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屋根裏部屋の密会
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「ねぇ、紙とペンちょうだい?」
「手紙でも書くのか?そんなことしても無駄だ。」
「違うし。第一私この国の言葉書けないから。手紙書いても誰も読めないわ。」
「……それは、どうして?」
「いやこっちが聞きたいし。とにかくすることなくて暇なんだからいいでしょ?」
「……」
凛花がエミールによって連れてこられたのは最上階の屋根裏部屋のような所だった。小さな窓もあるし一通りの家具もあらかじめ揃えられており、監禁部屋にしては居心地が良さそうだ。
「セリーナ夫人が呼んでるって嘘だったのね。この事、夫人は知らないの?」
「……うるさい。」
「何よ、子供みたいに都合が悪くなると怒るんだから。私より年上よね?ダニエルと同い年くらい?」
「副団長より2歳上だ…ってそんな事より、お前本当に副団長の婚約者だよな?」
凛花は改めてエミールをしげしげと見つめた。強引に馬車から引きずり降ろされた時は慌てていたせいか気が付かなかったがこうして普通に話をしているとエミールは随分幼い印象だ。
「……そう、みたい。」
「副団長の趣味も変わってるな。」
「余計なお世話よ。」
「……」
「で?あなたは仕事に戻らなくていいの?」
凛花の問いかけにエミールは初めて戸惑う様子を見せた。
「これも仕事だから。」
──第一騎士団の仕事が私の拉致?…まさかカテリーナ殿下まだダニエルの事あきらめてなかったの?
「もしかして、カテリーナ殿下?」
「……」
「私の事殺せとか言われてないよね?」
「そ、それはさすがにない!ただ一晩部屋に籠っとけばいいだけだ。」
「一晩?」
凛花はまだ明るい窓の外を見た。夕方にもなっていないではないか…。
「街でお前とイチャイチャしてるところを印象付けておいて、馬で邸に駆け込みそのまま部屋に連れ込んで一晩出て来ない──そういうことだよ。」
「どういうことよ?」
「……」
「手出さないでよ?私イヤだからね?」
「なっ!そんな事分かってる!っていうか嫌がるからこそこういう嫌がらせする意味があるんだろう?自分の立場分かってるのか?」
「……正直、よく分からない。」
凛花は大きくため息をつくとソファーにあるクッションに倒れこんだ。エミールは驚いた様子で凛花を見ている。
「私がダニエルと婚約したからなの?婚約者がいるのに他の男と一緒に一晩過ごしたから婚約破棄されるの?もうなんかいろいろ考えるの疲れちゃった…。」
クッションをぎゅっと抱き締めると目を閉じて思考を停止する。
「お家に帰りたい…。」
──家に帰っておやつ片手にスマホでくだらない動画見て寝落ちしたい……。何も考えなくていいあの場所に戻りたい。
「……そのうち帰してやるよ。」
「……」
「お前、何で今更泣いてんだよ?」
──違う。私の帰りたい場所はここにはない。私の居場所、ここじゃない。
「あんたになんか分かんない!」
「当たり前だろ?他人なんだから。」
「じゃ、放っといて?」
「……何だか分かんないのにいきなり泣き出す女なんか放っとけるかよ?」
「……」
エミールの言葉を聞いた凛花はクッションからむくっと起き上がった。
「……今度は何だよ?」
「それ、騎士団の教えか何か?」
「は?」
「泣いてる女は放っておいたらダメ…とかいうの。」
「いや……ほんっとお前意味分かんないな。」
「だって、ダニエルにも同じ事言われた……。」
エミールはポカンとして凛花を見ている。
「放っとけないって。」
「惚気かよ……。」
「何それ…。あんただってさっきそう言ったじゃん。」
「それは…。お前がいきなり怒ったり泣いたりするせいだろ?」
「情緒不安定だって言いたいの?」
エミールはふと笑うと腕を頭の後ろで組んで上を向いた。
「やっぱ変な女。でも副団長──」
上を向きながら話していたエミールめがけて凛花は手元にあったクッションを目一杯投げつけ、そのまま部屋の扉まで駆け寄るとノブに手を伸ばす──。
「残念だったな。鍵はちゃんと掛けてあるよ。」
扉の内鍵とは別に金色の錠前がかかっているのが凛花の目に入った。ノブに手を掛けたままの凛花の背後にエミールが静かに近寄る気配を感じる。
──いつの間にこんな鍵…。
「気が変わった。まだ夜は長いし、付き合えよ。」
そう言うなりエミールは背後から凛花を抱きしめると顔を寄せて来る。
「ちょっと!やめて!」
──やばい、エミールのやつ結構ちょろいと思って油断しちゃった。どうしよう、こういう時はきっと展開的に……。
凛花はエミールの手を解こうともがきながらも、階下に誰かが駆け付けた物音がしないかと耳をそばだてていた。
「待ってるの?副団長の助け。」
エミールの手を振りほどいたものの、今度は扉に押し付けられる形で向かい合った二人の顔が近付く。咄嗟に横を向いた凛花の頬にエミールの息がかかる。
「可愛い、リンカ。」
「手紙でも書くのか?そんなことしても無駄だ。」
「違うし。第一私この国の言葉書けないから。手紙書いても誰も読めないわ。」
「……それは、どうして?」
「いやこっちが聞きたいし。とにかくすることなくて暇なんだからいいでしょ?」
「……」
凛花がエミールによって連れてこられたのは最上階の屋根裏部屋のような所だった。小さな窓もあるし一通りの家具もあらかじめ揃えられており、監禁部屋にしては居心地が良さそうだ。
「セリーナ夫人が呼んでるって嘘だったのね。この事、夫人は知らないの?」
「……うるさい。」
「何よ、子供みたいに都合が悪くなると怒るんだから。私より年上よね?ダニエルと同い年くらい?」
「副団長より2歳上だ…ってそんな事より、お前本当に副団長の婚約者だよな?」
凛花は改めてエミールをしげしげと見つめた。強引に馬車から引きずり降ろされた時は慌てていたせいか気が付かなかったがこうして普通に話をしているとエミールは随分幼い印象だ。
「……そう、みたい。」
「副団長の趣味も変わってるな。」
「余計なお世話よ。」
「……」
「で?あなたは仕事に戻らなくていいの?」
凛花の問いかけにエミールは初めて戸惑う様子を見せた。
「これも仕事だから。」
──第一騎士団の仕事が私の拉致?…まさかカテリーナ殿下まだダニエルの事あきらめてなかったの?
