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そもそもの前提?
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再び訪れた王太子の執務室で、凛花はダニエルと共に入口付近に立ったまま王太子に向かって頭を下げていた。
「一体何があった?」
「申し訳ありません、私がダニエルに我儘を言ったんです。」
「話があると聞いたが?まぁいい、座れ。」
王太子が昼と同様に座るよう指示をするが二人は立ったまま動こうとしなかった。
「何だ?」
王太子が不思議そうに二人を見上げるとダニエルの方から凛花に声をかけた。
「俺は席を外した方がいいんだろう?」
凛花はダニエルを真っ直ぐに見つめると黙ったまま頷いた。
──ごめんなさい。
「何だ…。早速喧嘩でもしたのか?」
「…フィル、俺は隣の部屋に控えている。頼んだ。」
「……」
「あぁ…。」
王太子はポカンとしたまま隣室へ移動するダニエルの後ろ姿を見送った。
「それで?ダニエルにも言えない話なんだな?」
「はい。あおいさんの事で…。」
「何か思い出したとでも?」
「確認ですが、あおいさんは今修道院におられるのですか?」
「……あぁその通りだ。ダニエルから聞いていたのか?」
「いいえ。カテリーナ殿下がダニエルのことを『ディー』と呼んでいるのを聞いて、思い出したことがあって。」
「……思い出した?まさかお前も未来が見えるなどと言い出すのか?」
フィリップはあおいのこともあるのでこの手の話を切り出されてもすぐに信じてくれるかどうかは怪しい所だろう。
──やっぱり…。信じてもらえないかもしれない。どうしよう。
「未来が見える訳では……。どう説明をしたらいいのか自分でもよく分からないんですが…。とにかく、王太子殿下は年に数回修道院にあおいさんの様子を確認する為に誰かを送っていらっしゃる。そして次に派遣されるのはダニエルの予定なんじゃないですか?」
フィリップは顎に手をやると何か考え込む様子で凛花をじっと見つめた。
「…確かに、その通りだ。今朝ダニエルの方からそうしたいと言われたばかりだが…。」
フィリップは半信半疑ながらも一応は話を聞く気になってきたようで凛花に先を促した。
「私が知っている通りに事が運ぶと……ダニエルの身に危険が迫ります。あおいさんも一緒にです。だから……ダニエルを侯爵領の修道院に行かせるのは止めて頂きたいんです。」
「……」
フィリップの表情が一気に曇るのが分かった。やはりいきなりそんな事を言われてもにわかには信じられないのだろう。それは当然の反応に思われた。
「殿下が私の言うことを信じられないのは分かります。私だって本当にそうなるのかは分からないんです。」
「リンカ、そう結論を急ぐな。隠さずお前の知っている事を全て話せ。いきなり結論から先に言われても私も判断に苦しむではないか。」
「……全てを話すのは構いませんが。」
「一応確認しておくが、その話は誰かの罪を問うものなのか?」
「いいえ。まだ起きていない事ですから誰も罪には…。」
「ならば、信じるに値するかどうかは話を聞いた後で私が判断する。」
──王太子殿下、なんかちょっと頼もしい味方な予感がする。
「分かりました。」
凛花は思いつく限り全ての情報をフィリップにありのまま伝えることにした。
全ての話が終わると、フィリップはソファーにもたれかかり天井を見上げたまま大きな溜息をついた。
「崖崩れか……。侯爵領の北側の国境に続く道は確かに山道で危険な箇所がいくつかあるはずだ。」
「やっぱり。そうなんですか。」
「それで……お前のその話の通りならばダニエルはアオイに初めて心を開くのだな?」
「はい。それまで押し殺していた自分という存在を初めて認めて受け入れてくれたのがあおいさんだったと──。」
「では、私はお前の話の通りには事が運ばないと思う。」
──え?ここまで話を聞いてまさか…?どうして?
「それは…。やっぱり私なんかの話は信じられないと言う事ですか?」
「そうではない、話としては信じている。だが、お前の知る話とはそもそも前提条件が変わっていることに気が付かないか?」
「前提条件?」
王太子はソファーに再び座り直すと、ダニエルと同じその眼差しを凛花にむけてニッコリと微笑んだ。
「そうだ。ダニエルは既にリンカに心を開いている。違うか?」
──私?
