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過去と噂
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「ねぇ、リリー?どうしてだと思う?」
「さぁ…私にはよく分かりませんが。でも残念でしたね。」
「会うのがダメだなんて…」
凛花は盛大にため息をつくと机の上に突っ伏した。先日やっと自分のやりたい事が見つかったと思ったら早くも壁にぶち当たってしまったからだ。しかもその壁──ダニエルは簡単には崩せそうもない。
『俺にも商人に心当たりはあるけど、凛花だけを会わせる訳にはいかない』
凛花は机の上で顔を横に向けるとリリーに尋ねた。
「リリーは商人によく会ってるんだよね?どんな人なの?」
凛花の想像の中の商人は小太りでジャラジャラとした指輪を身につけた成金おじさんだが…。本当にそんな商人が貴族の屋敷を渡り歩いて商談をしている訳ではないだろう。
「侯爵家に来られる方はダニエル様の学園の先輩だった方ですよ?確か一つ上でしたか。それがとってもお話が上手な方で……」
「え?学園の先輩なの?おじさんじゃなくて?」
「…はい?あぁ、お父様は確か国外をあちこち飛び回っておられるかと。」
「なるほど…大商人の跡継ぎってことね。それはさぞかし──」
「はい、『イケメン』ですよ。」
──きっとアオイの……。
リリーは最近では凛花の使う言葉を少しずつ覚えてきたようで会話の中でも使うようになってきている。日本での記憶がある事など多くの事はまだ秘密にしているが、これだけ毎日一緒に過ごしていればそれがバレるのも時間の問題のような気がしていた。
「ダニエル様がリンカ様を会わせたくないのはひょっとしてそのせいかもしれませんね。」
「…イケメンだから?まさか!」
「もしくはリンカ様の事をニックさんが好きになっては困るとか?」
「ニックっていうの?その商人は?」
「はい。年上ですけれど人懐っこい方ですよ。」
リリーはどこか凛花に自慢をする様にニックの事を話し出した。
「へぇ~。そうなんだ?」
「明るめの茶色の長い髪をいつも一つに結んでらして、瞳は緑でしたか…。」
「茶髪って一般的なの?」
「そうですね、金髪や茶髪はよく見かけますね。それにひきかえピンクは珍しいですよ?何時だったかここにいらしたご令嬢がそうでしたけど。私はピンク色の髪を見たのはあれが初めてでしたね。」
「ピンクの髪のご令嬢──ここに来たのね…。」
リリーは慌てて手を激しく振って否定した。
「違うんですよ?ほら、この間のカテリーナ殿下みたいな感じで、私たちがダニエル様はおられないと言っているのに邸の中まで押しかけていらしたんです。」
──アオイがダニエルが留守なのを分かっていてわざわざ邸の中まで?
「そうだったの。その…今までもそういう女の人ってよく来たりしてたの?ダニエルを訪ねて。」
「私が知っているのは月に4、5回でしょうか?ダニエル様はそれがお嫌で騎士団の宿舎に移られることになったと聞いておりますけれど。」
「一週間に一回…、結構凄いね。そうだったんだ…。」
──私、ダニエルの事何も知らない…。私にだって付き合った相手がいたくらいなんだから、それだけモテてるダニエルだったら……。
「その…リリーはここに来て長いの?」
「侯爵家に来てからですか?私の母はここの使用人で、父は料理人をしておりますから、言ってみれば子供の頃から侯爵家にいることになりますが?」
「あっ…そうだったのね。じゃあダニエルの昔の恋人の話とか……その……」
リリーは赤くなって口ごもる凛花を見ながらいたずらっぽく笑った。
「気になりますよね?」
「…うん。」
「お邸に押しかけて来られる女性は何人かおられましたが、ダニエル様が特定の女性を伴っておられる所を私は今まで見た事がありませんでしたので、ご心配になるような事は何もないかと…。」
「それ、本当?私にだからそう言っているんじゃない?」
リリーはもう一度意味ありげに微笑むと、しっかりと凛花の目を見て否定した。
「ダニエル様にはお聞きにならないのですか?」
「そ、そんなの本人に聞いても否定されるに決まってるもん。だから、他の人の意見も聞いてみただけで…。いいのよ、その、ちょっと気になっただけだから。」
「リンカ様?」
「……はい。」
リリーは部屋の入口の方にチラリと視線を向けた後で声を一段と潜めながら凛花に話を続けた。
「ここだけの話ですが…。」
「?」
リリーのいつに無く真面目な様子に凛花は思わず姿勢を正し息を飲んだ。
「実は以前ダニエル様にはある噂があったんです。」
「う、噂?」
凛花は何となくこの話を聞かない方がいいような気もしながら、ここまできて話すなとも言えず戸惑いを見せた。
「…ダニエル様は女性には興味がないのではないかと。」
「は?」
「ですから、ダニエル様が常に特定の男性と一緒に居られるもので…。」
「特定の男性って、まさか……」
「はい。王太子殿下です。王太子様もダニエル様ももう20歳になられたと言うのに未だに婚約しておられませんので。」
「あ~。…でも、それはないわね。」
「今はリンカ様がおられますからそうだったんだと皆が安堵しておりますが…。ほら、この部屋の鍵をダニエル様に渡したのは私だと以前申し上げましたよね?」
「あぁ…。あれね。」
「そういう噂があったからリンカ様がお越しになった時にすぐに執事から指示されたんです。ダニエル様には是非ともこのご縁を結んでもらわなければならないと……。」
