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親愛なる…
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固い表情のまま部屋に入ってきたダニエルがソファーに座るのを見届けると、フィリップは何の前置きもなくいきなり話をはじめた。
「お前にアオイの様子を見に行かせるのはやめにした。」
「それは…。何か問題でも?」
「大問題だ。リンカがお前を行かせないでほしいと言っている。」
ダニエルは凛花をちらっと横目で見るとすぐに視線をフィリップに戻した。
「リンカが思い出したという話とこの件は何か関係があるのか?」
「どうしてリンカに直接聞かない?」
「……」
「ダニエル?」
凛花の方を直接見ようとしないダニエルをあきれたように見やると、フィリップは何かを思い出したようで今度は凛花に向けて話し始めた。
「そういえば、リンカは『ディー』という呼び名の意味を知っているのか?」
「フィル!そんなこと今はどうでもいいだろ?」
「『ディー』ですか?イニシャルじゃないんですか?ダニエルの。」
「イニシャル?」
──DanielのD…。そっか、アルファベットってこの国の書き言葉と違うから通じない?
「あ…私の知っている言葉ではダニエルの最初の文字はディーと書くんですけど。フィリップ殿下だとピーで、凛花だとアールですが。」
フィリップは意外そうな面持ちでダニエルと顔を見合わせると頷いた。
「それは知らなかった。ディーというのはダニエルが私の代わりを務めている時に直接名を呼べないから使っている呼び方だ。意味は──」
「フィル、もういいだろう?」
「大切な者という意味だ。」
「え?」
──もしかしてDじゃなくてDear?そっち?
ダニエルを見ると何故だか赤くなって恥ずかしそうにしている。
「私が昔決めた呼び名だ。」
「だからなんでお前はそんなことを平気で言えるんだよ?」
「リンカにもそう呼んで欲しいんだろ?お前が言わないから代わりに言ってやるんだ。」
「……」
「リンカは今回の侯爵領行きでお前の身に危険が及ぶ可能性があることを知らせてくれた。話の内容は詳しくは言えないがお前のことを心配してのことだ。分かるな?」
「侯爵領に行くことで身の危険が?どうして…?」
ダニエルは不思議そうに首を捻っていたがフィリップはそれ以上詳しいことを伝える気はないようだった。
「とにかく、お前たちの希望通り私はリンカの話を聞いた。後は二人で話し合うことだ、分かったな、ディー?」
「だから軽々しくそんな呼び方するなって!」
「あ!それ、さっきカテリーナ殿下にも言ってたよね?軽々しく口にするなって。」
ダニエルは気まずそうにフィリップを睨んだ。
「カテリーナ殿下も意味を知っていてわざと使っているから対応に困るんだ。」
「……男と女では少し意味合いが違ってくるからな。」
「Dearの意味?」
「リンカ……」
「ダニエル、お前も分かりやすく態度に出しすぎだ。いいかリンカ、女性がこの言葉を使うときは男同士の信頼や尊敬よりももっと深い愛情を表すんだ。」
──深い愛情を示す呼び方って何?ひょっとしてダーリンとかハニー的な呼び方?
「……そうでしたか。なんだかよく分からないけど、それじゃ私はまだダニエルって呼んだ方が良さそうですね。」
「そうなのか?まぁそれならばそれでもいいが。あと一つ、リンカお前なぜ私に話すときは微妙に口調が違うんだ?」
「……やっぱり。ぎこちなかったですか?もともと身分の高い人とお話をする機会なんてそんなになかったもので、うまく敬語が使えないんです。その上殿下はダニエルと同じ顔だからつい口調まで砕けてしまって……。」
「そういえば俺に対しては最初から敬語なんて使っていなかったな。」
「そう……かもしれない。でもダニエルはそういうの気にしないって言ってたじゃない?」
「私も気にしない、むしろ中途半端に気を使われた方が気持ち悪い。他の目がない時には気遣いは無用だ。」
「そうですか。分かりました。」
フィリップはそこで一つ息を大きくつくとソファーにどっかりと背を預けた。
「とりあえず、早急に予定を組み直さなければならないな。」
ダニエルと凛花は瞬時に姿勢を正すとフィリップの次の言葉を待った。
「……ダニエルがまずいなら私がアオイに会って来よう。」
「え?」
「それは……。まぁ危険はないかもしれませんけど。修道院に王太子殿下が赴くなんて話普通にあるんですか?」
「ないだろうな、今のところ。」
「俺には危険だというのにフィルなら平気なのか?」
「そうだ。私には婚約者もいないし国外に逃亡することもないからな。」
「あ!ちょっと!」
「……何の話だ、それは?」
ダニエルの鋭い視線が凛花を捉えた。
「……」
「リンカを責めるな。それより、もうすぐ外は暗くなる。どうするつもりなんだ?このまま話を続けて今夜は王宮に泊まって帰るつもりか?私はそれでも構わないが。」
「王宮に泊まる?とんでもないです!」
「なんだ、ダニエルの所もここもそんなに変わらないだろう?」
「フィル、今日のところは俺たちはこれで帰る。いいか?アオイの件はまた明日必ず話し合うからな?」
「そうか…まぁ帰ると言うのなら邪魔をするつもりはない。」
フィリップはダニエルの方を見上げるとニヤリと笑い、それを見たダニエルはフィリップの肩を大きな音を立てて叩いた。
──なんか…。本当にダニエルって影の騎士ディーなの?顔にコンプレックス持った孤独な人物像皆無…。
「お前にアオイの様子を見に行かせるのはやめにした。」
「それは…。何か問題でも?」
「大問題だ。リンカがお前を行かせないでほしいと言っている。」
ダニエルは凛花をちらっと横目で見るとすぐに視線をフィリップに戻した。
「リンカが思い出したという話とこの件は何か関係があるのか?」
「どうしてリンカに直接聞かない?」
「……」
「ダニエル?」
凛花の方を直接見ようとしないダニエルをあきれたように見やると、フィリップは何かを思い出したようで今度は凛花に向けて話し始めた。
「そういえば、リンカは『ディー』という呼び名の意味を知っているのか?」
「フィル!そんなこと今はどうでもいいだろ?」
「『ディー』ですか?イニシャルじゃないんですか?ダニエルの。」
「イニシャル?」
──DanielのD…。そっか、アルファベットってこの国の書き言葉と違うから通じない?
