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異世界にいる現実の自分?
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水を貰って一息ついていると先程の伯爵夫人が戻ってきた。どうやら凛花の着替えを手配してくれていたらしい。
「ごめんなさいね、娘がいないものだから急遽かき集めた服ばかりで…。とりあえずの間に合わせにはなるといいのだけれど。」
急遽間に合わせたにしては多くのドレスが並べられた部屋に通されると、使用人が手伝ってくれて身支度を整えてくれる。いわゆるコルセット的なものは普段は使用しないらしく、凛花にと選ばれたのはゆったりとしたワンピースだった。
部屋の様子を眺めた感じでは電気やそれに代わるようないわゆる魔術がらみの物は置いていない…気がする。
──魔法のない世界なのかな…。娘も居ないって今言ってたから伯爵家でイケメン騎士と聖女が巡り会うルートは消えた…。そもそもゲームの世界じゃないのかもしれない。
凛花はあと1ヶ月で高校を卒業する予定だった。やっとこの前受験が終わって進路が決まったばかりだ。あとは一人暮らしを始める為の準備を進めれば春には晴れて女子大生になるはずだった。
受験勉強のために我慢していたネット小説を再び読み始めたのはほんの数日前の事だった。ささやかな鬱憤を晴らしてくれてサクッと読み切れる物を片っ端から読み漁った。だから内容なんてはっきり言ってもう頭の中に留まっていない。
どの話のどのポジションにダニエル第二騎士団副団長が出てきたのかすら分からない…。
着替え終わって鏡の中に映る自分の姿を改めて見る。見慣れた黒髪に焦げ茶の瞳…。この世界にいる誰かに転生した訳でもなく相馬凛花の姿のままだ。容姿に恵まれた美少女でもない、魔術を操れる能力もきっとないのだろう。
──私本当はこんな事に巻き込まれるはずじゃなかったんじゃない?おっちょこちょい神様がうっかりミスしたパターン?それとも勇者召喚に巻き込まれたとか…?
「リンカ様、大丈夫ですか?少しお座りになる?」
優しくセリーナ伯爵夫人が声をかけてくれる。夫人は伯爵との間に二人の息子がいると先程教えてくれた。今は仕事に行っているためここには居ないようだ。
「すみません、大丈夫です。ただ、私これからどうなるんだろうって…。少し考え過ぎてしまいました。」
「不安に思われるのも無理もないことですわ。きれいに記憶を失っているのですから。きっと騎士団でいろいろと調べて下さるはずですわ。何か分かることも出てくるでしょう。」
凛花には自分の捜索願いが出ていないことはもう分かっている。自分を探している人なんてこの世界にはいるはずがない。騎士団はきっと現代で言うところの警察署だ。保護されて取り調べを受けて、それでも何も分からなかったらその人は何処にやられるのだろう?犯罪者じゃないから刑務所じゃないだろう。ひょっとして生活保護施設?そんなものがこちらにも存在しているのだろうか?
