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王立図書館
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「ちょっと…待って?私字が読めないのよ?」
「あぁ、知っている。」
「だったら何でいきなりそんな大層なところに連れて行くの?」
「……どうせ仕事でこの後王宮へ戻るんだから一緒に行けばいいだろう?本を選ぶのはちゃんと付き合うよ。」
「……」
「何かまだ問題でも?」
凛花は歩く先に見えてきた侯爵家の馬車と御者の姿をぼんやりと視界に入れたまま考え込んでいた。
「本当に簡単な本も置いてあるの?」
「あぁ、この国だけじゃなくて他の国の本もあるし、そっちは多分言語を学ぶ者向けの教本もあるはずだ。」
「あ…。なるほどね。この国の人が他国の言葉を学ぶ事もあるもんね。」
「分かってくれたなら良かった。さぁ、お手をどうぞ?」
ダニエルが慣れた様子でリンカを馬車に乗せると、続いて自らも乗り込む。いくつかの好奇の目を向けられながら、侯爵家の馬車は王宮へ向けて走り出した。
王立図書館は入ってすぐのところにいくつかの机と椅子が置いてあり、その背後には高さも広さも一目では分からないほどの書架がぎっしりと並んでいた。
凛花が蔵書の量に圧倒されている横で、ダニエルは既に求める物がある場所を知っているようで迷う事無く書架を奥へと進んで行く。
「ひょっとしたら何かヒントが見つかるかもしれない。一度試しに見た方がいい。」
ダニエルが小声で囁いて指したのは少し厚い本が収められた一角だった。
「試すって?」
「ここにあるのは辞書だよ。この国と国交のある国のものは大抵置いてあるはずだ。眺めてみたら中にはニホンと似た言語があるかもしれないと思わないか?」
「……なるほど。」
改めて本を見てみるが背表紙だけでは何も判断できない。凛花は一先ず目に付いた端から辞書を手に取ってパラパラと中を眺めることにした。そうして数冊中を確認をしてみたが分かるものはどれ一つない。
「駄目か……」
本を元に戻して隣の辞書を手に取った。先程までのものよりは随分薄い。
「これも辞書?なんだか薄いけど…。」
「あぁ、それは確か大陸の東の方の国の──」
「これ……」
薄い辞書を開くと凛花の目にいきなり飛び込んできたのはアルファベット……。
本をめくる手が止まり、思わず見出しを指でたどる。
「これ英語だ……。難しい単語は分からないけど…読める。」
「エイゴ?それはニホンの言葉なのか?」
「違うの。外国語なんだけど一番身近な言語だったから小さい頃から習ってたのよ。でもどうしてこの国で英語が?」
「その国は10年ほど前までは他国の支配下にあったはずだ。独立したのがつい最近だが…。」
「……辞書にしては薄いって言うことは、未完成なのかしら?」
「さぁ…。とりあえず何か手がかりになるかもしれないな。……ザールか。」
「ザール?国の名前?」
「あぁ。」
「ちなみにここは?何ていう国?」
「……ステーリア。そうか、この国の地図は邸にあるから地名も覚えないといけないな。」
「そうなんだよね。」
──この国がステーリアで、英語の使われている国がザール。大陸の東の方の国って言ってたよね。ってことはステーリアは大陸にあるんだ。
「ザール語で書かれた本は数が少なかったんじゃないかな?奥にあるはずだ、探してみよう。」
「それにしても、ダニエルって何でも知ってるのね。凄いなぁ。」
「俺だってザール語はさすがに分からない。知っているのは国の簡単な成り立ちだけだ。フィルならもう少し詳しいかもしれないが。」
「そうなんだ。じゃあ今度機会があったら聞いてみてくれない?」
前を歩くダニエルが書架の陰で立ち止まった。
「自分で聞かないのか?」
「私?王太子殿下に会うことなんてもうないでしょ?」
ダニエルは振り返るといきなり片手で凛花の肩を引き寄せ、そっと触れるだけのキスをした。
──何?どうした?
至近距離でこちらを見つめる琥珀の瞳が熱を帯びているのが分かる。
「リンカ、ごめん。俺は心の何処かでリンカがニホンから来たということを疑っていたのかもしれない。」
「だからって何でいきなり……?」
「ザール語が読めると言った時の顔を見てそれが本当の話だったんだと確信した。…正直ホッとしてるんだ、ザールはほとんどステーリアとの関わりがない国だから。」
「ごめん、ダニエルの言いたいことがよく分からない。」
「リンカがアオイや隣国との繋がりがないということがはっきりと分かった。それに、フィルに取り入るつもりもないことも。」
「……そうだけど。」
ダニエルは凛花の身体をぎゅっと抱きしめた。
「良かった。」
「いや、ここ図書館!他の人が来るかもしれないから…。」
「大丈夫。ザール語の本を読む人なんてそうそういないから。」
「そうじゃなくて……」
「図書館じゃなかったらいいの?」
「……初めてのキスだったから、ちょっと…混乱…してる。」
「じゃあ、落ち着くまでこうしとく。」
「……余計に落ち着きません。」
──ファーストキスが図書館?しかも相手は騎士で婚約者?私、本当にあの相馬凛花なの?
