花は唇から指を離すと小さく頷いた。
「キス、したの?」
「こっちは気を使って遠回しに聞いたのに凛花は随分ストレートに聞いてくるんだな?」
「……」
ダニエルはいきなり凛花を抱き寄せると髪をかきあげて首元にわざと音をたててキスをした。
──うわ、不味い!私襲われてる!?
「今のはただちょっと首筋に唇があたっただけだよ?キスなんかしてない、エミールと一緒だ。」
「そ、それは違うでしょ?」
「どうして?」
凛花はアワアワとしながら考えを巡らせていたがなかなかいい答えが見つからなかった。
「だって、ダニエルにこんな事されたらドキドキしちゃって…。」
「エミールの時はどうだった?」
「あの時は……ただ気持ち悪くて嫌だったから…。」
ダニエルはようやく満足そうにニッコリと笑うと凛花から手を離した。
「俺と同じ。他の誰かと何かあったとしても嫌悪感しかない。」
「……」
「まだアオイと俺の間に何があったのか知りたい?」
「…もういいよ…意地悪。」
「凛花になら何言われても…可愛いから許す。」
「か、可愛い…」
「心の声が思わず出ちゃったみたいだ。」
ダニエルは勝ち誇ったように凛花を見つめたまま冷えたコーヒーをゆっくりと飲んでみせた。
「今のは途中で入ってきた方が悪い。それともあの距離で見つめあったまま出て行くのを待った方が良かった?」
「……」
凛花は慌ててダニエルから離れると無言で机に置かれたコーヒーに手をやった。
「冷たい…。」
「氷を沢山入れるんだろ?これで合ってる?」
ダニエルも笑いを堪えながらコーヒーに手を伸ばすとそのまま少し口をつけた。
「…うん、冷たいのもいいな。」
「久しぶりだ、コーヒー。」
凛花が美味しそうにコーヒーを飲むのをダニエルはまじまじと見つめていた。
「美味しい…」
「本当に飲んだ…。」
「え?」
凛花がコーヒーを持ったままダニエルの方を見ると、腕を組んで嬉しそうに笑ってこちらを見ていた。
「信じてなかった訳じゃないよ?でも、凛花は普通の女の子とはちょっと違うから一緒にいても飽きない。」
凛花はコーヒーを机に戻すとソファーからクッションを引き寄せ抱き締めた。
「そういえば、あの伯爵家の騎士。あの人にも変わった女だって言われた。」
「伯爵家の騎士?君をさらったエミール?」
「うん、その人。」
「あいつ…」
ダニエルは何かを思い出したかのように拳をぐっと握りしめると凛花の抱き締めたクッションを見ながら黙り込んでしまった。
──何か思い出させちゃったみたい…。今名前を出したのは不味かったかな…。
凛花は少しだけ反省をすると黙り込んでしまったダニエルを気にしながらじっとしていた。
「凛花…?」
「ん?」
ようやく顔を上げたダニエルは、何か思い詰めた様子で凛花の方に向き直った。
「エミールにあの日何をされた?」
「え?あの日?」
「馬車から連れ去られてから俺たちが凛花を見つけるまで。」
──え~っと…。何だったかな…。
「馬に乗せられてそのまま商店街を抜けて邸に連れて行かれた…だけだよ?」
「ただ馬に乗っていただけじゃないだろう?随分親密そうにしていたと聞いてるけど?」
凛花は目が点になるとは正にこの事だろうかと考えていた。
──何?ダニエルヤキモチ妬いてるの?
「エミールが勝手に抱きついてきただけで…。親密そうになんてしてないと思うよ?」
「本当にそれだけ?俺が駆けつけた時だって顔がすごく近くまで来てたよ?」
「違う!キスはしてないよ?」
「ただ抱き締められただけ?」
「……その…あっちが勝手にくっついてきて…。」
「……」
ダニエルは再び凛花から視線を逸らすと拳を強く握りしめた。
「ヤキモチ妬いてるの?」
「……」
「うっ……ダニエル可愛い。」
「は?可愛い?」
目を丸くしたダニエルが思わず凛花を二度見した。
「ごめん!心の声が思わず出ちゃった。」
「心の声?」
「……そう。知らない方が良かった?」
「いや、別にそういう訳では…。」
「そういう風にダニエルが私にだけ素直な感情を見せてくれるの、嬉しいよ?」
「……それは、まぁ。凛花には何も隠し事はしないと言ったし。エミールとの噂がどこまで本当なのかは気になっていたから…。」
「噂?騎士団の?それとも街の?」
「…街の…かな。騎士団の噂は作られたものだろうからそんなに気にはならないけれど。街の噂では君はエミールに抱き寄せられて熱烈に……キスをされていたと……。」
「だからそれは誤解だって!首筋にちょっと唇が触れたくらいはあったかもしれないけど…。」
「へぇ…。」
ダニエルは目を細めると凛花の首辺りを鋭く睨んだ。
「あ!それなら私も気になることあったんだ!」
凛花は何となくダニエルが睨んでいる首の辺りを手で擦りながら、話題を逸らした。
「フィルがいつか言ってたよ?アオイとダニエルの間に何があったのか気にならないのかって。こうやって唇に触りながら…。」
言いながら凛花は自分の唇をいつかフィリップがしていたのと同じように触りながらダニエルを見た。
「……フィルがそんな事を?」
ダニエルは凛花の唇をじっと見つめたまま小さな声で呟いた。
凛花は唇から指を離すと小さく頷いた。
「キス、したの?」
「こっちは気を使って遠回しに聞いたのに凛花は随分ストレートに聞いてくるんだな?」
「……」
ダニエルはいきなり凛花を抱き寄せると髪をかきあげて首元にわざと音をたててキスをした。
──うわ、不味い!私襲われてる!?
「今のはただちょっと首筋に唇があたっただけだよ?キスなんかしてない、エミールと一緒だ。」
「そ、それは違うでしょ?」
「どうして?」
凛花はアワアワとしながら考えを巡らせていたがなかなかいい答えが見つからなかった。
「だって、ダニエルにこんな事されたらドキドキしちゃって…。」
「エミールの時はどうだった?」
「あの時は……ただ気持ち悪くて嫌だったから…。」
ダニエルはようやく満足そうにニッコリと笑うと凛花から手を離した。
「俺と同じ。他の誰かと何かあったとしても嫌悪感しかない。」
「……」
「まだアオイと俺の間に何があったのか知りたい?」
「…もういいよ…意地悪。」
「凛花になら何言われても…可愛いから許す。」
「か、可愛い…」
「心の声が思わず出ちゃったみたいだ。」
ダニエルは勝ち誇ったように凛花を見つめたまま冷えたコーヒーをゆっくりと飲んでみせた。
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