「……」
「お前達の婚約届は既に国王の許可を得た。ダニエルは婚約者を残してアオイと二人で国外逃亡をすると思うか?どうだ?」
「それは…。」
「本人に聞いてみるか?私は今聞いた話の内容ならばダニエルに聞かせても構わないと考えるが?」
「ダニエルが国外に逃げ出すとは思いませんが…。でも、もし危険な目に遭うようならば……。」
フィリップはまだ納得のいかない顔をしている凛花を慰めるように身を乗り出した。
「心配するな。ダニエルを死なせたりしない。約束しよう。」
「約束、ですか……。」
凛花はフィリップの言葉をどこまで信じるべきなのか分からず、正面からじっとその目をうかがった。
「……お前はどうしてそう人の目をまっすぐに見てくるんだ?男なら誰でも勘違いするぞ?」
「え?ご、ごめんなさい。別にそんなんじゃ。」
慌てて目をそらした凛花を見ると、フィリップは笑いながら立ち上がり、ダニエルの控えている隣室の扉へ向けて歩き出した。
「一体何があった?」
「申し訳ありません、私がダニエルに我儘を言ったんです。」
「話があると聞いたが?まぁいい、座れ。」
王太子が昼と同様に座るよう指示をするが二人は立ったまま動こうとしなかった。
「何だ?」
王太子が不思議そうに二人を見上げるとダニエルの方から凛花に声をかけた。
「俺は席を外した方がいいんだろう?」
凛花はダニエルを真っ直ぐに見つめると黙ったまま頷いた。
──ごめんなさい。
「何だ…。早速喧嘩でもしたのか?」
「…フィル、俺は隣の部屋に控えている。頼んだ。」
「……」
「あぁ…。」
王太子はポカンとしたまま隣室へ移動するダニエルの後ろ姿を見送った。
「それで?ダニエルにも言えない話なんだな?」
「はい。あおいさんの事で…。」
「何か思い出したとでも?」
「確認ですが、あおいさんは今修道院におられるのですか?」
「……あぁその通りだ。ダニエルから聞いていたのか?」
「いいえ。カテリーナ殿下がダニエルのことを『ディー』と呼んでいるのを聞いて、思い出したことがあって。」
「……思い出した?まさかお前も未来が見えるなどと言い出すのか?」
フィリップはあおいのこともあるのでこの手の話を切り出されてもすぐに信じてくれるかどうかは怪しい所だろう。
──やっぱり…。信じてもらえないかもしれない。どうしよう。
「未来が見える訳では……。どう説明をしたらいいのか自分でもよく分からないんですが…。とにかく、王太子殿下は年に数回修道院にあおいさんの様子を確認する為に誰かを送っていらっしゃる。そして次に派遣されるのはダニエルの予定なんじゃないですか?」
フィリップは顎に手をやると何か考え込む様子で凛花をじっと見つめた。
「…確かに、その通りだ。今朝ダニエルの方からそうしたいと言われたばかりだが…。」
フィリップは半信半疑ながらも一応は話を聞く気になってきたようで凛花に先を促した。
「私が知っている通りに事が運ぶと……ダニエルの身に危険が迫ります。あおいさんも一緒にです。だから……ダニエルを侯爵領の修道院に行かせるのは止めて頂きたいんです。」
「……」
フィリップの表情が一気に曇るのが分かった。やはりいきなりそんな事を言われてもにわかには信じられないのだろう。それは当然の反応に思われた。
「殿下が私の言うことを信じられないのは分かります。私だって本当にそうなるのかは分からないんです。」
「リンカ、そう結論を急ぐな。隠さずお前の知っている事を全て話せ。いきなり結論から先に言われても私も判断に苦しむではないか。」
「……全てを話すのは構いませんが。」
「一応確認しておくが、その話は誰かの罪を問うものなのか?」
「いいえ。まだ起きていない事ですから誰も罪には…。」
「ならば、信じるに値するかどうかは話を聞いた後で私が判断する。」
──王太子殿下、なんかちょっと頼もしい味方な予感がする。
「分かりました。」
凛花は思いつく限り全ての情報をフィリップにありのまま伝えることにした。
全ての話が終わると、フィリップはソファーにもたれかかり天井を見上げたまま大きな溜息をついた。
「崖崩れか……。侯爵領の北側の国境に続く道は確かに山道で危険な箇所がいくつかあるはずだ。」
「やっぱり。そうなんですか。」
「それで……お前のその話の通りならばダニエルはアオイに初めて心を開くのだな?」
「はい。それまで押し殺していた自分という存在を初めて認めて受け入れてくれたのがあおいさんだったと──。」
「では、私はお前の話の通りには事が運ばないと思う。」
──え?ここまで話を聞いてまさか…?どうして?
「それは…。やっぱり私なんかの話は信じられないと言う事ですか?」
「そうではない、話としては信じている。だが、お前の知る話とはそもそも前提条件が変わっていることに気が付かないか?」
「前提条件?」
王太子はソファーに再び座り直すと、ダニエルと同じその眼差しを凛花にむけてニッコリと微笑んだ。
「そうだ。ダニエルは既にリンカに心を開いている。違うか?」
──私?
「……」
「お前達の婚約届は既に国王の許可を得た。ダニエルは婚約者を残してアオイと二人で国外逃亡をすると思うか?どうだ?」
「それは…。」
「本人に聞いてみるか?私は今聞いた話の内容ならばダニエルに聞かせても構わないと考えるが?」
「ダニエルが国外に逃げ出すとは思いませんが…。でも、もし危険な目に遭うようならば……。」
フィリップはまだ納得のいかない顔をしている凛花を慰めるように身を乗り出した。
「心配するな。ダニエルを死なせたりしない。約束しよう。」
「約束、ですか……。」
凛花はフィリップの言葉をどこまで信じるべきなのか分からず、正面からじっとその目をうかがった。
「……お前はどうしてそう人の目をまっすぐに見てくるんだ?男なら誰でも勘違いするぞ?」
「え?ご、ごめんなさい。別にそんなんじゃ。」
慌てて目をそらした凛花を見ると、フィリップは笑いながら立ち上がり、ダニエルの控えている隣室の扉へ向けて歩き出した。
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