「あぁ、知っている。」
「だったら何でいきなりそんな大層なところに連れて行くの?」
「……どうせ仕事でこの後王宮へ戻るんだから一緒に行けばいいだろう?本を選ぶのはちゃんと付き合うよ。」
「……」
「何かまだ問題でも?」
凛花は歩く先に見えてきた侯爵家の馬車と御者の姿をぼんやりと視界に入れたまま考え込んでいた。
「本当に簡単な本も置いてあるの?」
「あぁ、この国だけじゃなくて他の国の本もあるし、そっちは多分言語を学ぶ者向けの教本もあるはずだ。」
「あ…。なるほどね。この国の人が他国の言葉を学ぶ事もあるもんね。」
「分かってくれたなら良かった。さぁ、お手をどうぞ?」
ダニエルが慣れた様子でリンカを馬車に乗せると、続いて自らも乗り込む。いくつかの好奇の目を向けられながら、侯爵家の馬車は王宮へ向けて走り出した。
王立図書館は入ってすぐのところにいくつかの机と椅子が置いてあり、その背後には高さも広さも一目では分からないほどの書架がぎっしりと並んでいた。
凛花が蔵書の量に圧倒されている横で、ダニエルは既に求める物がある場所を知っているようで迷う事無く書架を奥へと進んで行く。
「ひょっとしたら何かヒントが見つかるかもしれない。一度試しに見た方がいい。」
ダニエルが小声で囁いて指したのは少し厚い本が収められた一角だった。
「試すって?」
「ここにあるのは辞書だよ。この国と国交のある国のものは大抵置いてあるはずだ。眺めてみたら中にはニホンと似た言語があるかもしれないと思わないか?」
「……なるほど。」
改めて本を見てみるが背表紙だけでは何も判断できない。凛花は一先ず目に付いた端から辞書を手に取ってパラパラと中を眺めることにした。そうして数冊中を確認をしてみたが分かるものはどれ一つない。
「駄目か……」
本を元に戻して隣の辞書を手に取った。先程までのものよりは随分薄い。
「これも辞書?なんだか薄いけど…。」
「あぁ、それは確か大陸の東の方の国の──」
「これ……」
薄い辞書を開くと凛花の目にいきなり飛び込んできたのはアルファベット……。
本をめくる手が止まり、思わず見出しを指でたどる。
「これ英語だ……。難しい単語は分からないけど…読める。」
「エイゴ?それはニホンの言葉なのか?」
「違うの。外国語なんだけど一番身近な言語だったから小さい頃から習ってたのよ。でもどうしてこの国で英語が?」
「その国は10年ほど前までは他国の支配下にあったはずだ。独立したのがつい最近だが…。」
「……辞書にしては薄いって言うことは、未完成なのかしら?」
「さぁ…。とりあえず何か手がかりになるかもしれないな。……ザールか。」
「ザール?国の名前?」
「あぁ。」
「ちなみにここは?何ていう国?」
「……ステーリア。そうか、この国の地図は邸にあるから地名も覚えないといけないな。」
「そうなんだよね。」
──この国がステーリアで、英語の使われている国がザール。大陸の東の方の国って言ってたよね。ってことはステーリアは大陸にあるんだ。
「ザール語で書かれた本は数が少なかったんじゃないかな?奥にあるはずだ、探してみよう。」
「それにしても、ダニエルって何でも知ってるのね。凄いなぁ。」
「俺だってザール語はさすがに分からない。知っているのは国の簡単な成り立ちだけだ。フィルならもう少し詳しいかもしれないが。」
「そうなんだ。じゃあ今度機会があったら聞いてみてくれない?」
前を歩くダニエルが書架の陰で立ち止まった。
「自分で聞かないのか?」
「私?王太子殿下に会うことなんてもうないでしょ?」
ダニエルは振り返るといきなり片手で凛花の肩を引き寄せ、そっと触れるだけのキスをした。
──何?どうした?
至近距離でこちらを見つめる琥珀の瞳が熱を帯びているのが分かる。
「リンカ、ごめん。俺は心の何処かでリンカがニホンから来たということを疑っていたのかもしれない。」
「だからって何でいきなり……?」
「ザール語が読めると言った時の顔を見てそれが本当の話だったんだと確信した。…正直ホッとしてるんだ、ザールはほとんどステーリアとの関わりがない国だから。」
「ごめん、ダニエルの言いたいことがよく分からない。」
「リンカがアオイや隣国との繋がりがないということがはっきりと分かった。それに、フィルに取り入るつもりもないことも。」
「……そうだけど。」
ダニエルは凛花の身体をぎゅっと抱きしめた。
「良かった。」
「いや、ここ図書館!他の人が来るかもしれないから…。」
「大丈夫。ザール語の本を読む人なんてそうそういないから。」
「そうじゃなくて……」
「図書館じゃなかったらいいの?」
「……初めてのキスだったから、ちょっと…混乱…してる。」
「じゃあ、落ち着くまでこうしとく。」
「……余計に落ち着きません。」
──ファーストキスが図書館?しかも相手は騎士で婚約者?私、本当にあの相馬凛花なの?
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