異世界転移って?とりあえず設定を教えて下さい

ゆみ

文字の大きさ
上 下
7 / 45
1

人助けしたようです

しおりを挟む
「そろそろさっきの……殿下からは見えないと思いますが?」
「馬車までもう少しだ。このままで。」
「降ろして下さい。」
 流石に身体を鍛えた騎士でもお姫様抱っこで移動するのはキツいだろうと、凛花は先程からダニエルに同じことを繰り返し言っているのだが一向に降ろして貰えない。

「逃げないのも分かってるって言ったのに……。」
「……」
 仕方ないので大人しくしているとダニエルの上着の内ポケットから例の紙が少しだけ覗いているのに気が付いた。

──今ならダニエルも両手が塞がってる。ひょっとしてチャンス?

 そっとダニエルの胸元に手を伸ばすとダニエルはその場で立ち止まった。恐る恐る視線を上げるとやはりダニエルも凛花の事を凝視している。凛花はそれ以上動く訳にもいかないので内ポケットの紙を掴んだまま、目だけは逸らさずにどうしたものかと様子を伺う。

「…」
「…」

──いや、何か言わないの?止めろとか。落とされてもいいのか?とか。

 もう暫く固まっていたがダニエルもまた動かないので試しにそっと手を動かし紙を引き抜いてみる。…やはりダニエルはされるがままで凛花の方をじっと見つめているだけだ。凛花はダニエルの目を見つめたまま紙を引き抜くことに成功した。

「それを見て何が分かる?何か思い当たることでも?」
 やっと口を開いたダニエルは何を考えているのか、やはり表情からは読み取れそうにない。
「…紙の感触と、インクのかすれ具合…でしょうか?」
「紙の感触?」
「ダニエル様はとても滑らかにペンを運んでいらしたのでそれが少しだけ気になっていたのです。」
 ダニエルは降参したのかその場に凛花をそっと降ろした。ここでこれを見てもいいという事なのだろうか?どうしようかと二つ折りにされた紙を持ったまま立ち尽くしていると、ダニエルが早く読めとでも言うように手を振った。
 小さく頷きながら紙を開く。注意深く見てみるがペンが引っかかった様子もインクが滲んだ様子もない。まるでつるつるの紙に書いたかのような綺麗な線だ。
 凛花は指でその文字をそっと撫でてみた。紙の表面には指で触って分かるほどの凹凸はないようだ。

「不思議…」

──随分荒い紙に見えたのは気のせいだったかな?もしかして紙を作る原料が違ったりする?

 思わず自嘲の笑みが零れてしまう。
 僅かに微笑みながら紙に書かれた文字を指でたどるその姿を、ダニエルはただ黙って見つめていた。
 やがて凛花はその紙を元のように2つに折りたたむと、ダニエルに差し出した。
「私の気のせいでした。これ、返します。ありがとうございました。」
「気のせい?」
 ダニエルは怪しむような顔をするものの紙を受け取ろうとはしない。
「あの…これ。」
 尚も紙を突き出す凛花に向けて、ダニエルは首を振った。
「え?」
「それはもう処分するものだ。何か気になる事があるのならば持っていればいい。」
「…そう、ですか。別にもう良かったんですけど。」
 仕方なく紙を更に半分に折ると、ワンピースにポケットがないかとスカートの両脇を探ってみたがそれらしきものはなさそうだ。
「何をしている?」
「いえ、ポケットがないかと思って……」
「ポケット?」
「はい、この紙を入れようかと。」
 ダニエルは凛花の顔をじっくりと眺めると、自らの胸元を指さした。
「女性の服のポケットは大抵が胸元にあるものだと思っていたのだが…違うのか?」

──は?シャツじゃあるまいしワンピースの胸元にポケットなんかある訳が……。

 ダニエルの言う通りに胸元に視線を向けると──あった、ポケットだ。ハンカチや花などを挟むためのものだろうか?何やら穴まで空いている、飾りではないきちんとしたポケットがついていた。

「あ、ほんとだ。珍しいデザインですね、気付きませんでした。」
 ダニエルに見守られながら胸ポケットに小さく折りたたんだ紙を入れる。
「珍しい……?」
「普通スカートのポケットは両側にあるものじゃないですか?」
 凛花は納得していない様子のダニエルを見て、イケメン騎士は女の子の服装には疎いのだろうかと考えていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました

かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中! そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……? 可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです! そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!? イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!! 毎日17時と19時に更新します。 全12話完結+番外編 「小説家になろう」でも掲載しています。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

【完結】100日後に処刑されるイグワーナ(悪役令嬢)は抜け毛スキルで無双する

みねバイヤーン
恋愛
せっかく悪役令嬢に転生したのに、もう断罪イベント終わって、牢屋にぶち込まれてるんですけどー。これは100日後に処刑されるイグワーナが、抜け毛操りスキルを使って無双し、自分を陥れた第一王子と聖女の妹をざまぁする、そんな物語。

【完結】人生2回目の少女は、年上騎士団長から逃げられない

櫻野くるみ
恋愛
伯爵家の長女、エミリアは前世の記憶を持つ転生者だった。  手のかからない赤ちゃんとして可愛がられたが、前世の記憶を活かし類稀なる才能を見せ、まわりを驚かせていた。 大人びた子供だと思われていた5歳の時、18歳の騎士ダニエルと出会う。 成り行きで、父の死を悔やんでいる彼を慰めてみたら、うっかり気に入られてしまったようで? 歳の差13歳、未来の騎士団長候補は執着と溺愛が凄かった! 出世するたびにアプローチを繰り返す一途なダニエルと、年齢差を理由に断り続けながらも離れられないエミリア。 騎士団副団長になり、団長までもう少しのところで訪れる愛の試練。乗り越えたダニエルは、いよいよエミリアと結ばれる? 5歳で出会ってからエミリアが年頃になり、逃げられないまま騎士団長のお嫁さんになるお話。 ハッピーエンドです。 完結しています。 小説家になろう様にも投稿していて、そちらでは少し修正しています。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜

楠ノ木雫
恋愛
 病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。  病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。  元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!  でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?  ※他の投稿サイトにも掲載しています。

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

処理中です...