「あ…私の知っている言葉ではダニエルの最初の文字はディーと書くんですけど。フィリップ殿下だとピーで、凛花だとアールですが。」
フィリップは意外そうな面持ちでダニエルと顔を見合わせると頷いた。
「それは知らなかった。ディーというのはダニエルが私の代わりを務めている時に直接名を呼べないから使っている呼び方だ。意味は──」
「フィル、もういいだろう?」
「大切な者という意味だ。」
「え?」
──もしかしてDじゃなくてDear?そっち?
ダニエルを見ると何故だか赤くなって恥ずかしそうにしている。
「私が昔決めた呼び名だ。」
「だからなんでお前はそんなことを平気で言えるんだよ?」
「リンカにもそう呼んで欲しいんだろ?お前が言わないから代わりに言ってやるんだ。」
「……」
「リンカは今回の侯爵領行きでお前の身に危険が及ぶ可能性があることを知らせてくれた。話の内容は詳しくは言えないがお前のことを心配してのことだ。分かるな?」
「侯爵領に行くことで身の危険が?どうして…?」
ダニエルは不思議そうに首を捻っていたがフィリップはそれ以上詳しいことを伝える気はないようだった。
「とにかく、お前たちの希望通り私はリンカの話を聞いた。後は二人で話し合うことだ、分かったな、ディー?」
「だから軽々しくそんな呼び方するなって!」
「あ!それ、さっきカテリーナ殿下にも言ってたよね?軽々しく口にするなって。」
ダニエルは気まずそうにフィリップを睨んだ。
「カテリーナ殿下も意味を知っていてわざと使っているから対応に困るんだ。」
「……男と女では少し意味合いが違ってくるからな。」
「Dearの意味?」
「リンカ……」
「ダニエル、お前も分かりやすく態度に出しすぎだ。いいかリンカ、女性がこの言葉を使うときは男同士の信頼や尊敬よりももっと深い愛情を表すんだ。」
──深い愛情を示す呼び方って何?ひょっとしてダーリンとかハニー的な呼び方?
「……そうでしたか。なんだかよく分からないけど、それじゃ私はまだダニエルって呼んだ方が良さそうですね。」
「そうなのか?まぁそれならばそれでもいいが。あと一つ、リンカお前なぜ私に話すときは微妙に口調が違うんだ?」
「……やっぱり。ぎこちなかったですか?もともと身分の高い人とお話をする機会なんてそんなになかったもので、うまく敬語が使えないんです。その上殿下はダニエルと同じ顔だからつい口調まで砕けてしまって……。」
「そういえば俺に対しては最初から敬語なんて使っていなかったな。」
「そう……かもしれない。でもダニエルはそういうの気にしないって言ってたじゃない?」
「私も気にしない、むしろ中途半端に気を使われた方が気持ち悪い。他の目がない時には気遣いは無用だ。」
「そうですか。分かりました。」
フィリップはそこで一つ息を大きくつくとソファーにどっかりと背を預けた。
「とりあえず、早急に予定を組み直さなければならないな。」
ダニエルと凛花は瞬時に姿勢を正すとフィリップの次の言葉を待った。
「……ダニエルがまずいなら私がアオイに会って来よう。」
「え?」
「それは……。まぁ危険はないかもしれませんけど。修道院に王太子殿下が赴くなんて話普通にあるんですか?」
「ないだろうな、今のところ。」
「俺には危険だというのにフィルなら平気なのか?」
「そうだ。私には婚約者もいないし国外に逃亡することもないからな。」
「あ!ちょっと!」
「……何の話だ、それは?」
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「……」
「リンカを責めるな。それより、もうすぐ外は暗くなる。どうするつもりなんだ?このまま話を続けて今夜は王宮に泊まって帰るつもりか?私はそれでも構わないが。」
「王宮に泊まる?とんでもないです!」
「なんだ、ダニエルの所もここもそんなに変わらないだろう?」
「フィル、今日のところは俺たちはこれで帰る。いいか?アオイの件はまた明日必ず話し合うからな?」
「そうか…まぁ帰ると言うのなら邪魔をするつもりはない。」
フィリップはダニエルの方を見上げるとニヤリと笑い、それを見たダニエルはフィリップの肩を大きな音を立てて叩いた。
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