異世界転移って?とりあえず設定を教えて下さい

ゆみ

文字の大きさ
上 下
29 / 45
4

屋根裏部屋の密会

しおりを挟む
「ねぇ、紙とペンちょうだい?」
「手紙でも書くのか?そんなことしても無駄だ。」
「違うし。第一私この国の言葉書けないから。手紙書いても誰も読めないわ。」
「……それは、どうして?」
「いやこっちが聞きたいし。とにかくすることなくて暇なんだからいいでしょ?」
「……」

 凛花がエミールによって連れてこられたのは最上階の屋根裏部屋のような所だった。小さな窓もあるし一通りの家具もあらかじめ揃えられており、監禁部屋にしては居心地が良さそうだ。
「セリーナ夫人が呼んでるって嘘だったのね。この事、夫人は知らないの?」
「……うるさい。」
「何よ、子供みたいに都合が悪くなると怒るんだから。私より年上よね?ダニエルと同い年くらい?」
「副団長より2歳上だ…ってそんな事より、お前本当に副団長の婚約者だよな?」

 凛花は改めてエミールをしげしげと見つめた。強引に馬車から引きずり降ろされた時は慌てていたせいか気が付かなかったがこうして普通に話をしているとエミールは随分幼い印象だ。

「……そう、みたい。」
「副団長の趣味も変わってるな。」
「余計なお世話よ。」
「……」
「で?あなたは仕事に戻らなくていいの?」

 凛花の問いかけにエミールは初めて戸惑う様子を見せた。

「これも仕事だから。」

──第一騎士団の仕事が私の拉致?…まさかカテリーナ殿下まだダニエルの事あきらめてなかったの?

「もしかして、カテリーナ殿下?」
「……」
「私の事殺せとか言われてないよね?」
「そ、それはさすがにない!ただ一晩部屋に籠っとけばいいだけだ。」
「一晩?」
 凛花はまだ明るい窓の外を見た。夕方にもなっていないではないか…。
「街でお前とイチャイチャしてるところを印象付けておいて、馬で邸に駆け込みそのまま部屋に連れ込んで一晩出て来ない──そういうことだよ。」
「どういうことよ?」
「……」
「手出さないでよ?私イヤだからね?」
「なっ!そんな事分かってる!っていうか嫌がるからこそこういう嫌がらせする意味があるんだろう?自分の立場分かってるのか?」
「……正直、よく分からない。」

 凛花は大きくため息をつくとソファーにあるクッションに倒れこんだ。エミールは驚いた様子で凛花を見ている。

「私がダニエルと婚約したからなの?婚約者がいるのに他の男と一緒に一晩過ごしたから婚約破棄されるの?もうなんかいろいろ考えるの疲れちゃった…。」
 クッションをぎゅっと抱き締めると目を閉じて思考を停止する。

「お家に帰りたい…。」

──家に帰っておやつ片手にスマホでくだらない動画見て寝落ちしたい……。何も考えなくていいあの場所に戻りたい。

「……そのうち帰してやるよ。」
「……」
「お前、何で今更泣いてんだよ?」

──違う。私の帰りたい場所はここにはない。私の居場所、ここじゃない。

「あんたになんか分かんない!」
「当たり前だろ?他人なんだから。」
「じゃ、放っといて?」
「……何だか分かんないのにいきなり泣き出す女なんか放っとけるかよ?」
「……」

 エミールの言葉を聞いた凛花はクッションからむくっと起き上がった。

「……今度は何だよ?」
「それ、騎士団の教えか何か?」
「は?」
「泣いてる女は放っておいたらダメ…とかいうの。」
「いや……ほんっとお前意味分かんないな。」
「だって、ダニエルにも同じ事言われた……。」
 エミールはポカンとして凛花を見ている。
「放っとけないって。」
「惚気かよ……。」
「何それ…。あんただってさっきそう言ったじゃん。」
「それは…。お前がいきなり怒ったり泣いたりするせいだろ?」
「情緒不安定だって言いたいの?」
 エミールはふと笑うと腕を頭の後ろで組んで上を向いた。
「やっぱ変な女。でも副団長──」
 上を向きながら話していたエミールめがけて凛花は手元にあったクッションを目一杯投げつけ、そのまま部屋の扉まで駆け寄るとノブに手を伸ばす──。

「残念だったな。鍵はちゃんと掛けてあるよ。」
 扉の内鍵とは別に金色の錠前がかかっているのが凛花の目に入った。ノブに手を掛けたままの凛花の背後にエミールが静かに近寄る気配を感じる。

──いつの間にこんな鍵…。

「気が変わった。まだ夜は長いし、付き合えよ。」
 そう言うなりエミールは背後から凛花を抱きしめると顔を寄せて来る。
「ちょっと!やめて!」

──やばい、エミールのやつ結構ちょろいと思って油断しちゃった。どうしよう、こういう時はきっと展開的に……。

 凛花はエミールの手を解こうともがきながらも、階下に誰かが駆け付けた物音がしないかと耳をそばだてていた。

「待ってるの?副団長の助け。」

 エミールの手を振りほどいたものの、今度は扉に押し付けられる形で向かい合った二人の顔が近付く。咄嗟に横を向いた凛花の頬にエミールの息がかかる。

「可愛い、リンカ。」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました

かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中! そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……? 可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです! そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!? イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!! 毎日17時と19時に更新します。 全12話完結+番外編 「小説家になろう」でも掲載しています。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

【完結】100日後に処刑されるイグワーナ(悪役令嬢)は抜け毛スキルで無双する

みねバイヤーン
恋愛
せっかく悪役令嬢に転生したのに、もう断罪イベント終わって、牢屋にぶち込まれてるんですけどー。これは100日後に処刑されるイグワーナが、抜け毛操りスキルを使って無双し、自分を陥れた第一王子と聖女の妹をざまぁする、そんな物語。

【完結】人生2回目の少女は、年上騎士団長から逃げられない

櫻野くるみ
恋愛
伯爵家の長女、エミリアは前世の記憶を持つ転生者だった。  手のかからない赤ちゃんとして可愛がられたが、前世の記憶を活かし類稀なる才能を見せ、まわりを驚かせていた。 大人びた子供だと思われていた5歳の時、18歳の騎士ダニエルと出会う。 成り行きで、父の死を悔やんでいる彼を慰めてみたら、うっかり気に入られてしまったようで? 歳の差13歳、未来の騎士団長候補は執着と溺愛が凄かった! 出世するたびにアプローチを繰り返す一途なダニエルと、年齢差を理由に断り続けながらも離れられないエミリア。 騎士団副団長になり、団長までもう少しのところで訪れる愛の試練。乗り越えたダニエルは、いよいよエミリアと結ばれる? 5歳で出会ってからエミリアが年頃になり、逃げられないまま騎士団長のお嫁さんになるお話。 ハッピーエンドです。 完結しています。 小説家になろう様にも投稿していて、そちらでは少し修正しています。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜

楠ノ木雫
恋愛
 病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。  病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。  元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!  でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?  ※他の投稿サイトにも掲載しています。

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

処理中です...