「もしかして、カテリーナ殿下?」
「……」
「私の事殺せとか言われてないよね?」
「そ、それはさすがにない!ただ一晩部屋に籠っとけばいいだけだ。」
「一晩?」
凛花はまだ明るい窓の外を見た。夕方にもなっていないではないか…。
「街でお前とイチャイチャしてるところを印象付けておいて、馬で邸に駆け込みそのまま部屋に連れ込んで一晩出て来ない──そういうことだよ。」
「どういうことよ?」
「……」
「手出さないでよ?私イヤだからね?」
「なっ!そんな事分かってる!っていうか嫌がるからこそこういう嫌がらせする意味があるんだろう?自分の立場分かってるのか?」
「……正直、よく分からない。」
凛花は大きくため息をつくとソファーにあるクッションに倒れこんだ。エミールは驚いた様子で凛花を見ている。
「私がダニエルと婚約したからなの?婚約者がいるのに他の男と一緒に一晩過ごしたから婚約破棄されるの?もうなんかいろいろ考えるの疲れちゃった…。」
クッションをぎゅっと抱き締めると目を閉じて思考を停止する。
「お家に帰りたい…。」
──家に帰っておやつ片手にスマホでくだらない動画見て寝落ちしたい……。何も考えなくていいあの場所に戻りたい。
「……そのうち帰してやるよ。」
「……」
「お前、何で今更泣いてんだよ?」
──違う。私の帰りたい場所はここにはない。私の居場所、ここじゃない。
「あんたになんか分かんない!」
「当たり前だろ?他人なんだから。」
「じゃ、放っといて?」
「……何だか分かんないのにいきなり泣き出す女なんか放っとけるかよ?」
「……」
エミールの言葉を聞いた凛花はクッションからむくっと起き上がった。
「……今度は何だよ?」
「それ、騎士団の教えか何か?」
「は?」
「泣いてる女は放っておいたらダメ…とかいうの。」
「いや……ほんっとお前意味分かんないな。」
「だって、ダニエルにも同じ事言われた……。」
エミールはポカンとして凛花を見ている。
「放っとけないって。」
「惚気かよ……。」
「何それ…。あんただってさっきそう言ったじゃん。」
「それは…。お前がいきなり怒ったり泣いたりするせいだろ?」
「情緒不安定だって言いたいの?」
エミールはふと笑うと腕を頭の後ろで組んで上を向いた。
「やっぱ変な女。でも副団長──」
上を向きながら話していたエミールめがけて凛花は手元にあったクッションを目一杯投げつけ、そのまま部屋の扉まで駆け寄るとノブに手を伸ばす──。
「残念だったな。鍵はちゃんと掛けてあるよ。」
扉の内鍵とは別に金色の錠前がかかっているのが凛花の目に入った。ノブに手を掛けたままの凛花の背後にエミールが静かに近寄る気配を感じる。
──いつの間にこんな鍵…。
「気が変わった。まだ夜は長いし、付き合えよ。」
そう言うなりエミールは背後から凛花を抱きしめると顔を寄せて来る。
「ちょっと!やめて!」
──やばい、エミールのやつ結構ちょろいと思って油断しちゃった。どうしよう、こういう時はきっと展開的に……。
凛花はエミールの手を解こうともがきながらも、階下に誰かが駆け付けた物音がしないかと耳をそばだてていた。
「待ってるの?副団長の助け。」
エミールの手を振りほどいたものの、今度は扉に押し付けられる形で向かい合った二人の顔が近付く。咄嗟に横を向いた凛花の頬にエミールの息がかかる。
「可愛い、リンカ。」
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