「縁結び……」
──なんだかやっぱりいつか私が感じてたの、当たってた気がする。ダニエルってばいろんな所から外堀埋められてたんだわ…。
「さぁ…私にはよく分かりませんが。でも残念でしたね。」
「会うのがダメだなんて…」
凛花は盛大にため息をつくと机の上に突っ伏した。先日やっと自分のやりたい事が見つかったと思ったら早くも壁にぶち当たってしまったからだ。しかもその壁──ダニエルは簡単には崩せそうもない。
『俺にも商人に心当たりはあるけど、凛花だけを会わせる訳にはいかない』
凛花は机の上で顔を横に向けるとリリーに尋ねた。
「リリーは商人によく会ってるんだよね?どんな人なの?」
凛花の想像の中の商人は小太りでジャラジャラとした指輪を身につけた成金おじさんだが…。本当にそんな商人が貴族の屋敷を渡り歩いて商談をしている訳ではないだろう。
「侯爵家に来られる方はダニエル様の学園の先輩だった方ですよ?確か一つ上でしたか。それがとってもお話が上手な方で……」
「え?学園の先輩なの?おじさんじゃなくて?」
「…はい?あぁ、お父様は確か国外をあちこち飛び回っておられるかと。」
「なるほど…大商人の跡継ぎってことね。それはさぞかし──」
「はい、『イケメン』ですよ。」
──きっとアオイの……。
リリーは最近では凛花の使う言葉を少しずつ覚えてきたようで会話の中でも使うようになってきている。日本での記憶がある事など多くの事はまだ秘密にしているが、これだけ毎日一緒に過ごしていればそれがバレるのも時間の問題のような気がしていた。
「ダニエル様がリンカ様を会わせたくないのはひょっとしてそのせいかもしれませんね。」
「…イケメンだから?まさか!」
「もしくはリンカ様の事をニックさんが好きになっては困るとか?」
「ニックっていうの?その商人は?」
「はい。年上ですけれど人懐っこい方ですよ。」
リリーはどこか凛花に自慢をする様にニックの事を話し出した。
「へぇ~。そうなんだ?」
「明るめの茶色の長い髪をいつも一つに結んでらして、瞳は緑でしたか…。」
「茶髪って一般的なの?」
「そうですね、金髪や茶髪はよく見かけますね。それにひきかえピンクは珍しいですよ?何時だったかここにいらしたご令嬢がそうでしたけど。私はピンク色の髪を見たのはあれが初めてでしたね。」
「ピンクの髪のご令嬢──ここに来たのね…。」
リリーは慌てて手を激しく振って否定した。
「違うんですよ?ほら、この間のカテリーナ殿下みたいな感じで、私たちがダニエル様はおられないと言っているのに邸の中まで押しかけていらしたんです。」
──アオイがダニエルが留守なのを分かっていてわざわざ邸の中まで?
「そうだったの。その…今までもそういう女の人ってよく来たりしてたの?ダニエルを訪ねて。」
「私が知っているのは月に4、5回でしょうか?ダニエル様はそれがお嫌で騎士団の宿舎に移られることになったと聞いておりますけれど。」
「一週間に一回…、結構凄いね。そうだったんだ…。」
──私、ダニエルの事何も知らない…。私にだって付き合った相手がいたくらいなんだから、それだけモテてるダニエルだったら……。
「その…リリーはここに来て長いの?」
「侯爵家に来てからですか?私の母はここの使用人で、父は料理人をしておりますから、言ってみれば子供の頃から侯爵家にいることになりますが?」
「あっ…そうだったのね。じゃあダニエルの昔の恋人の話とか……その……」
リリーは赤くなって口ごもる凛花を見ながらいたずらっぽく笑った。
「気になりますよね?」
「…うん。」
「お邸に押しかけて来られる女性は何人かおられましたが、ダニエル様が特定の女性を伴っておられる所を私は今まで見た事がありませんでしたので、ご心配になるような事は何もないかと…。」
「それ、本当?私にだからそう言っているんじゃない?」
リリーはもう一度意味ありげに微笑むと、しっかりと凛花の目を見て否定した。
「ダニエル様にはお聞きにならないのですか?」
「そ、そんなの本人に聞いても否定されるに決まってるもん。だから、他の人の意見も聞いてみただけで…。いいのよ、その、ちょっと気になっただけだから。」
「リンカ様?」
「……はい。」
リリーは部屋の入口の方にチラリと視線を向けた後で声を一段と潜めながら凛花に話を続けた。
「ここだけの話ですが…。」
「?」
リリーのいつに無く真面目な様子に凛花は思わず姿勢を正し息を飲んだ。
「実は以前ダニエル様にはある噂があったんです。」
「う、噂?」
凛花は何となくこの話を聞かない方がいいような気もしながら、ここまできて話すなとも言えず戸惑いを見せた。
「…ダニエル様は女性には興味がないのではないかと。」
「は?」
「ですから、ダニエル様が常に特定の男性と一緒に居られるもので…。」
「特定の男性って、まさか……」
「はい。王太子殿下です。王太子様もダニエル様ももう20歳になられたと言うのに未だに婚約しておられませんので。」
「あ~。…でも、それはないわね。」
「今はリンカ様がおられますからそうだったんだと皆が安堵しておりますが…。ほら、この部屋の鍵をダニエル様に渡したのは私だと以前申し上げましたよね?」
「あぁ…。あれね。」
「そういう噂があったからリンカ様がお越しになった時にすぐに執事から指示されたんです。ダニエル様には是非ともこのご縁を結んでもらわなければならないと……。」
「縁結び……」
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