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贈り物
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「こちらがイエローダイヤになりますね。それからこちらが琥珀──。」
凛花は目の前にずらりと並べられた宝石に思わずギョッとしてダニエルの腕を掴んだ。
「どういうこと?」
「ここから好きな石を選んでリンカのピアスにするんだ。どうしたの?」
──いや、ピアスにするって普通にサラッと言うけど、黄色いダイヤなんて今までの人生で見たことないし。人工ダイヤなんて存在してない世界でしょ?
「……私宝石のことよく分からないんだけど。」
「じゃあこれなんかどう?」
ダニエルは色々ある石の中から似たような色と大きさの二つの石を選ぶと凛花に見せた。
「…うん。綺麗だと思う。」
「じゃあこれにしよう。後はこれと…。」
ダニエルはイエローダイヤを一対と琥珀を無造作に幾つか選ぶと宝石店の店主に何か指示をし始めた。
──何か……慣れてる?こういう所。誰かにアクセサリーのプレゼントとかよくするのかな。
宝石店の個室で石から選んでオーダーメイドのアクセサリーを作るなんて、婚約指輪でも作りに来ない限り日本では縁のないことだった。
だいたい、食事の後で軽くオーダーメイドのアクセサリーを作りに行くという感覚自体が凛花にとっては違和感ありまくりなのだ。
店主にわざわざ店先まで見送られて宝石店を後にすると、ダニエルが隣で小さくため息をつくのが分かった。
「ダニエル?」
「……興味なかった?」
「違うの、私あんな風にアクセサリーを作ってもらった経験とかないから何も分からなくて。ごめんなさい。」
「そういうことなら謝る必要はない。俺だって初めての事だったし……。」
「え?そうなの?」
凛花が見上げるとダニエルは少し困ったように笑いかけた。
「婚約の印なんだから、初めてなのは当然だろう?」
「婚約の…印?」
「……まさか、リンカは知らないのか?」
「婚約指輪なら…知ってるけど。もしかしてこの国だと指輪じゃなくてピアスなの?」
「指輪……?」
ダニエルは立ち止まると凛花と見つめ合ったまま呆然と立ち尽くした。
「……そういう事だったのか。」
「どうしよう?そんな大切な事だったなんて知らずに私任せっきりで…。」
ダニエルが手を口元にやるのが目に入った。
──笑いを堪えてる…?
「もう一回お店に戻る?」
「いや、戻らなくても大丈夫だ。そうか……指輪なのか。」
「そう。」
「じゃあ、あのピアスが出来上がった時に次は指輪を作ろうか。」
「……そんなに宝石ばかり受け取れないよ。第一イエローダイヤなんて私今日初めて見たし、貴重なんでしょ?お店の人もそう言ってたじゃない?」
「婚約の印は一度しか送らないものだから、それでいいんだよ。」
──うぅ、甘い……。なんだかダニエルが溺愛モード入ってきてる気がする…。気のせいじゃないよね。
「イエローダイヤが婚約の印なの?だったら他の琥珀は?」
「あぁ、あれはほら普段付けるピアス。」
そう言うと、ダニエルは自分の耳を指さした。ダニエルの耳には凛花のピアスと同じ様な琥珀のピアスが付いている。
「私がダニエルのピアス借りてるから?」
「貸してるんじゃなくてそっちはリンカにあげたものだから。」
先程宝石店で見た琥珀はイエローダイヤより少しばかり求めやすい値段のものだったからダニエルの普段使い用だったのだろうか?よく見ていなかったせいもあり凛花にはよく分からなかった。
「ねぇ、琥珀はダニエルの瞳の色なんでしょ?だったら私が送る時はどうなるの?何か決まりがある?」
「決まり?そうだな。リンカの瞳も琥珀色だから同じでいいんじゃないか?」
「私の目も琥珀色?」
「琥珀にも明るい色と暗い色があるからね。だからさっき石を選ぶ時俺はわざわざ濃い色を選んでただろ?」
「……気付かなかった。」
──それより、ダニエルに贈り物をしたくても私お金なんて持ってないじゃん!
「今度来る時は私もお金持って来たいんだけど…無理かな?」
「金?」
「そう。私何も仕事してないから…。」
「そんな事?」
「そんな事って、大事な事よ?仕事がなければ生活していけないでしょ?…あ、もしかして貴族って領地からの収入とかで何もしなくても生活出来る感じ?」
「……まぁそれもあるが。貴族の女性はあまり職に就くことがないからな。」
「あ……」
勢い良く歩いていた凛花の足がダニエルの一言に止まった。
──そっか。女は早く結婚して沢山の子供を産むのが理想とされる世界観なんだ……。
「リンカ?」
振り返ったダニエルの心配そうな表情を見ると、凛花は何でもないと呟き隣まで駆け寄った。
「ねぇ、ダニエル?」
そっとその袖を引いて腕を絡める。
「どうしたんだ?リンカから腕を組んでくるなんて珍しい。」
凛花は顔を近付けるとダニエルの耳元に向けてヒソヒソと囁いた。
「もう一つだけお願いしたい事があるんだけど?」
「……」
「子供向けの本がある所に行きたいの。本屋か図書館みたいな……」
「なんだ、何を言われるのかと思ったらそんな事か。勉強用なんだろう?」
「……バレた?」
オネダリが成功した様なので凛花が絡めた腕を離そうとするとダニエルにやんわりと引き留められた。
「宝石店に付き合わせたのは俺の方だ。次は俺がリンカに付き合うよ。」
「まだ仕事に戻らなくても時間は大丈夫なの?」
「本を選んだ後でそのまま戻るよ。」
──そのまま?