──あ~!調べたい…。
日本で記憶喪失の保護された人がその後どうしているのか、そんな知識は凛花の頭の中には入っていない。
知りたい情報をいつでも自分の方から取りに行けるあの環境は知らないうちに凛花を蝕んでいたのだ。調べて答えを得るともう満足してその答えはどこかへ流れていく──全く頭の中に定着しない。分からなくなればまた調べればいいのだから…。
「ダニエル様がお待ちです。」
使用人が遠慮がちに凛花に声を掛けた。
「今、行きます。」
凛花は鏡の中の自分を最後にもう一度見ると、その耳にそっと手をやった。三日前に内緒で開けたばかりのピアスホール。そこには飾りも何も無い銀色の玉が付いただけのピアスがついたままだった。先程着替える際に使用人が気が付いて宝石の付いた物に変えるかと聞いてきたが、まだ穴を開けたばかりだからと丁重にお断りした。
耳がわずかに熱を帯び、じんじんと痛むのが分かった。
──きっと、これは夢じゃないんだ。昨日の私から続いた現実…。
「ごめんなさいね、娘がいないものだから急遽かき集めた服ばかりで…。とりあえずの間に合わせにはなるといいのだけれど。」
急遽間に合わせたにしては多くのドレスが並べられた部屋に通されると、使用人が手伝ってくれて身支度を整えてくれる。いわゆるコルセット的なものは普段は使用しないらしく、凛花にと選ばれたのはゆったりとしたワンピースだった。
部屋の様子を眺めた感じでは電気やそれに代わるようないわゆる魔術がらみの物は置いていない…気がする。
──魔法のない世界なのかな…。娘も居ないって今言ってたから伯爵家でイケメン騎士と聖女が巡り会うルートは消えた…。そもそもゲームの世界じゃないのかもしれない。
凛花はあと1ヶ月で高校を卒業する予定だった。やっとこの前受験が終わって進路が決まったばかりだ。あとは一人暮らしを始める為の準備を進めれば春には晴れて女子大生になるはずだった。
受験勉強のために我慢していたネット小説を再び読み始めたのはほんの数日前の事だった。ささやかな鬱憤を晴らしてくれてサクッと読み切れる物を片っ端から読み漁った。だから内容なんてはっきり言ってもう頭の中に留まっていない。
どの話のどのポジションにダニエル第二騎士団副団長が出てきたのかすら分からない…。
着替え終わって鏡の中に映る自分の姿を改めて見る。見慣れた黒髪に焦げ茶の瞳…。この世界にいる誰かに転生した訳でもなく相馬凛花の姿のままだ。容姿に恵まれた美少女でもない、魔術を操れる能力もきっとないのだろう。
──私本当はこんな事に巻き込まれるはずじゃなかったんじゃない?おっちょこちょい神様がうっかりミスしたパターン?それとも勇者召喚に巻き込まれたとか…?
「リンカ様、大丈夫ですか?少しお座りになる?」
優しくセリーナ伯爵夫人が声をかけてくれる。夫人は伯爵との間に二人の息子がいると先程教えてくれた。今は仕事に行っているためここには居ないようだ。
「すみません、大丈夫です。ただ、私これからどうなるんだろうって…。少し考え過ぎてしまいました。」
「不安に思われるのも無理もないことですわ。きれいに記憶を失っているのですから。きっと騎士団でいろいろと調べて下さるはずですわ。何か分かることも出てくるでしょう。」
凛花には自分の捜索願いが出ていないことはもう分かっている。自分を探している人なんてこの世界にはいるはずがない。騎士団はきっと現代で言うところの警察署だ。保護されて取り調べを受けて、それでも何も分からなかったらその人は何処にやられるのだろう?犯罪者じゃないから刑務所じゃないだろう。ひょっとして生活保護施設?そんなものがこちらにも存在しているのだろうか?
──あ~!調べたい…。
日本で記憶喪失の保護された人がその後どうしているのか、そんな知識は凛花の頭の中には入っていない。
知りたい情報をいつでも自分の方から取りに行けるあの環境は知らないうちに凛花を蝕んでいたのだ。調べて答えを得るともう満足してその答えはどこかへ流れていく──全く頭の中に定着しない。分からなくなればまた調べればいいのだから…。
「ダニエル様がお待ちです。」
使用人が遠慮がちに凛花に声を掛けた。
「今、行きます。」
凛花は鏡の中の自分を最後にもう一度見ると、その耳にそっと手をやった。三日前に内緒で開けたばかりのピアスホール。そこには飾りも何も無い銀色の玉が付いただけのピアスがついたままだった。先程着替える際に使用人が気が付いて宝石の付いた物に変えるかと聞いてきたが、まだ穴を開けたばかりだからと丁重にお断りした。
耳がわずかに熱を帯び、じんじんと痛むのが分かった。
──きっと、これは夢じゃないんだ。昨日の私から続いた現実…。
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