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ヒロインの失敗
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「バッド…エンド…。」
「その言葉に何か思い当たることがあるようだな?リンカ、本当にお前はアオイと無関係なんだろうな?」
フィリップはアオイの知り合いではないと言っていたリンカが、一言聞いただけで何かを理解して黙り込んだことに気が付いたようだった。
ダニエルはソファーに座ったまま腕組みをして凛花をただ黙って見詰めているだけだ。
「あおいさんとは直接会ったことも話したことも有りませんが…。こちら側の世界で同じ日本人としての記憶があると聞いた唯一の人ですから、無関係であるとはとても思えません。」
「……なるほど。」
「リンカ、三年前、学園でアオイは前世の記憶を利用してこの国の名だたる家の子息のほとんどを誘惑して回ったんだ。婚約者がいる者も見境なく。」
──あぁ、あおいさん…。きっとピンク色の髪の美少女に転生しちゃって張り切りすぎたのね…。
「最終的にはフィルにまで。」
「ダニエル、一つつけ加えておくがアオイが誘惑したのは私ではない。影武者のお前だっただろう?」
ダニエルは面倒くさそうに頷くとフィリップに遠慮なく文句を言い出した。
「だいたいフィルが面倒事に関わりたくないからと我儘を言って学園に通わなかったせいだろう?俺だったからうまくアオイを誤魔化せたけど、お前だったら今頃この国もどうなっていたことか……。」
──王太子殿下をフィルって愛称で呼ぶあたりやっぱり私の第六感は当たってたってことね。ダニエルは只者じゃなかったんだわ。
「結局王太子には相手にされないと悟ったアオイは宰相の息子に狙いを定めて婚約を結んだ所で、他の男の存在が次々と明るみに出て婚約破棄をされた。」
「凄い話ですね…。でも、あおいさんはどうしてそんなに男性の心を掴むのが上手だったんですか?」
──魔法のない世界で特殊体質で魅了の魔法使ってたとか?
フィリップはダニエルに一瞬目線を向けると少しだけ迷う素振りを見せた。
「…最初は誰もアオイの言うことを信じていなかったのだが。アオイは自分は未来が見えるのだと言っていたんだ。」
「未来が?それで、まさかあおいさんの言った通りの事が現実世界でも起こって誰もが信じるようになったと?」
「あぁ。アオイが分かる未来は学園という限定された場所での本当に些細な事だけだったが…。」
──あおいさんは、この世界が舞台の話かゲームのストーリーを知っていたということ…?
「それなのにバッドエンドだったのですね。」
ダニエルはボーッと考え込んでいる様子の凛花を見ると、組んでいた腕を解き身を乗り出した。
「アオイやリンカが言うバッドエンドとは何を示すんだ?」
「その人にとって良くない終わり方…要するに失敗したってことです。話を聞く限りではあおいさんの場合宰相の息子と結婚をして幸せになることが最終目標だったのでしょうね。もしくはその前にフィリップ殿下と婚約が出来ていたらそちらでも。そのどちらも叶わなかったのですから、あおいさんにしてみればバッドエンド、失敗なんです。」
──あおいさん、卒業パーティーで婚約破棄されて追放されたりしたのかな…?ちょっとモブ的な立ち位置で見てみたかったかも…。
フィリップとダニエルは頷き合うと同時に立ち上がった。
「リンカ、また時間のある時にゆっくり話を聞かせて欲しい。とりあえず今から私は父上に会ってくる。ダニエルから頼まれた書類も渡さないといけないからな。」
「頼む、なるべく早くな。」
「なんだ、一日ですら我慢できないのか?」
「?」
笑いながら出て行ったフィリップを見送ると、ダニエルは凛花を振り返り手を差し出した。
「帰ろう。今日は騎士団にはもう行かなくていいから。」
「どういうこと?」
「取り調べはもういい。殿下が話をつけてくれるはずだ。」
「そうじゃなくて。私、これからどうなるの?もうダニエルの相手役は必要ないんでしょ?」
「何の話だ?」
ダニエルは動かない様子の凛花を見ると差し出した手を下ろし、代わりに部屋の扉を開けた。ダニエルの横を通り凛花が廊下に出ようとしたところでスっと腰に手が回され、まるで何事も無かったかのように二人は廊下を歩き出した。
「……フィリップ殿下に私を会わせてあおいさんや日本の話を聞き出したかっただけでしょ?」
「それはフィルの命令だ。」
「最初から私を監視してたじゃない?だから日本の記憶があると分かったら直ぐにここへ連れて来たの?」
「それは違う。ただフィルが──。ごめん、こんな話ここでこれ以上続ける訳にはいかない。」
「あ……そうだよね。ごめんなさい。」
「帰ってゆっくり話そう。」
──私の帰る場所なんてこの世界には何処にもないんだった……。ダニエルのこと頼れなくなった時、字も読めない私に一体何ができるんだろう。
「その言葉に何か思い当たることがあるようだな?リンカ、本当にお前はアオイと無関係なんだろうな?」
フィリップはアオイの知り合いではないと言っていたリンカが、一言聞いただけで何かを理解して黙り込んだことに気が付いたようだった。
ダニエルはソファーに座ったまま腕組みをして凛花をただ黙って見詰めているだけだ。
「あおいさんとは直接会ったことも話したことも有りませんが…。こちら側の世界で同じ日本人としての記憶があると聞いた唯一の人ですから、無関係であるとはとても思えません。」
「……なるほど。」
「リンカ、三年前、学園でアオイは前世の記憶を利用してこの国の名だたる家の子息のほとんどを誘惑して回ったんだ。婚約者がいる者も見境なく。」
──あぁ、あおいさん…。きっとピンク色の髪の美少女に転生しちゃって張り切りすぎたのね…。
「最終的にはフィルにまで。」
「ダニエル、一つつけ加えておくがアオイが誘惑したのは私ではない。影武者のお前だっただろう?」
ダニエルは面倒くさそうに頷くとフィリップに遠慮なく文句を言い出した。
「だいたいフィルが面倒事に関わりたくないからと我儘を言って学園に通わなかったせいだろう?俺だったからうまくアオイを誤魔化せたけど、お前だったら今頃この国もどうなっていたことか……。」
──王太子殿下をフィルって愛称で呼ぶあたりやっぱり私の第六感は当たってたってことね。ダニエルは只者じゃなかったんだわ。
「結局王太子には相手にされないと悟ったアオイは宰相の息子に狙いを定めて婚約を結んだ所で、他の男の存在が次々と明るみに出て婚約破棄をされた。」
「凄い話ですね…。でも、あおいさんはどうしてそんなに男性の心を掴むのが上手だったんですか?」
──魔法のない世界で特殊体質で魅了の魔法使ってたとか?
フィリップはダニエルに一瞬目線を向けると少しだけ迷う素振りを見せた。
「…最初は誰もアオイの言うことを信じていなかったのだが。アオイは自分は未来が見えるのだと言っていたんだ。」
「未来が?それで、まさかあおいさんの言った通りの事が現実世界でも起こって誰もが信じるようになったと?」
「あぁ。アオイが分かる未来は学園という限定された場所での本当に些細な事だけだったが…。」
──あおいさんは、この世界が舞台の話かゲームのストーリーを知っていたということ…?
「それなのにバッドエンドだったのですね。」
ダニエルはボーッと考え込んでいる様子の凛花を見ると、組んでいた腕を解き身を乗り出した。
「アオイやリンカが言うバッドエンドとは何を示すんだ?」
「その人にとって良くない終わり方…要するに失敗したってことです。話を聞く限りではあおいさんの場合宰相の息子と結婚をして幸せになることが最終目標だったのでしょうね。もしくはその前にフィリップ殿下と婚約が出来ていたらそちらでも。そのどちらも叶わなかったのですから、あおいさんにしてみればバッドエンド、失敗なんです。」
──あおいさん、卒業パーティーで婚約破棄されて追放されたりしたのかな…?ちょっとモブ的な立ち位置で見てみたかったかも…。
フィリップとダニエルは頷き合うと同時に立ち上がった。
「リンカ、また時間のある時にゆっくり話を聞かせて欲しい。とりあえず今から私は父上に会ってくる。ダニエルから頼まれた書類も渡さないといけないからな。」
「頼む、なるべく早くな。」
「なんだ、一日ですら我慢できないのか?」
「?」
笑いながら出て行ったフィリップを見送ると、ダニエルは凛花を振り返り手を差し出した。
「帰ろう。今日は騎士団にはもう行かなくていいから。」
「どういうこと?」
「取り調べはもういい。殿下が話をつけてくれるはずだ。」
「そうじゃなくて。私、これからどうなるの?もうダニエルの相手役は必要ないんでしょ?」
「何の話だ?」
ダニエルは動かない様子の凛花を見ると差し出した手を下ろし、代わりに部屋の扉を開けた。ダニエルの横を通り凛花が廊下に出ようとしたところでスっと腰に手が回され、まるで何事も無かったかのように二人は廊下を歩き出した。
「……フィリップ殿下に私を会わせてあおいさんや日本の話を聞き出したかっただけでしょ?」
「それはフィルの命令だ。」
「最初から私を監視してたじゃない?だから日本の記憶があると分かったら直ぐにここへ連れて来たの?」
「それは違う。ただフィルが──。ごめん、こんな話ここでこれ以上続ける訳にはいかない。」
「あ……そうだよね。ごめんなさい。」
「帰ってゆっくり話そう。」
──私の帰る場所なんてこの世界には何処にもないんだった……。ダニエルのこと頼れなくなった時、字も読めない私に一体何ができるんだろう。
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