「だから、王宮にある王立図書館へ行こう。」
凛花は目の前にずらりと並べられた宝石に思わずギョッとしてダニエルの腕を掴んだ。
「どういうこと?」
「ここから好きな石を選んでリンカのピアスにするんだ。どうしたの?」
──いや、ピアスにするって普通にサラッと言うけど、黄色いダイヤなんて今までの人生で見たことないし。人工ダイヤなんて存在してない世界でしょ?
「……私宝石のことよく分からないんだけど。」
「じゃあこれなんかどう?」
ダニエルは色々ある石の中から似たような色と大きさの二つの石を選ぶと凛花に見せた。
「…うん。綺麗だと思う。」
「じゃあこれにしよう。後はこれと…。」
ダニエルはイエローダイヤを一対と琥珀を無造作に幾つか選ぶと宝石店の店主に何か指示をし始めた。
──何か……慣れてる?こういう所。誰かにアクセサリーのプレゼントとかよくするのかな。
宝石店の個室で石から選んでオーダーメイドのアクセサリーを作るなんて、婚約指輪でも作りに来ない限り日本では縁のないことだった。
だいたい、食事の後で軽くオーダーメイドのアクセサリーを作りに行くという感覚自体が凛花にとっては違和感ありまくりなのだ。
店主にわざわざ店先まで見送られて宝石店を後にすると、ダニエルが隣で小さくため息をつくのが分かった。
「ダニエル?」
「……興味なかった?」
「違うの、私あんな風にアクセサリーを作ってもらった経験とかないから何も分からなくて。ごめんなさい。」
「そういうことなら謝る必要はない。俺だって初めての事だったし……。」
「え?そうなの?」
凛花が見上げるとダニエルは少し困ったように笑いかけた。
「婚約の印なんだから、初めてなのは当然だろう?」
「婚約の…印?」
「……まさか、リンカは知らないのか?」
「婚約指輪なら…知ってるけど。もしかしてこの国だと指輪じゃなくてピアスなの?」
「指輪……?」
ダニエルは立ち止まると凛花と見つめ合ったまま呆然と立ち尽くした。
「……そういう事だったのか。」
「どうしよう?そんな大切な事だったなんて知らずに私任せっきりで…。」
ダニエルが手を口元にやるのが目に入った。
──笑いを堪えてる…?
「もう一回お店に戻る?」
「いや、戻らなくても大丈夫だ。そうか……指輪なのか。」
「そう。」
「じゃあ、あのピアスが出来上がった時に次は指輪を作ろうか。」
「……そんなに宝石ばかり受け取れないよ。第一イエローダイヤなんて私今日初めて見たし、貴重なんでしょ?お店の人もそう言ってたじゃない?」
「婚約の印は一度しか送らないものだから、それでいいんだよ。」
──うぅ、甘い……。なんだかダニエルが溺愛モード入ってきてる気がする…。気のせいじゃないよね。
「イエローダイヤが婚約の印なの?だったら他の琥珀は?」
「あぁ、あれはほら普段付けるピアス。」
そう言うと、ダニエルは自分の耳を指さした。ダニエルの耳には凛花のピアスと同じ様な琥珀のピアスが付いている。
「私がダニエルのピアス借りてるから?」
「貸してるんじゃなくてそっちはリンカにあげたものだから。」
先程宝石店で見た琥珀はイエローダイヤより少しばかり求めやすい値段のものだったからダニエルの普段使い用だったのだろうか?よく見ていなかったせいもあり凛花にはよく分からなかった。
「ねぇ、琥珀はダニエルの瞳の色なんでしょ?だったら私が送る時はどうなるの?何か決まりがある?」
「決まり?そうだな。リンカの瞳も琥珀色だから同じでいいんじゃないか?」
「私の目も琥珀色?」
「琥珀にも明るい色と暗い色があるからね。だからさっき石を選ぶ時俺はわざわざ濃い色を選んでただろ?」
「……気付かなかった。」
──それより、ダニエルに贈り物をしたくても私お金なんて持ってないじゃん!
「今度来る時は私もお金持って来たいんだけど…無理かな?」
「金?」
「そう。私何も仕事してないから…。」
「そんな事?」
「そんな事って、大事な事よ?仕事がなければ生活していけないでしょ?…あ、もしかして貴族って領地からの収入とかで何もしなくても生活出来る感じ?」
「……まぁそれもあるが。貴族の女性はあまり職に就くことがないからな。」
「あ……」
勢い良く歩いていた凛花の足がダニエルの一言に止まった。
──そっか。女は早く結婚して沢山の子供を産むのが理想とされる世界観なんだ……。
「リンカ?」
振り返ったダニエルの心配そうな表情を見ると、凛花は何でもないと呟き隣まで駆け寄った。
「ねぇ、ダニエル?」
そっとその袖を引いて腕を絡める。
「どうしたんだ?リンカから腕を組んでくるなんて珍しい。」
凛花は顔を近付けるとダニエルの耳元に向けてヒソヒソと囁いた。
「もう一つだけお願いしたい事があるんだけど?」
「……」
「子供向けの本がある所に行きたいの。本屋か図書館みたいな……」
「なんだ、何を言われるのかと思ったらそんな事か。勉強用なんだろう?」
「……バレた?」
オネダリが成功した様なので凛花が絡めた腕を離そうとするとダニエルにやんわりと引き留められた。
「宝石店に付き合わせたのは俺の方だ。次は俺がリンカに付き合うよ。」
「まだ仕事に戻らなくても時間は大丈夫なの?」
「本を選んだ後でそのまま戻るよ。」
──そのまま?
「だから、王宮にある王立図書館へ行こう。」
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