8 / 45
1
語り過ぎ注意
しおりを挟む
馬車は門から出ると王都の道を伯爵邸へと戻って行く。またもやダニエルと二人きりの移動になったが凛花は騎士団に来る時よりも随分気持ちに余裕が出来ていた。
「さっき会ったカタリーナ殿下って王女様なんですよね?」
凛花の問いに窓の外を見ていたダニエルは振り向きながら頷いた。
「そうだ。この国の事も記憶にないのか?カタリーナ殿下は第一王女、兄の王太子殿下と妹の第二王女殿下の三人兄妹だ。」
──王子一人と王女二人。王女に思いを寄せられる騎士団副団長。多分登場人物はまだ出揃ってないはずだから、ゲームにしても小説にしても話は始まっていないって事かな?
「気になる事でも?」
「あ、ダニエル様はカタリーナ殿下と…その…仲が良いのかな~なんて。」
「仲が良かったらあんな風に逃げたりしない。」
顔を少しだけ顰めたダニエルは腕を組んで後ろにもたれかかった。少しだけ開いた馬車の窓から入る風にさらさらの髪がなびいて思わず見惚れてしまいそうな姿だ。
「じゃあ、カタリーナ殿下の片思いなんですね。ダニエル様はカッコイイからモテるんでしょう?カタリーナ殿下の他にも沢山の女性から言い寄られているんじゃないですか?」
ダニエルは憂鬱そうな顔で凛花を見返した。
「……知っているか?近頃この国では騎士団に入るには顔が良ければ実力など要らないのではないかと囁かれはじめている。」
「顔?だって、騎士団って王族や国を守ったりするのが仕事なんですよね?顔なんて関係ないんじゃ?」
「もちろんだ。だがカタリーナ殿下に気に入られた者が他より優遇されているのも事実だ。第一騎士団はろくに剣も振れないのに見目ばかり整った若者が集まるようになった。」
「第一騎士団……」
──カタリーナ殿下逆ハー状態?
凛花はふとダニエルの顔を見上げた。
「ダニエル様は第二騎士団ですよね?」
「今の所は、な。」
「異動の話でもあるんですか?」
「……殿下からな。もしそうなれば──」
そこではっとした様子でダニエルは顔を上げると信じられないというように凛花に目をやった。
「俺は何故こんなことをお前に話しているんだ……?」
「私が聞いたからでしょ?」
「いや……そうだが。」
ダニエルは余計な話をしてしまったと反省をしたのか、それからしばらくは何も話をしようとしなかった。
──せっかく情報が手に入りそうだったのに!
溜息をつくと凛花は今ダニエルから得たばかりの情報を頭の中で整理することにした。とはいうもののそれもたいした量ではないためあっという間に終わってしまう。
凛花は横目でチラッとダニエルの方を見た。窓の外を見つめているようだ。
「もう一つだけ聞いてもいいですか?」
「…答えられることならば。」
「ダニエル様はどなたかと婚約していらっしゃるのですか?」
「…」
答えられないと言うことだろうかと凛花が考えていると、ダニエルが凛花の方に身を乗り出してきた。
「お前はどうなんだ?婚約者の記憶はないのか?」
「私?」
「人に聞くのならばまず自分の事を話すべきだ。」
「…婚約した記憶はありませんが、多分、記憶が戻ったとしてもそういう相手はいなかったと思いますよ?」
──だって高校三年ではじめて付き合った相手には一週間で振られちゃったし。手を繋いで一緒に帰っただけだったし……。
「…何を考えている?」
「へ?」
いつの間にかダニエルの顔が近くなっている事に気が付いた。気付けばダニエルは席を移動して隣に来ている。
「ちょっと、近いですって!」
「お前、何か思い出した事でもあるのではないか?ときどき考え込んでいるのはそういう事だろう?」
琥珀色の瞳が凛花を覗き込んでくる。
「私は質問にきちんと答えました!ダニエル様は?」
負けじと睨み返すように見上げる。ダニエルとはこうして至近距離で見つめ合ってばかりだと言うのに甘い雰囲気にちっともならないというのはどうしたことだろうか…。
「婚約はしていない。」
ダニエルも凛花から目を逸らさずに真剣な表情をして答える。
「そうですか。」
『 もう一つだけ聞きたい事』の答えを貰ってしまうと、またもう一つの聞きたい事がわいてくる。
──好きな人、いるのかな?
