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落ちる落ちる
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なぜかわからないけれど、車に乗っている。
運転しているのは、なぜかわからないけど会社でたまに話す程度の、でも女性社員からはイケメンだとささやかれている、ちょっとナルシストな男の先輩。
私はこの先輩に恋愛感情は抱いていないけれど、思いっきりB型特有のマイペースさを持つこの先輩を、なんとなく面白いと思っている。ナルシストなところもいい。
で、なぜこの先輩が運転する車に私は乗っているのだろう。恋人でもないのに。仕事で乗っていたのだろうか。
考えようとしてもなぜかうまく考えられない。
先輩は何もしゃべらないし、私も話かけない。「この状況はどうなってこうなってるんですか?」こう聞きたいのに声にならない。
先輩が運転する車は進んでいく。辺りは真っ暗でどこを走っているのか全くわからない。
近所ではないことはわかる。周りの景色もはっきりとせずなぜかこの世じゃないような寂しさを感じた。
すぐに、目の前にT字路が現れた。右か左か。先輩はどっちへウィンカーをだすのだろうか。
しかし、ウィンカーは点滅しない。なんだか違和感があったが黙っていた。
と、車は速度を落とすことなく、T字路を真っ直ぐ突き進んだ。
右にも左にも曲がらなかった。
なぜ?と思う間もなく、体が宙に浮く感覚がした。
何?何が起きたの?なんで曲がらないの?先輩に聞こうと口を開きかけた時、車ごと下に落ちていることに気がついた。
T字路の先はどうやら崖になっていて、私達はそこから落ちたのだ。
そういえばT字路の先にはガードレールがなかった。先輩は崖に気がつかなかったのだろうか。
私達は車ごと落ちて落ちて、どんどん落ちている。不思議なことに車は平行を保ちながら落ちている。
私は落ちる恐怖を全身に感じている。でも不思議なことに心は穏やかに落ち着いている。ただ少し身体に力が入る。地面に激突した時の衝撃に備えて。
ああ、もうすぐ私は死ぬんだ、ああ、そうか。
ふと先輩の方へ目をやると、
先輩が困った顔をして
「山口、すまん。」
と一言だけつぶやいた。
T字路に気がつかなかったこと、速度を落とさなかったこと、道を曲がらなかったこと、二人で車にのることになった理由とかなんとか、いろいろなことを悪いと思って、謝ってきたんだろうな。
ま、今更遅いけど。
いいたいことは他にあるはずなのに、なぜか私は、
「別にいいですよ。」
と答えていた。ちょっと笑いそうだった。
そして二人ともまた黙った。
車と先輩と私は静かに落ちている。
落ちる落ちる。落ちる時間がやたらと長い。死ぬときはそういうものなのかもしれない。一瞬の時間の中で走馬灯のようにいろいろなものを考えたりできるようだ。
だが、いつかは恐怖の瞬間がやってくる。それはもう、すぐ。
運転しているのは、なぜかわからないけど会社でたまに話す程度の、でも女性社員からはイケメンだとささやかれている、ちょっとナルシストな男の先輩。
私はこの先輩に恋愛感情は抱いていないけれど、思いっきりB型特有のマイペースさを持つこの先輩を、なんとなく面白いと思っている。ナルシストなところもいい。
で、なぜこの先輩が運転する車に私は乗っているのだろう。恋人でもないのに。仕事で乗っていたのだろうか。
考えようとしてもなぜかうまく考えられない。
先輩は何もしゃべらないし、私も話かけない。「この状況はどうなってこうなってるんですか?」こう聞きたいのに声にならない。
先輩が運転する車は進んでいく。辺りは真っ暗でどこを走っているのか全くわからない。
近所ではないことはわかる。周りの景色もはっきりとせずなぜかこの世じゃないような寂しさを感じた。
すぐに、目の前にT字路が現れた。右か左か。先輩はどっちへウィンカーをだすのだろうか。
しかし、ウィンカーは点滅しない。なんだか違和感があったが黙っていた。
と、車は速度を落とすことなく、T字路を真っ直ぐ突き進んだ。
右にも左にも曲がらなかった。
なぜ?と思う間もなく、体が宙に浮く感覚がした。
何?何が起きたの?なんで曲がらないの?先輩に聞こうと口を開きかけた時、車ごと下に落ちていることに気がついた。
T字路の先はどうやら崖になっていて、私達はそこから落ちたのだ。
そういえばT字路の先にはガードレールがなかった。先輩は崖に気がつかなかったのだろうか。
私達は車ごと落ちて落ちて、どんどん落ちている。不思議なことに車は平行を保ちながら落ちている。
私は落ちる恐怖を全身に感じている。でも不思議なことに心は穏やかに落ち着いている。ただ少し身体に力が入る。地面に激突した時の衝撃に備えて。
ああ、もうすぐ私は死ぬんだ、ああ、そうか。
ふと先輩の方へ目をやると、
先輩が困った顔をして
「山口、すまん。」
と一言だけつぶやいた。
T字路に気がつかなかったこと、速度を落とさなかったこと、道を曲がらなかったこと、二人で車にのることになった理由とかなんとか、いろいろなことを悪いと思って、謝ってきたんだろうな。
ま、今更遅いけど。
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「別にいいですよ。」
と答えていた。ちょっと笑いそうだった。
そして二人ともまた黙った。
車と先輩と私は静かに落ちている。
落ちる落ちる。落ちる時間がやたらと長い。死ぬときはそういうものなのかもしれない。一瞬の時間の中で走馬灯のようにいろいろなものを考えたりできるようだ。
だが、いつかは恐怖の瞬間がやってくる。それはもう、すぐ。
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