少女は淑女で最強不死者

きーぱー

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地下遺跡編

64話 奴隷紋

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 二手に分かれて調査を進めた俺達。
 
 俺は、ゼス班に同行して本の山に遭遇した。
 古代文献だと、ゼスとヴェロニカが言うがそれがどれだけの価値があるものか見当もつかなかった。

 数冊の本を手に取り、ページを捲るゼスの手がピタリと止まった。

 「こ… これは」

 ゼスは、ダンジョンや遺跡の調査に必要になると嗜み程度に覚えた知識で古代文字を読んでいく。
 
 「どうしたの? 」
 
 ページを覗き込むとゼスが口走った。
 そこには、2つの魔法陣のようなものが書かれていたのだった。

 「これは… これは、世に出してはならない物かもしれない」
 「一体、何が書かれているの? 」
 「人を使役する"奴隷紋"と魔獣を使役する"魔獣紋"が記されている」

 奴隷紋と魔獣紋… 
 魔獣紋は別にして、人を使役する奴隷紋は、あまり良い響きではなかった。

 ゼスは、その本を自分のバッグに入れて個室にある本の数を大雑把に数えると待ち合わせ場所に戻り風音達と合流すると話した。

 ▽▽▽

 同じ頃、風音達の班も左通路の行き止まりで調査は完了していた。

 風音達が進んだ左通路は、この遺跡を警備する者の居住区になっていた。
 突き当たりの部屋には、ベッドと小さな机、丸いテーブルに椅子が3つ置かれていた。あまりにも、物が置いてない様子を見るからに、ここを意図的に引き上げたと予想された。

 風音達も、これ以上調べるものが無いのでゼス班との合流を考え、待ち合わせ場所に戻る事にしたのだ。
 途中で、通路の片側が広くなっていた。そこには飲食用の水だろうか、樽が数個置かれていた。中は空。広くなったスペースは貯蔵庫だろうとトーマスが言う。

 風音班は、待ち合わせ場所に戻ってきた。
 トーマスは、ランタンの明かりを頼りに左通路の図を紙に書き込む作業をはじめていた。暫くすると、ゼス班も待ち合わせ場所に戻ってきた。

 「おおっ ゼス! 何事も無かったか? こっちは空振りじゃ」
 「かざねさん… そっかあ 左は駄目だったか」

 少し、表情に陰りがあるゼスの微妙な空気を察知した風音。

 「ゼス 何があった? 話せ」
 「実は、古代文献を500冊弱だが発見した」
 「な… なんだってえ!? 」

 トーマスが、作業を止めゼスに喰らいついた。

 「ちょ… ちょっと落ち着いて トーマスさん」
 「落ち着いて入られないだろ!? 新たな古代文献の発見なんだ 行こう」
 「待ってくれ… これを見てくれ」

 トーマスは、すぐに右通路に向おうと言い出す。しかし、ゼスが制止する。
 ゼスは、自分のバッグに入れてきた本を取り出しトーマスに渡す。

 「おおっ!! まさに古代文献だ 後、500冊も… 大発見だよゼスくん!! 」
 「ここを見てくれ… 」

 ゼスはトーマスに奴隷紋と魔獣紋が記されているページを開いて見せた。

 「これは… 」

 トーマスの顔色が悪くなっていくのが解る…

 「なんじゃ どういう事か説明出来ぬのか? 」
 「かざねさん… この本に古代魔法が書かれているんだ」

 ゼスが風音に説明をはじめた。話を続けるゼス。

 「そこには奴隷紋と魔獣紋が記されているのさ」
 「奴隷紋と魔獣紋!? 」
 「ああ 何となく解るだろ? "奴隷紋" 人に、この紋章を刻む事で使役するのさ その人の意思に関係なく操る魔法 "魔獣紋"にしても同じ事だ これが… これが、世に出回れば大変な事になると思うんだ」

 ……

 皆が、ゼスの言葉の意味を考えた。
 確かに、自分の意思で動くならまだしも 他人に紋章を刻まれ言う事を聞かされる者が作られる事はあってはならない事だ。
 
 「ふむ 燃やしてしまうか? その本」

 風音が唐突に言い出した。トーマスが慌てて、そんな事はしないでくれと頼む。

 「ちょ!? ちょっと待ってくれ! 結論が早過ぎる かざねくん! もう少し、待ってくれないか 古代文献を燃やすなんて… 言わないでくれ」

 トーマスやゼスの話によれば、嘗てディオルド王国では奴隷制度は存在していたという。現国王から、3代遡った約100年前に廃止されたらしい。
 これまでの国王は、徹底した奴隷制度の撤廃を命じて根絶に当ったのだという。

 今、また奴隷紋が世に出回れば国に混乱を招く恐れもある。
 しかし、トーマスにしてみれば貴重な文献。純粋に、資料として確保しておきたいのだという。

 「ゼス 奴隷紋に関する本だけ、わしのところに持ってこい」
 「何故だ? どうしてだ かざねさん? 」
 「それらに関する書物だけ わしが預かる 読みたい時はわしの元に来れば良いだけじゃ トーマス 今回は、これで手を打っておけ」

 トーマスは、納得して奴隷紋と魔獣紋に関する本だけ風音の管理下に置くことにした。
 風音は、トーマスから本を預かると袖口の中にしまってしまった。

 兎に角、本の場所へ行きたいとトーマスが言う。
 トーマス、風音、ゼス、ヴェロニカ、カーベルの5名で右通路の突き当たりにあった個室に向った。その間、残りの者はこの場で待機となった。

 俺達は床に座り休憩を取る。
 しかし、何時もより空気が少しだけ重く感じていた。

 「なんか嫌だよね 同じ人間なのに"奴隷"って… 」

 カリナが口を開いた。何か重苦しい空気の原因。"奴隷"というキーワード。

 「魔獣にも強制って… なんか違う」

 例え、魔獣だろうが多少の信頼関係がなければ契約は成立しないとマリーが言う。確かにそうだ。
 俺とバジリスクにしても、依代にした経緯は別にして今では多少の信頼関係はあると思っている。 

 「まあ 危険な魔法は風音が預かることだし 安心していいと思うよ」
 「そうよね 風音様が管理していれば問題ないわね」
 「うんうん! 」

 俺達は、自分に言い聞かせるように安心する方向へ納得しようとしていた。

 ▽▽▽

 「これは凄い!? これほどの古代文献の発見は100年以上無かった!! 」

 トーマスは、本棚に挟まる本を見ながら身を振るわせた。
 古代文献を、読み解く事で現代で活かせる魔法等を研究テーマにしているトーマスは、ゼスに賛辞の言葉を送る。

 「素晴らしい!! ゼスくん これは世紀の大発見だ! 」

 風音が、奴隷紋等に関する書物を管理する事で、一抹の不安を残したがゼスにとっては北ダンジョン攻略に次ぐ大金星になったことは言うまでもなかった。

 腰を落として、奴隷紋に関する書物は無いか確認するゼスの背中に、風音が手を添える。

 「安心せえ ちゃんと、わしが守るからのう」
 「かざねさん… 」

 風音にも伝わったゼスの不安。
 少しでも、不安を取り除いてやろうと優しく声をかける風音の気持ちが、手に取るように解るゼスだった。

 奴隷紋に関する書物の選別をするゼスとトーマス。加えて、ゼスほどは古代文字を読めなかったがヴェロニカにも奴隷紋の記述が無いか、選別に参加させていた。
 風音とカーベルは、まったく読めないため立ち尽くすしかなかった。

 「確認には、まだ時間がかかるのかのう? 」

 明らかに、飽きた顔をしている風音。

 「ああ これだけの数だ 暫くかかるよ かざねさん」
 「ふむ カーベル 皆のところに戻って時間がかかると伝えよ それと、食事の用意をしとくように言ってくれ」
 「はい 了解ッス! 」

 こうして、俺達の元に戻ったカーベルから風音の伝言を聞き食事の用意をするためテントに戻った。 
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