その質問は次の機会まで取っておくことにした凛花は、とりあえずイケメンとの睨めっこの負けを認め、琥珀色の瞳から目を逸らした。
「さっき会ったカタリーナ殿下って王女様なんですよね?」
凛花の問いに窓の外を見ていたダニエルは振り向きながら頷いた。
「そうだ。この国の事も記憶にないのか?カタリーナ殿下は第一王女、兄の王太子殿下と妹の第二王女殿下の三人兄妹だ。」
──王子一人と王女二人。王女に思いを寄せられる騎士団副団長。多分登場人物はまだ出揃ってないはずだから、ゲームにしても小説にしても話は始まっていないって事かな?
「気になる事でも?」
「あ、ダニエル様はカタリーナ殿下と…その…仲が良いのかな~なんて。」
「仲が良かったらあんな風に逃げたりしない。」
顔を少しだけ顰めたダニエルは腕を組んで後ろにもたれかかった。少しだけ開いた馬車の窓から入る風にさらさらの髪がなびいて思わず見惚れてしまいそうな姿だ。
「じゃあ、カタリーナ殿下の片思いなんですね。ダニエル様はカッコイイからモテるんでしょう?カタリーナ殿下の他にも沢山の女性から言い寄られているんじゃないですか?」
ダニエルは憂鬱そうな顔で凛花を見返した。
「……知っているか?近頃この国では騎士団に入るには顔が良ければ実力など要らないのではないかと囁かれはじめている。」
「顔?だって、騎士団って王族や国を守ったりするのが仕事なんですよね?顔なんて関係ないんじゃ?」
「もちろんだ。だがカタリーナ殿下に気に入られた者が他より優遇されているのも事実だ。第一騎士団はろくに剣も振れないのに見目ばかり整った若者が集まるようになった。」
「第一騎士団……」
──カタリーナ殿下逆ハー状態?
凛花はふとダニエルの顔を見上げた。
「ダニエル様は第二騎士団ですよね?」
「今の所は、な。」
「異動の話でもあるんですか?」
「……殿下からな。もしそうなれば──」
そこではっとした様子でダニエルは顔を上げると信じられないというように凛花に目をやった。
「俺は何故こんなことをお前に話しているんだ……?」
「私が聞いたからでしょ?」
「いや……そうだが。」
ダニエルは余計な話をしてしまったと反省をしたのか、それからしばらくは何も話をしようとしなかった。
──せっかく情報が手に入りそうだったのに!
溜息をつくと凛花は今ダニエルから得たばかりの情報を頭の中で整理することにした。とはいうもののそれもたいした量ではないためあっという間に終わってしまう。
凛花は横目でチラッとダニエルの方を見た。窓の外を見つめているようだ。
「もう一つだけ聞いてもいいですか?」
「…答えられることならば。」
「ダニエル様はどなたかと婚約していらっしゃるのですか?」
「…」
答えられないと言うことだろうかと凛花が考えていると、ダニエルが凛花の方に身を乗り出してきた。
「お前はどうなんだ?婚約者の記憶はないのか?」
「私?」
「人に聞くのならばまず自分の事を話すべきだ。」
「…婚約した記憶はありませんが、多分、記憶が戻ったとしてもそういう相手はいなかったと思いますよ?」
──だって高校三年ではじめて付き合った相手には一週間で振られちゃったし。手を繋いで一緒に帰っただけだったし……。
「…何を考えている?」
「へ?」
いつの間にかダニエルの顔が近くなっている事に気が付いた。気付けばダニエルは席を移動して隣に来ている。
「ちょっと、近いですって!」
「お前、何か思い出した事でもあるのではないか?ときどき考え込んでいるのはそういう事だろう?」
琥珀色の瞳が凛花を覗き込んでくる。
「私は質問にきちんと答えました!ダニエル様は?」
負けじと睨み返すように見上げる。ダニエルとはこうして至近距離で見つめ合ってばかりだと言うのに甘い雰囲気にちっともならないというのはどうしたことだろうか…。
「婚約はしていない。」
ダニエルも凛花から目を逸らさずに真剣な表情をして答える。
「そうですか。」
『 もう一つだけ聞きたい事』の答えを貰ってしまうと、またもう一つの聞きたい事がわいてくる。
──好きな人、いるのかな?
その質問は次の機会まで取っておくことにした凛花は、とりあえずイケメンとの睨めっこの負けを認め、琥珀色の瞳から目を逸らした。
0
お気に入りに追加
102
あなたにおすすめの小説
【完結】ペンギンの着ぐるみ姿で召喚されたら、可愛いもの好きな氷の王子様に溺愛されてます。
櫻野くるみ
恋愛
笠原由美は、総務部で働くごく普通の会社員だった。
ある日、会社のゆるキャラ、ペンギンのペンタンの着ぐるみが納品され、たまたま小柄な由美が試着したタイミングで棚が倒れ、下敷きになってしまう。
気付けば豪華な広間。
着飾る人々の中、ペンタンの着ぐるみ姿の由美。
どうやら、ペンギンの着ぐるみを着たまま、異世界に召喚されてしまったらしい。
え?この状況って、シュール過ぎない?
戸惑う由美だが、更に自分が王子の結婚相手として召喚されたことを知る。
現れた王子はイケメンだったが、冷たい雰囲気で、氷の王子様と呼ばれているらしい。
そんな怖そうな人の相手なんて無理!と思う由美だったが、王子はペンタンを着ている由美を見るなりメロメロになり!?
実は可愛いものに目がない王子様に溺愛されてしまうお話です。
完結しました。
求職令嬢は恋愛禁止な竜騎士団に、子竜守メイドとして採用されました。
待鳥園子
恋愛
グレンジャー伯爵令嬢ウェンディは父が友人に裏切られ、社交界デビューを目前にして無一文になってしまった。
父は異国へと一人出稼ぎに行ってしまい、行く宛てのない姉を心配する弟を安心させるために、以前邸で働いていた竜騎士を頼ることに。
彼が働くアレイスター竜騎士団は『恋愛禁止』という厳格な規則があり、そのため若い女性は働いていない。しかし、ウェンディは竜力を持つ貴族の血を引く女性にしかなれないという『子竜守』として特別に採用されることになり……。
子竜守として働くことになった没落貴族令嬢が、不器用だけどとても優しい団長と恋愛禁止な竜騎士団で働くために秘密の契約結婚をすることなってしまう、ほのぼの子竜育てありな可愛い恋物語。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
乙女ゲームの悪役令嬢は断罪回避したらイケメン半魔騎士に執着されました
白猫ケイ
恋愛
【本編完結】魔法学園を舞台に異世界から召喚された聖女がヒロイン王太子含む7人のイケメンルートを選べる人気のゲーム、ドキ☆ストの悪役令嬢の幼少期に転生したルイーズは、断罪回避のため5歳にして名前を変え家を出る決意をする。小さな孤児院で平和に暮らすある日、行き倒れの子供を拾い懐かれるが、断罪回避のためメインストーリー終了まで他国逃亡を決意。
「会いたかったーー……!」
一瞬何が起きたか理解が遅れる。新聞に載るような噂の騎士に抱きすくめられる様をみた、周囲の人がざわめく。
【イラストは自分で描いたイメージです。サクッと読める短めのお話です!ページ下部のいいね等お気軽にお願いします!執筆の励みになります!】
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!
新婚なのに旦那様と会えません〜公爵夫人は宮廷魔術師〜
秋月乃衣
恋愛
ルクセイア公爵家の美形当主アレクセルの元に、嫁ぐこととなった宮廷魔術師シルヴィア。
宮廷魔術師を辞めたくないシルヴィアにとって、仕事は続けたままで良いとの好条件。
だけど新婚なのに旦那様に中々会えず、すれ違い結婚生活。旦那様には愛人がいるという噂も!?
※魔法のある特殊な世界なので公爵夫人がお仕事しています。
【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?
雨宮羽那
恋愛
元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。
◇◇◇◇
名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。
自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。
運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!
なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!?
◇◇◇◇
お気に入り登録、エールありがとうございます♡
※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。
※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。
※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる